水盤とブランカのショー
「さて、次は私の学びだが…」
私は子供達の前に立ち、目を輝かせて次の言葉を待つ皆を見回した。
「あの水盤を使用する」
巨木の根本に置いてある水盤を指差すと、全員が水盤へと目を向ける。
「あの水盤は様々な物を映し出す。見たいものを映し出す事もあれば、場合により自ら必要なものを映し出す事もある。水盤、こちらへ」
呼び掛けると、水盤が一瞬で移動してきた。
私は子供達と共に水盤を取り囲む。
ユラユラと揺れる水面が光を受け、美しく輝いている。
「これが水盤…」
「キラキラ輝いて綺麗…」
子供達が溜め息混じりに呟いている。
「では、先ず始めに…」
私は水盤を見つめ話しかける。
「水盤よ…保存したセレンツリーの林を見せてくれないか?」
『お安い御用じゃ…』
水盤の言葉と共に水面が凍りつく。
日が落ちたセレンツリーの林。
ツリーハウスから漏れる光が氷の中で、幻想的に揺れている。
「これは、夜のセレンツリーの林だ。水盤が、いつでも見られるように氷に閉じ込めた。順番に1人ずつ見てみなさい」
「は〜い」
子供達が1列に並び水盤を覗き込んでいく。
「うわ〜綺麗…」
「氷の中で灯りが揺れてるよ」
「夜は、こんなに綺麗なんだ…」
子供達は口々に感嘆の声を上げている。
全員が夜のセレンツリーの林を見終わると、水盤から氷がスッと消え去った。
『サビィ…子供達に、とあるショーを見せたいのじゃが…』
水盤が囁くように言った。
私は顔を寄せソッと問い返す。
「ショー…とは?」
『それは、見てからのお楽しみじゃ。ブランカを呼んでくれ。協力者が必要じゃ』
「分かった」
私は体を起こしブランカを目で探す。
彼女はラフィと談笑していた。
「ブランカ!こちらに来てくれないか」
私の声に、ブランカが気付き駆け寄って来た。
「サビィ?どうしたの?」
「水盤が君に用があるようだ」
「水盤が?私に?」
不思議そうな顔で彼女は水盤を見る。
『左様。頼みたい事があるのじゃ』
再び囁く水盤にブランカは顔を寄せる。
「私は何をすれば良いのかしら?」
『実は…私…が………する。そこでじゃ、……は……』
「ええ…ええ……なるほど……分かったわ」
水盤と話しを終えたブランカは、パッと体を起こし笑顔で私を見た。
「サビィ、水盤とショーを始めるわ。子供達に伝えてくれる?」
そう言うとブランカは、私や子供達から離れ発声練習を始めた。
(一体、何が始まるのだ…?)
首を傾げながら子供達に声を掛ける。
「今から、水盤とブランカによるショーが始まる」
私の言葉に歓声が上がった。
子供達の瞳は期待でキラキラと輝いている。
「私は準備ができたわ。水盤は大丈夫?」
『私は、いつでも大丈夫じゃ…」
「分かったわ。みんな、水盤から少し離れてね。水飛沫が掛かるかもしれないわ」
子供達は距離を取り、ブランカと水盤をグルリと取り囲んだ。
「サビィ、一体何が始まるんだい?」
ラフィが不思議そうに私に声を掛けてきた。
「どうやら、ショーが始まるようだ」
「ショー?水盤とブランカの?」
「ああ、そうらしい。」
私達は子供達と共に移動を終え、ブランカを見た。
ブランカは頷き、再度子供達に声を掛ける。
「みんな、移動したわね。それじゃ、始めるわよ。」
ブランカは深呼吸をすると、伸びやかで艶やかな美しい声で歌い始めた。
すると、その歌に合わせて水盤の水がユラユラと揺れる。
そして、波が立ち上がったかと思うと水柱を作り空を目掛け、どんどんと伸びていく。
小さな水盤からは想像ができない程の水量だ。
ブランカの歌がクライマックスへと向かうと、更に水柱の勢いは増し上へ上へと向かっていく。
水飛沫は、まるで雨のように降り注ぐ。
すると七色の美しい虹が私達の前に現れた。
「見て!虹だよ!」
「綺麗だね〜」
「虹と水飛沫がキラキラ輝いてる」
皆、美しい虹とキラキラと輝く水飛沫に目を奪われた。
徐々にブランカの声が小さくなりフッと消えた時、水柱は崩れるように、瞬時にして水盤に戻っていった。
一瞬の静けさの後、子供達の拍手と歓声が響く。
ブランカの歌声と水盤が共鳴した素晴らしい演出である。
(水盤にこんな事ができるとは…私は、まだまだ水盤を知る必要があるな…)
私は、計り知れない水盤の可能性を感じていた。
(水盤との絆を、もっと強くせねばならない…その為には、何をすべきか…)
考えていると誰かに肩を叩かれる。
「サビィ、真剣に考えてるところ悪いんだけと…子供達が待ってるよ」
振り返るとラフィが、優しげな笑顔で見ていた。
「サビィは、素晴らしい水盤と出会ったね。さぁ、子供達が学びの続きを楽しみにしてるよ」
「そうよ、サビィ。みんなワクワクしてるわよ」
ブランカも笑顔だ。
「ああ…そうだったな。皆、待たせてすまない。学びを続ける」
私は子供達に呼び掛けた。
「では、次の学びだが…この水盤で君達が見たいものを映し出そうと思う。」
私の言葉に、思考を巡らせる子や友達と相談する子とまちまちではあったが、一様に笑顔で溢れている。
私は、そんな姿を微笑ましく思いながら子供達を見つめた。
しかし、この時遠くから見つめる者がいた。
嫉妬と怒りに震えるその憎悪の瞳に、この時の私は全く気付かなかった。




