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幸せの翼  作者: 悠月かな
21/61

植樹

ーー1週間後ーー


私は、ラフィとブランカと共に花畑後方の草原に来ていた。


「サビィ、そのサークレット…本当に素敵ね〜」


ブランカは溜め息をつきながら、私の額に装着されたサークレットを見つめている。

先程から、この言葉を彼女は何回も繰り返していた。


「ブランカ、先程から同じ言葉ばかり繰り返しているが?」


私は苦笑しながら問い掛ける。


「だって、本当に綺麗なんだもの…サビィの美しさが更に際立ったみたいよ。サビィの人気に更に火が付くかもね」

「いや、それは本当に勘弁してほしい。騒がれるのは苦手だ」

「あはは。でもさ、最近サビィの人気が更に上がってるんだよ。以前は近寄りがたい雰囲気だったけど、なんだか柔らかくなったって」


ラフィがニコニコしながら私を見る。

その言葉に、私は心がなせか温かくなっていくのを感じていた。

確かに私は、ここ最近大きく変化したと思う。

自分の知らなかった感情が湧き出ているようだ。

この変化は悪くない…いや、むしろ喜ばしいとさえ感じている。

不思議なものだと、感慨に浸っているとブランカが驚きの声を上げた。


「ねぇ!2人共見て!」


私達はブランカの指差す方を見た。

たくさんの天使達がこちらに向かって来るのが見える。

ざっと、100人ほどはいるだろうか…


「これは…また凄いな…」


ラフィが呆然として呟いた。


「まさか、こんなに植樹に集まるとは…」


私も思い掛けない事に驚きを隠せない。


「これなら、思ったよりも早く終わりそうね」

「うん。皆サビィの掲示板を見て集まってくれたんだよ」

「ああ…これは有り難いな」


協力者が集まるか否か心配であったが、それは杞憂だったようだ。

気付けば、たくさんの天使達は私達の前まで集まっていた。


「ねぇ、サビィ…あなたに、植樹についての説明をお願いしていいかしら?サビィが適任だと思うの。ラフィはどう思う?」

「うん。僕もサビィが適任だと思うよ」

「やっぱりそうよね。サビィ、お願い」


2人の言葉に背を押され、私は前に進み出る。


「皆、今回は植樹に参加頂きありがとう。こんなにも大勢集まってくれるとは…私達は心から感謝している。この度、子供達の学びの場と生活の場を新たに設ける事となった。こちらの場所には、生活の場であるツリーハウスを建築予定だ。それにあたり、たくさんの木々が必要となった。皆には、その植樹の協力をお願したい」


私はそこまで説明すると、集まってくれた天使達を見回した。

皆、頷きながら私の話しを聞いている。


「さすがね、サビィ。皆、あなたを憧憬しょうけいの眼差しで見ているわ。ね、皆に植樹の方法を説明してみて」


ブランカが私の耳元で囁いた。

私は頷き更に続ける。


「植樹する木はセレンツリー。この木は、幹が太く枝も強い。そして何より他の木々よりも成長が早い。その為、私達はツリーハウスに最適の木だと判断した」


セレンツリーについては、ラフィが百科事典の転記の際に見つけ、ブランカと私に教えてくれた。


「まず、このセレンツリーの苗木を用意する。その方法だが…ラフィ、皆に見せてくれるか?」

「勿論だよ。じゃ、今からセレンツリーの苗木を用意するから見ててね」


ラフィは、その場でかがんで草原の草に話しかけた。


「君達にお願いがあるんだけど、聞いてくれるかい?」


草達は、ラフィの言葉に答えるように、優しくサワサワと揺れている。


「ありがとう。君達の葉を分けてもらっても良いかな?セレンツリーの苗木が必要でね。ちょっと千切るけど、痛くないようにするからね」


ーーチ…ギル…ル…チギル…デモ…イタク…ナ…イーー


草原の草達の声が風に乗り流れてくる。

暫くすると、ザワザワしていた草がピタリと動きを止めた。

そして、ラフィに身を預けるように体を寄せた。


「ありがとう。それじゃ、失礼するよ」


ラフィがソッと手をかざすと、草が金色に輝いた。

そして、草の葉を優しく千切ると、手の平に乗せソッと息を吹きかける。

次の瞬間、千切られた草の葉は宙に舞い上がり、小刻みに震えた。

小さな破裂音と共に、草の葉は小さな苗木に変化した。

固唾を飲んで見つめていた天使達から、どよめきが起こる。


「今、何が起こった?」

「さすが、ラフィ様」

「草の葉を苗木に…できるかな…?」

「ラフィ様!素敵〜」


思い思いの言葉が混ざり合い、大きなうねりのようなどよめきになっていた。

ラフィは、おもむろに立ち上がり皆を見回すと、

ざわついていた天使達が徐々に静かになっていった。

その様子にラフィは笑顔で頷いた。


「賞賛の声は有り難く頂戴するよ」


ラフィは、いたずらっぽく笑いながらウィンクすると、更に言葉を続ける。


「草の葉をセレンツリーの苗木に変化される事は、一見難しそうだけど、コツさえ掴めば簡単なんだ。大切なのは、草の葉が痛くないように優しく千切る事。そしてもう一つ…苗木に変化してくれる草の葉に感謝する事だよ。分かったかな?」


