植樹
ーー1週間後ーー
私は、ラフィとブランカと共に花畑後方の草原に来ていた。
「サビィ、そのサークレット…本当に素敵ね〜」
ブランカは溜め息をつきながら、私の額に装着されたサークレットを見つめている。
先程から、この言葉を彼女は何回も繰り返していた。
「ブランカ、先程から同じ言葉ばかり繰り返しているが?」
私は苦笑しながら問い掛ける。
「だって、本当に綺麗なんだもの…サビィの美しさが更に際立ったみたいよ。サビィの人気に更に火が付くかもね」
「いや、それは本当に勘弁してほしい。騒がれるのは苦手だ」
「あはは。でもさ、最近サビィの人気が更に上がってるんだよ。以前は近寄りがたい雰囲気だったけど、なんだか柔らかくなったって」
ラフィがニコニコしながら私を見る。
その言葉に、私は心がなせか温かくなっていくのを感じていた。
確かに私は、ここ最近大きく変化したと思う。
自分の知らなかった感情が湧き出ているようだ。
この変化は悪くない…いや、むしろ喜ばしいとさえ感じている。
不思議なものだと、感慨に浸っているとブランカが驚きの声を上げた。
「ねぇ!2人共見て!」
私達はブランカの指差す方を見た。
たくさんの天使達がこちらに向かって来るのが見える。
ざっと、100人ほどはいるだろうか…
「これは…また凄いな…」
ラフィが呆然として呟いた。
「まさか、こんなに植樹に集まるとは…」
私も思い掛けない事に驚きを隠せない。
「これなら、思ったよりも早く終わりそうね」
「うん。皆サビィの掲示板を見て集まってくれたんだよ」
「ああ…これは有り難いな」
協力者が集まるか否か心配であったが、それは杞憂だったようだ。
気付けば、たくさんの天使達は私達の前まで集まっていた。
「ねぇ、サビィ…あなたに、植樹についての説明をお願いしていいかしら?サビィが適任だと思うの。ラフィはどう思う?」
「うん。僕もサビィが適任だと思うよ」
「やっぱりそうよね。サビィ、お願い」
2人の言葉に背を押され、私は前に進み出る。
「皆、今回は植樹に参加頂きありがとう。こんなにも大勢集まってくれるとは…私達は心から感謝している。この度、子供達の学びの場と生活の場を新たに設ける事となった。こちらの場所には、生活の場であるツリーハウスを建築予定だ。それにあたり、たくさんの木々が必要となった。皆には、その植樹の協力をお願したい」
私はそこまで説明すると、集まってくれた天使達を見回した。
皆、頷きながら私の話しを聞いている。
「さすがね、サビィ。皆、あなたを憧憬の眼差しで見ているわ。ね、皆に植樹の方法を説明してみて」
ブランカが私の耳元で囁いた。
私は頷き更に続ける。
「植樹する木はセレンツリー。この木は、幹が太く枝も強い。そして何より他の木々よりも成長が早い。その為、私達はツリーハウスに最適の木だと判断した」
セレンツリーについては、ラフィが百科事典の転記の際に見つけ、ブランカと私に教えてくれた。
「まず、このセレンツリーの苗木を用意する。その方法だが…ラフィ、皆に見せてくれるか?」
「勿論だよ。じゃ、今からセレンツリーの苗木を用意するから見ててね」
ラフィは、その場でかがんで草原の草に話しかけた。
「君達にお願いがあるんだけど、聞いてくれるかい?」
草達は、ラフィの言葉に答えるように、優しくサワサワと揺れている。
「ありがとう。君達の葉を分けてもらっても良いかな?セレンツリーの苗木が必要でね。ちょっと千切るけど、痛くないようにするからね」
ーーチ…ギル…ル…チギル…デモ…イタク…ナ…イーー
草原の草達の声が風に乗り流れてくる。
暫くすると、ザワザワしていた草がピタリと動きを止めた。
そして、ラフィに身を預けるように体を寄せた。
「ありがとう。それじゃ、失礼するよ」
ラフィがソッと手をかざすと、草が金色に輝いた。
そして、草の葉を優しく千切ると、手の平に乗せソッと息を吹きかける。
次の瞬間、千切られた草の葉は宙に舞い上がり、小刻みに震えた。
小さな破裂音と共に、草の葉は小さな苗木に変化した。
固唾を飲んで見つめていた天使達から、どよめきが起こる。
「今、何が起こった?」
「さすが、ラフィ様」
「草の葉を苗木に…できるかな…?」
「ラフィ様!素敵〜」
思い思いの言葉が混ざり合い、大きなうねりのようなどよめきになっていた。
ラフィは、おもむろに立ち上がり皆を見回すと、
ざわついていた天使達が徐々に静かになっていった。
その様子にラフィは笑顔で頷いた。
「賞賛の声は有り難く頂戴するよ」
ラフィは、いたずらっぽく笑いながらウィンクすると、更に言葉を続ける。
「草の葉をセレンツリーの苗木に変化される事は、一見難しそうだけど、コツさえ掴めば簡単なんだ。大切なのは、草の葉が痛くないように優しく千切る事。そしてもう一つ…苗木に変化してくれる草の葉に感謝する事だよ。分かったかな?」
彼の言葉に天使達は頷いた。
「うん。大丈夫みたいだね。それなら、早速やってみて。質問があったら、僕やサビィ、ブランカを呼んでね」
天使達はその場にかがむと、優しく草の葉を千切り、ラフィの動作を思い出しながら試みる。
すると、あちこちから苗木に変化する音が聞こえてきた。
「やった!できたぞ!」
「あら、意外に簡単じゃない。」
その様子を見ていたラフィは、ニコニコしながら言った。
