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幸せの翼  作者: 悠月かな
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ブランカとリズムフラワー

「次は私で良いかしら?」


ラフィが学びを終え百科事典を閉じると、ブランカが目を輝かせながら名乗り出た。


「ああ、もちろん」


私が頷くと、ブランカがニッコリ笑った。


「ありがとう。サビィ」


私は、彼女のその笑顔に目を奪われた。

やはり、ブランカは美しい。

凛とした佇まい。

それでいて優しい笑顔…

彼女をずっと瞳に映していたい…

胸に込み上げる愛しさに、思わず胸に手を当てた。

その直後に、決して報われない想いだと我に返る。

私は、その想いを打ち消す為に頭を振った。


「さぁ、みんな!次は私…ブランカの学びよ」


ブランカは子供達に笑顔で声を掛けた。


「私の学びは音楽よ。音楽は素晴らしいわ。皆の心を癒したり、元気付けたりするの。まずは…ちょっと見ててね」


ブランカは突然しゃがみ込むと、手のひらを広げ優しく息を吹きかけた。

すると、小さな黒い粒状の物が幾つも現れる。

子供達は興味津々に見つめている。


「これは種よ。今からこれを蒔いていくわね」


ブランカは地面に種を蒔き、どこからともなくジョウロを取り出した。

そして、種を蒔いた地面に水をかけていった。


「たくさん水を飲んで大きくなるのよ」


すると、蒔いたばかりの種から芽が出てきた。

その芽は、左右にユラユラと揺れながら茎が太くなり葉も増え大きくなっていいく。

そして、30㎝ほど伸びるとピタリと成長が止まった。


「さぁ…次は花を咲かせてね」


ブランカが優しく囁くと、再び左右に揺れながら花芽をつけていく。

見る見る間に花芽は膨らみ、徐々に花びらが開いていく。

子供達は、その様子を目を凝らして見つめている。

花びらが完全に開くと子供達は驚いた。


「ねぇ…あの花、変わってる…」

「なんだか、楽器みたいな花じゃない?」

「ホントだ。不思議だね」


子供達が驚くのも無理がない。

ブランカが咲かせた花は楽器にそっくりだ。


「これは、リズムフラワーよ。見ての通り花は楽器の形をしているの。ピアノ、バイオリン、フルート、トランペット、シンバルの形をしているわ。

小さな花だけど音は本格的なの。リズムフラワー、早速で悪いけど…演奏をお願い」


ブランカが、リズムフラワー達に優しく息を吹きかけると、花達はフルフルと楽器のような花びらを揺らす。

次の瞬間、トランペットの音が高らかに鳴った。

その音を合図に、ピアノやバイオリン、フルートが楽しげに音を奏でる。

子供達は曲に合わせ、楽しそうに体を揺らしている。

そして、大きく迫力あるシンバルの音が鳴ると、曲は盛り上がり更に勢いを増していく。

こんな小さな花達が、迫力ある演奏をするとは驚きである。

子供達は目をキラキラと輝かせ演奏に聞き入っている。

やがて演奏は後半に入り、優雅でダイナミックな曲調から、穏やかで繊細な音色へと変化していった。

そして、曲調は徐々にスローテンポになっていく。

最後の一音が鳴り響き演奏が終了すると、子供達の歓声と拍手が鳴り響いた。


「小さな花だけど、演奏は本格的だったでしょ?」


笑顔で問い掛けるブランカに、子供達は思い思いの声を上げる。


「こんな小さな花なのにビックリしました!」

「迫力もあるし、ワクワクしました!」

「ブランカ先生、凄い!」

「私も頑張れば、ブランカ先生みたいに、不思議な花を咲かせられるようになりますか?」


子供達の歓声や質問にブランカは笑顔で頷き言った。


「そうね…大人になると色々な事ができるようになるわ。私のように不思議な花を咲かせたり、ラフィのような百科事典を使いこなしたり…好きな場所に瞬間的に移動もできるようになるの。でも、その為にはたくさんの経験が必要だし、イマジネーションも大切よ。ワクワクしたり、ドキドキしたり…感性の豊かさも肝心ね」