彼の言葉に天使達は頷いた。


「うん。大丈夫みたいだね。それなら、早速やってみて。質問があったら、僕やサビィ、ブランカを呼んでね」


天使達はその場にかがむと、優しく草の葉を千切り、ラフィの動作を思い出しながら試みる。

すると、あちこちから苗木に変化する音が聞こえてきた。


「やった!できたぞ!」

「あら、意外に簡単じゃない。」


その様子を見ていたラフィは、ニコニコしながら言った。


「うんうん。皆、上手だね。あっという間に苗木が揃ったよ。ありがとう」


天使達は苗木を手にして嬉しそうに目を輝かせている。


「では、皆が用意した苗木を植えていこうと思う。苗は3m間隔で植えていく。ブランカ、皆に植える場所を説明してくれるか?」

「ええ、良いわよ」


私の問い掛けに、ブランカは笑顔で答えると、苗木を手にし皆の前に進み出た。


「ツリーハウスはこの場所に建築するのだけど、併せて食堂も建てるの。だから、もう少し後方に植樹をする事になるわ」


ブランカはフワリと舞い上がり、植樹予定地に移動した。


「ここから植えていくわ。3m間隔で植えるけど…目印があった方が分かりやすいわね…」

「なるほど…確かにそうかもしれない。何か目印を付けるとしよう。」


ブランカの言葉に、私は辺りを見渡し目印になりそうな物を探した。

その時、花畑から声が聞こえてきた。


「サビィ…サビィ…」

「この声は…花畑の花達か?」

「私達の花びらを使って…」


花達の言葉と共に突風が吹き、宙から花びらがヒラヒラと舞い降りてきた。


「この花びらを目印にして…」


花達の声が草原に響く。


「こんなに多くの花びら…有難いが…良いのか?」

「私達にも手伝わせて。子供達がここに来てくれるのが嬉しいから…」

「分かった。有り難く使わせてもらおう」


私は花びらを手の平に集め、目を瞑り成長したセレンツリーを思い浮かべる。

幹が太く、伸び伸びと枝を広げている。

等間隔に並ぶ姿は美しい。

しっかりとイメージしながら、私は宙に舞い上がり花びらを撒く。

すると、花びらは草原に等間隔に舞い降りていった。


「これで良い」


私は頷くと皆を見渡す。


「この花びらが目印となっている。ここに苗木を植えてほしい」


私の言葉が合図となり、皆が苗木を植え始めた。

そして、私もラフィやブランカと共に苗木を植える。

たくさんの天使達のおかげで、早々に植樹は終わった。

私が安堵の溜め息をついた時、後方から声が聞こえた。


「サビィ様…」

(この声は…まさか…)


私は、背筋に冷たいものを感じる。

植樹に集中していて気付かなかった。


「サビィ様…」


再び私を呼ぶ声に、恐る恐る振り返る。

そこには、やはりイルファスが立っていた。

私は思わず後ずさる。

側にいるラフィやブランカに緊張が走る。


「サビィ様、私も植樹に協力しました。だって、大切な人が頑張っているんですもの…」

「あ、ああ…協力は有難い…」

「サビィ様、私はいつでもお手伝いします。だから頼って下さい。愛する人を支えたいから…」

「イルファス…何を言っているのだ?愛する人…とは?」

「サビィ様と私は、愛する仲ではないですか?だから、私はあなたを支えたいと思っています」


私は、背筋が一気に冷たくなった。

イルファスは勘違いしている…いや…彼女の妄想なのか?

どちらにせよ、これはマズい。


「イルファス…その…気持ちは有難いが…申し訳ないが、君の気持ちに答える事はできない」


私がハッキリと断ると、イルファスの表情が見る見る変わっていった。


「サビィ様…それは…どういう意味…ですか?」

「イルファス…言葉通りの意味だ…申し訳ない」

「私を愛してない…という事ですか…?」

「すまない…」

「どうして?私は、こんなに愛しているのに!」


イルファスは叫び、私に近寄ろうとした。

その瞬間、サークレットが煌びやかに輝き、イルファスは見えない壁にぶつかり弾き飛ばされた。


「今の何?」


怪訝な表情で彼女は、再び私に近寄ろうとする。

しかし、やはり見えない壁によって弾き飛ばされる。


「え?どういう事?」


イルファスは、何度も私に近寄ろうと試みるが見えない壁に阻まれている。


「クソッ!忌々しい!」


彼女は、見えない壁を壊そうと体当たりをしてくる。

その、必死な形相には狂気すら覚える。

私は、その姿に身震いし更に後ろへと下がる。


「イルファス!やめるのだ!」


その時、凛とした声が響いた。

上空からサギフェル様が降り立ち、私の前に立ちはだかる。


「ザキフェル様…」


イルファスが驚きの表情を見せる。


「イルファス。お前のしている事は愛の押し付け以外何ものでもない。これから、サビィに近寄る事を禁ずる。仮に禁を破り、近寄ったとしても近付けない策を既にとっている」

「そんな…ザキフェル様…」

「私は、お前がサビィに何をしてきたか…全て知っているのだ。イルファス…サビィの気持ちを考えた事はあるのか?相手を思いやり、幸せを願う事が愛なのではないか?今一度、愛について考えるが良い」

「酷い…」


イルファスは暫く俯いていたが、顔を上げ走り去っていった。

その瞳には涙が光っていた。

私はホッとはしたが、なんとも後味が悪い…

彼女は納得してはいない。

解決したとは言い難い状況である。


「サビィ、今後もイルファスが接触する可能性がある。サークレットが守ってくれるはずだが…何かあれば、私に教えてほしい。

「ザキフェル様…ありがとうございます」


私が深く頭を下げると、ザキフェル様は頷きながらスッと消えた。


「サビィ…大丈夫?」


ブランカが私を心配して声を掛けてきた。


「ああ…大丈夫だ。」

「う〜ん…とても大丈夫そうには見えないよ。」


ラフィも心配そうに私を見ている。

私の胸は不安でざわついている。


(イルファスは、諦めたのだろうか…?)


私は、イルファスが諦めてくれる事を願わずにはいられなかった。



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