忍ぶ恋
ーー3日後ーー
ブランカが食堂の扉を取り付けた後、ファンクから内装やテーブルや椅子、厨房は全て自分が引き受けたいと申し出があった。
どうやら、私達の作業を見ていて触発されたらしい。
ファンクは2日かけ、造り上げたようだった。
今日は、できあがった食堂を3人で見に来ている。
「内装がどうなっているか楽しみだわ」
「ファンクは、張り切ってたからね。どうやら寝る間も惜しんで造り上げたようだよ」
「それは楽しみだ。では…入るとしよう」
私は、食堂の扉をノックした。
バタバタと走る音が聞こえた後、扉が開かれる。
「お待ちしてました。どうぞ中に入って下さい」
ファンクがニコニコとしながら、私達を出迎えた。
中に入るとブランカが歓声を上げる。
「まぁ…なんて素敵なの!」
そこは、まるで森の中のようであった。
木々が立ち並び、木漏れ日が差し込んでいる。
風が優しく頬を撫でる。
そして、この森の空間に自然に馴染むテーブルと椅子は、白木で作られている。
屋内でありながら、森の中でピクニックをしてるような不思議な空間だ。
「これは、また不思議な空間だ…とてもリラックスできる。素晴らしい…」
思わず感嘆の溜め息が漏れた。
「うん…本当だね。これは子供達も喜ぶよ。凄いね、ファンク」
「ありがとうございます。皆さんが建てられた素晴らしい食堂に感動し、私なりに頑張ってみました」
「本当に素敵よ。子供達の笑顔が頭に浮かぶわ」
「はい。子供達の笑顔が見られるように、料理も腕をふるいます」
ファンクは満面の笑みで私達を見た。
「ファンク、これから調理係としてよろしく頼む」
「勿論です、サビィ様。お任せ下さい!」
彼は自分の胸をドンと叩いた。
「これなら、いつでもツリーハウスを建築できるわね。子供達の学びを始めても良いんじゃない?学びのカリキュラムを詰めましょう」
「そうだね。僕も百科事典の転記がそろそろ終わるからね。サビィの水盤はどうだい?」
「水盤とは、少しずつ心通い合わせているところだが…引き続き鍛錬するので問題ない」
「それなら決まりね。1週間後から学びをスタートさせない?まずは、ツリーハウスを子供達と一緒に建築しましょう」
「うん。そうだね。それなら…僕は成長の部屋のエイミーにその事を伝えてくるよ」
ラフィの言葉に、なぜかブランカは表情を曇らせた。
「え…ええ。ラフィお願いね」
「それじゃ、早速知らせてくるよ。エイミーと会うのは久しぶりだな〜」
ラフィは、笑顔で食堂から出て行った。
ブランカの表情は、心なしか強張って見える。
「ブランカ…大丈夫か?」
「え!大丈夫よ。突然どうしたの?」
ブランカは笑顔で私を見たが、やはり強張っている。
「ファンク、今日はこれで失礼する」
「はい。サビィ様。子供達が来てくれる日を楽しみにしてますね」
私は頷くとブランカの手を取る。
彼女は驚き私を見上げた。
「サビィ?」
「ブランカ。外に出よう」
私はブランカと共に外に出る。
そのまま、花畑を抜けて広場へと来た。
「ねぇ、サビィ…どこに行くの?」
ブランカと手を繋いだまま、私は更に歩く。
そして、広場の外れにある巨木まで来ると手を離しブランカを見た。
「ブランカ…何かあっただろう?」
「え…何もないわよ…どうしたの一体?」
私は頭をゆっくりと左右に振った。
「そんなはずはない。君は笑顔だが…とても辛そうだ…」
私は、辛そうなブランカを放っておけなかった。
「サビィ…」
動揺からか、彼女の瞳は揺れている。
「サビィは、何でもお見通しね…」
ブランカは深く息をつくと、覚悟を決めたように話し始めた。
「ラフィとエイミーは幼馴染なの。小さな頃からとても仲が良くてね…よく冗談を言い合ってたりしてたのよ。今は、それぞれが忙しいから、あまり会ってないみたいだけど…昔はよく一緒にいたの。サビィ、覚えてないかしら?」
「そう言われてみれば…ラフィは、エイミーといる事が多かった気がする…」
まだ子供だった頃の事を思い返す。
当時、私は他の天使と接触を極力避けていたので記憶が曖昧だ。
「サビィは、1人でいる事が多かったから覚えてないかもしれないけど…あまりにも2人が仲が良いから、恋人同士だと噂になったほどだったのよ」