「うんうん。皆、上手だね。あっという間に苗木が揃ったよ。ありがとう」
天使達は苗木を手にして嬉しそうに目を輝かせている。
「では、皆が用意した苗木を植えていこうと思う。苗は3m間隔で植えていく。ブランカ、皆に植える場所を説明してくれるか?」
「ええ、良いわよ」
私の問い掛けに、ブランカは笑顔で答えると、苗木を手にし皆の前に進み出た。
「ツリーハウスはこの場所に建築するのだけど、併せて食堂も建てるの。だから、もう少し後方に植樹をする事になるわ」
ブランカはフワリと舞い上がり、植樹予定地に移動した。
「ここから植えていくわ。3m間隔で植えるけど…目印があった方が分かりやすいわね…」
「なるほど…確かにそうかもしれない。何か目印を付けるとしよう。」
ブランカの言葉に、私は辺りを見渡し目印になりそうな物を探した。
その時、花畑から声が聞こえてきた。
「サビィ…サビィ…」
「この声は…花畑の花達か?」
「私達の花びらを使って…」
花達の言葉と共に突風が吹き、宙から花びらがヒラヒラと舞い降りてきた。
「この花びらを目印にして…」
花達の声が草原に響く。
「こんなに多くの花びら…有難いが…良いのか?」
「私達にも手伝わせて。子供達がここに来てくれるのが嬉しいから…」
「分かった。有り難く使わせてもらおう」
私は花びらを手の平に集め、目を瞑り成長したセレンツリーを思い浮かべる。
幹が太く、伸び伸びと枝を広げている。
等間隔に並ぶ姿は美しい。
しっかりとイメージしながら、私は宙に舞い上がり花びらを撒く。
すると、花びらは草原に等間隔に舞い降りていった。
「これで良い」
私は頷くと皆を見渡す。
「この花びらが目印となっている。ここに苗木を植えてほしい」
私の言葉が合図となり、皆が苗木を植え始めた。
そして、私もラフィやブランカと共に苗木を植える。
たくさんの天使達のおかげで、早々に植樹は終わった。
私が安堵の溜め息をついた時、後方から声が聞こえた。
「サビィ様…」
(この声は…まさか…)
私は、背筋に冷たいものを感じる。
植樹に集中していて気付かなかった。
「サビィ様…」
再び私を呼ぶ声に、恐る恐る振り返る。
そこには、やはりイルファスが立っていた。
私は思わず後ずさる。
側にいるラフィやブランカに緊張が走る。
「サビィ様、私も植樹に協力しました。だって、大切な人が頑張っているんですもの…」
「あ、ああ…協力は有難い…」
「サビィ様、私はいつでもお手伝いします。だから頼って下さい。愛する人を支えたいから…」
「イルファス…何を言っているのだ?愛する人…とは?」
「サビィ様と私は、愛する仲ではないですか?だから、私はあなたを支えたいと思っています」
私は、背筋が一気に冷たくなった。
イルファスは勘違いしている…いや…彼女の妄想なのか?
どちらにせよ、これはマズい。
「イルファス…その…気持ちは有難いが…申し訳ないが、君の気持ちに答える事はできない」
私がハッキリと断ると、イルファスの表情が見る見る変わっていった。
「サビィ様…それは…どういう意味…ですか?」
「イルファス…言葉通りの意味だ…申し訳ない」
「私を愛してない…という事ですか…?」
「すまない…」
「どうして?私は、こんなに愛しているのに!」
イルファスは叫び、私に近寄ろうとした。
その瞬間、サークレットが煌びやかに輝き、イルファスは見えない壁にぶつかり弾き飛ばされた。
「今の何?」
怪訝な表情で彼女は、再び私に近寄ろうとする。
しかし、やはり見えない壁によって弾き飛ばされる。
「え?どういう事?」
イルファスは、何度も私に近寄ろうと試みるが見えない壁に阻まれている。
「クソッ!忌々しい!」
彼女は、見えない壁を壊そうと体当たりをしてくる。
その、必死な形相には狂気すら覚える。
私は、その姿に身震いし更に後ろへと下がる。
「イルファス!やめるのだ!」
その時、凛とした声が響いた。
上空からサギフェル様が降り立ち、私の前に立ちはだかる。
「ザキフェル様…」
イルファスが驚きの表情を見せる。
「イルファス。お前のしている事は愛の押し付け以外何ものでもない。これから、サビィに近寄る事を禁ずる。仮に禁を破り、近寄ったとしても近付けない策を既にとっている」
「そんな…ザキフェル様…」
「私は、お前がサビィに何をしてきたか…全て知っているのだ。イルファス…サビィの気持ちを考えた事はあるのか?相手を思いやり、幸せを願う事が愛なのではないか?今一度、愛について考えるが良い」
「酷い…」
イルファスは暫く俯いていたが、顔を上げ走り去っていった。
その瞳には涙が光っていた。
私はホッとはしたが、なんとも後味が悪い…
彼女は納得してはいない。
解決したとは言い難い状況である。
「サビィ、今後もイルファスが接触する可能性がある。サークレットが守ってくれるはずだが…何かあれば、私に教えてほしい。
「ザキフェル様…ありがとうございます」
私が深く頭を下げると、ザキフェル様は頷きながらスッと消えた。
「サビィ…大丈夫?」
ブランカが私を心配して声を掛けてきた。
「ああ…大丈夫だ。」
「う〜ん…とても大丈夫そうには見えないよ。」
ラフィも心配そうに私を見ている。
私の胸は不安でざわついている。
(イルファスは、諦めたのだろうか…?)
私は、イルファスが諦めてくれる事を願わずにはいられなかった。




