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幸せの翼  作者: 悠月かな
19/61

頼るという事

「そうか…そんな事が…イルファスは、以前から問題を起こしてはいたけど…今回の件はちょっとマズいな…」

「彼女は、そんなに問題を起こしていたのか?」

「うん。突然、襲い掛かられた天使もいたよ。なぜ襲いかかったのか今も謎なんだ」

「知らなかった…」

「まぁ…サビィは、あまり他の天使と関わらなかったからね。皆、イルファスに対しては腫れ物を触るように接してるよ」

「そうだったのか…」


私は、今まで他の天使達との接触を避けてきた。

面倒な事に巻き込まれるのが嫌だったからだ。


「まぁ…サビィは、女性達からキャーキャー騒がれてウンザリしてたから仕方ないけどね」

「私は、騒がれるのは苦手なのだ」


溜め息をつきながら答えると、ラフィは何度も頷いた。


「サビィは、そっとしておいて欲しいタイプだからね。でも、君はたくさんの天使達の憧れの存在なんだよ」

「私が…?」

「そうそう。何でもそつなくこなすし、優雅で美しいからね」


私は、常に美しく優雅でありたいと思っている。

そして、そうである為に努力を重ねている。


「まぁ…その事に関しては否定はしない。それなりに努力も重ねている」

「否定はしないんだね。サビィらしいよ」


ラフィはクスクス笑っている。


「もちろん、君が陰で地道に努力を重ねている事は知ってるよ。でも…ほとんどの天使達は、サビィが努力家だとは知らないんだ。君の美しさも優雅さも天性のものだと思っている」

「皆は努力はしないのか?理想に近づく為には努力が必要だと思うが…」

「まぁ…そうなんだけどね。それがなかなか難しいのさ」


ラフィはおどけた表情で肩をすくめた。


「ラフィこそ努力家ではないか…百科事典の転記もだいぶ進めたのではないか?」

「まぁね…半分以上は転記を終えたかな…僕の事は良いよ。イルファスの問題をどうにかしないとね」


ラフィは、自分の事をあまり話したがらない。

照れているのか、心を開いていないのか…

しかし…この短期間で、半分以上も転記を進めるとは…


「サビィ…イルファスの件だけど、アシエルにも相談してみないか?」

「アシエルに…?」


ラフィは深く頷きながら言葉を続ける。


「僕達では対処しきれないと思うんだ。サビィの話しを聞いてそう思った」


頭に、イルファスの不気味な姿が浮かぶ。

落ち窪み生気がなく澱んでいる瞳。

異様に赤い唇…

私は体を身震いさせながら頷いた。


「確かに…私達では対処できない問題だ…」

「うん…早速、アシエルにも相談しよう。」


ラフィが立ち上がった瞬間、扉をノックする音が響いた。


「誰だ…?」


ラフィは眉根を寄せ、怪訝な顔で扉へ向かう。


「はい…」

「ラフィ、私だ」

「アシエル…」


ラフィは、安堵した声で急いで扉を開けた。

そこにはアシエルが立っていた。


「アシエル…どうしてここに?」


「サビィ、ラフィ、君達が問題を抱えている事は分かっている。しかし…イルファスの件は闇深い。私だけでは手に負えない。その為、あの方に来て頂いた。」


アシエルが振り返ると、そこに意外な天使が立っている。


「ザキフェル様!」


ラフィと私は同時に声を上げた。

個人の部屋に、ザキフェル様が尋ねてくるなど異例中の異例である。


「ザキフェル様、どうぞ中へお入り下さい。アシエルも入って」


ラフィが2人をソファへと案内した。


「ラフィ…気を使わずとも良い。早速だが…イルファスが不穏な動きをしている為、彼女を注視していた。サビィに付きまとっている事も承知している」


私はザキフェル様の言葉に驚いた。

先程の出来事も把握してるのだろうか…?


「ザキフェル様…先程、私の身に起こった事は…?」

「承知している」


やはり、そうか…

一体、どのようにしてイルファスの動きを察知しているのか…?