「そのような噂があったとは…」
「それで、ラフィに憧れて告白する天使も多かったの。でも、ラフィは全て断っていたわ。だから、2人は恋人なのは間違いないと思われてたの」
確かに、ラフィはたくさんの天使から告白をされていた。
しかし、全て断っていた。
その事は私も知っている。
「それで、私はその時にラフィに聞いてみたの。
2人は恋人同士なの?って…」
ブランカは、当時の事を思い出したのか懐かしそうに微笑む。
「ラフィは、凄く驚いてた。仲は良いけど友達だって。必死に否定してたわ」
「なるほど…」
ラフィが必死に否定したのは、ブランカに誤解されたくなかったからだろう。
その想い…今なら分かる。
「それで…君の表情を曇らせてる原因は…そのエイミーだな」
私の言葉にブランカの目が見開かれた。
「どうして…分かるの?」
「君の表情を見てれば分かる…」
私は、ソッとブランカの頬に手を伸ばす。
そして…私は身が切られるような思いで言葉を振り絞る。
「ブランカ…君は…ラフィの事が好…きなのか…?」
ブランカの瞳が揺れている。
なんと美しい瞳なのか…
できる事ならば、この瞳をずっと見ていたい…
その瞳で、私を見つめて欲しい…
「そうよ…私はラフィの事が好き…だから、ラフィがエイミーの事を嬉しそうに話してると苦しくて…」
伏し目がちにブランカが答えた。
私は、彼女の頬から手を離す。
胸が痛い…
どうしようもなく胸が痛い…
しかし、ブランカの苦しむ顔を見ている方が辛い。
私は、彼女に気付かれぬように自分の心に蓋をする。
「ラフィに告白しないのか…?」
「自信がないの…ラフィは、今まで全ての告白を断ってきたのよ。私も断られるかもしれない…」
ラフィが数々の告白を断ってきたのは、君が好きだから…
彼はブランカの事しか見えていない。
だから、全ての告白を断ってきたのだろう。
「ブランカなら大丈夫だ」
私は、再びブランカの頬に手を伸ばす。
「君は美しく聡明だ。もっと自信を持って良い。君は自分が思うよりとても魅力的だし素敵な天使だ。私が保証する」
「サビィ…ありがとう」
嬉しそうに笑うブランカの笑顔も美しい。
「私…ツリーハウスが出来上がって、学びの目処が立ったらラフィに告白するわ。このまま悩んでるのも嫌だし…サビィに話しを聞いてもらえて良かったわ」
「ブランカが前向きになれたのなら良かった」
私は笑顔で答えたが、心はまるで針で刺されたかのようにチクリと痛み、心なしか息苦しい。
ラフィに告白するのか…
恋人同士になった2人を、私は心から祝福できるのだろうか…
いや…今の私では無理だ。
しかし、ブランカには幸せになってもらいたい…
様々な想いが頭を巡る。
「とにかく今は、ツリーハウスと子供達の学びに意識を向けるわ。私も子供達に何を教えるか考えないと。頭を冷やしがてら、セレンツリーを見ながら考えるわ。サビィ、話しを聞いてくれてありがとう」
ブランカは、ニッコリと笑うと振り返り、今来た道を戻っていった。
私は彼女の頬へと伸ばしていた手を下ろし、固く握り締めた。
このまま自室に戻る気がしない…
ふと、巨木に吊られているブランコが目に入った。腰を下ろし漕いでみる。
ブランコなど何年振りだろうか…
「私は、ブランカの恋を応援できるのだろうか…」
ブランコを漕ぎながら自問自答する。
すると、なぜか心が落ち着いてきた。
あれほどざわついていたのに…
「これは…もしかすると、巨木のエネルギーなのか?」
ブランコは巨木の枝から吊られている。
このブランコをを通じて、優しいエネルギーが体に流れているのを感じた。
まだ心の痛みを感じるし、息苦しさも感じている。
しかし、相反するような心の落ち着き…
「巨木よ、ありがとう。」
私の感謝の言葉に答えるように、枝葉がサワサワと揺れている。
巨木の優しく温かいエネルギーを感じながら、私は暫くブランコを漕ぎ続けた。
そして、ブランカへの想いが溢れないように、もう一度心に蓋をする。
「今は、子供達の学びが優先だ…しっかりするんだ、サビィ…」
私は、自分を鼓舞する為に呟いたのだった。