子供達は、ブランカの話しを興味深そうに聞いている。


「だから、たくさんの経験をしましょう。楽しい経験や嬉しい経験…心が躍るような経験。時には悲しい事や辛い事もあるかもしれない。でもね、それも大切な経験よ。楽しい経験も辛い経験も大切なの。全て必要な経験なのよ」


ブランカの言葉に子供達の表情が曇った。


「悲しい事や辛い事って?」

「楽しい事ばかりじゃないんだ…」

「ちょっと不安だな…」


ブランカは、不安そうな子供達に1人ずつ目を合わせながら言った。


「確かに…悲しい事や辛い事は誰でも嫌よね。苦しいもの…できる事なら避けたいと思うわ。私だって同じよ。でもね、苦しみから逃げたら成長できないの。苦しみと向き合い、乗り越えた時に大きく成長するのよ。私達は、様々な体験をして成長していくの。心が震えるような素晴らしい体験をする事もあるわ。みんなの可能性は無限よ。苦しみから逃げて可能性を狭めないでほしいの」


ブランカの話しを聞いていた子供達の瞳には、もう不安の色は見えない。

彼女を見つめるその瞳は、再びキラキラと輝いている。


「また不安だけど、頑張って先生みたいになりたい!」

「自分の可能性を信じる!」

「辛い事があるのは嫌だけど…逃げずに頑張る!」


次々に上がる子供達の声に、ブランカは嬉しそうだ。


「私が子供の頃は、こんなに前向きじゃなかったの。素晴らしいわ!将来が楽しみね」


すると、ブランカはリズムフラワーに何やら囁き、再び子供達に目を向けた。


「さあ、次は歌を歌うわよ。まずは私の歌を聞いていてね」


ブランカがリズムフラワーに目配せをすると、再び演奏が始まった。

今回の曲調は先程とは打って変わって、穏やかで温かなメロディーが流れてきた。

その演奏に合わせ、伸びやかで優しい歌声が聞こえてきた。


(これがブランカの歌声か…)


彼女が人前で歌う事は珍しい。

自ら進んで歌わないのだ。

しかし、彼女の歌声には不思議な魅力があると耳にした事がある。

その歌声は、聴く者の心を掴み決して離さないらしい。

ふと子供達を見ると、うっとりとブランカの歌を聴いている。

私の心も、彼女の歌声に惹きつけられている。

最初は静かだった歌が、クライマックスが近づくにつれ、力強く情熱的になっていく。

優しいながらも力強い歌声が心に染みる。

私の心も彼女の歌声に惹きつけられ、気付けば涙を流していた。


(なぜ、私は涙を流しているのだ…このような事は初めてだ…)


私は、今まで波を流した事などなかった。

いや、涙を流す必要がなかった…と言った方が良いかもしれない。

しかし…私は今、涙を流している。

後から後から涙が溢れ出し止まらない。

私の意志に反して溢れ出す涙に、私は困惑した。

その時、子供達が歓声を上げ拍手が鳴り響いた。

ブランカが歌い終え、優雅にお辞儀をしている。

その姿が涙で滲み、はっきりとは見えない。


「歌を聴いてくれてありがとう。私の歌は聴いた人の心を解き放つの。心が揺さぶられ本来の自分を取り戻すのよ。自分でも気付かないうちに、本来の感情や自分の意志を抑え込んでしまう事があるわ。

自分を解放してあげられるのは自分自身…私の歌は、心を解き放つサポートをするの」


ブランカの言葉に私はハッとした。


(そうか…私は気付かぬうちに自分を抑え込んでいたのか…)


私は涙を拭う事を忘れて、ただただ立ち尽くしていたのだった。



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