私の疑問に気付いたのか、ザキフェル様が懐から小さな石板を取り出した。

その石板には、色取り取りの宝石が埋め込まれ、美しい輝きを放っている。


「これで、イルファスの動きを注視している」


ザキフェル様が手の平に石板を乗せると、埋め込まれた宝石が光を放ち始めた。

光は石板の上でユラユラと揺らぎ、何かを形作り始める。

徐々にそれは姿を現し、やがて天使の姿となったが、その姿に私は寒気を感じた。

すっぽりとフードを被り俯いている。


「イルファス…」


私は思わず呟いていた。


「サビィ、これはホノグラムだ。現在のイルファスは、君を無理矢理引き寄せようとし失敗し、呆然としているようだ」


石板の上でホログラムとして映し出されたイルファスは、ブツブツと何か呟いている。


「ザキフェル様…先程のイルファスの行動もこの石板で確認されたのですか?」


私の問いに彼は深く頷いた。


「イルファスについては、以前から奇行の報告がされていた。その為、この石版で彼女の動きをしばしば追っていた」

「そうでしたか…」

「サビィ、引き続き彼女を注視していく。君には、彼女が近づけないように対策を取る事にする」


ザキフェル様が指を鳴らすと、彼の手の平に銀色に輝く冠のような物が現れた。


「これはサークレット。額に装着する物だ。一見アクセサリーのように見えるが、これはサビィをイルファスから守ってくれる」


私は、ザキフェル様からサークレットを受け取った。

流れるような曲線を描きながら、数本の細いシルバーが緩やかに絡み合っている。

シンプルだが、華奢で繊細なデザインである。

額の位置に、青い涙型の宝石があしらわれ、ユラユラと揺れている。


「何と美しい…」


私はあまりの美しさに見惚れ、思わず呟いていた。


「これを、身に付ける事でサビィはイルファスから守られる。彼女が君に近付こうとすると、見えないガードが張られ一定の距離から近付けなくなる」

「ザキフェル様、ありがとうございます」


私はサークレットを受け取ると、早速装着してみた。

それは、まるであつらえたようにピッタリだった。

そして…ざわついていた心が、スーッと落ち着いていく。

そんな私の様子を見てザキフェル様は頷いた。


「青い宝石が埋め込まれているが、これはブルートパーズだ。知性や創造性を育むパワーがある。君にピッタリだろう」

「ザキフェル様…素晴らしいサークレットをありがとうございます。大切に使わせていただきます」


イルファスから身を守るだけではなく、私にピッタリの宝石を選び、尚且つこの美しいデザイン…

私は、ザキフェル様の完璧さに感嘆しながら答えた。


「気にせずとも良い。私達もイルファスを引き続き注視していくから、安心しなさい。では、部屋に戻り今後の対策を考えるとしよう」


ザキフェル様は、アシエルに目くばせすると、2人はスッとその場から消えた。


「サビィ、良かったね。ひとまず安心できるかな。それに、サビィに凄く似合ってるよ」


ラフィが安堵の表情を浮かべ私を見た。


「ああ…ラフィ、心配をかけてすまない」


私はラフィに頭を下げた。


「え!ちょっと、サビィ…頭上げてよ」


ラフィは、私の両肩に手を置くと優しく体を起こした。


「実はさ…僕は、サビィにイルファスの事を相談されて嬉しかったんだよね」


私はラフィの言葉に驚き、目を見開いた。


「サビィは1人で何でも解決してきたし…決して、僕やブランカを頼ろうとしなかったからね。僕達に心を開いてないのかな…って思ってたんだ。もちろん、君は優秀な天使だから、何でもそつなく完璧にこなす事は知ってる。でもね…友人としては、ちょっと寂しかったんだ」


友人…私は、ラフィの言葉を心の中で復唱してみる。


「友人…」


今度は、口に出して復唱してみた。


「そうだよ。君は僕の友人だよ。違うかい?」


私の目を覗き込むラフィの瞳には、やや不安そうな色が滲んでいる。

そうか…ラフィは私の友人なのか…

私は、今まで友人という言葉を意識した事がなかった。

1人でいる方が楽だし、それで良いと思っていた。

しかし…今回のイルファスの件で、私はラフィに相談して、気持ちがかなり楽になった。

これが、頼るという事だと初めて理解したのだ。

そして…私の話しを聞いてくれたラフィは友人…

今初めてこの言葉を意識し、ゆっくりと心に浸透していく…

何と温かい言葉なのだ…

私は、気付けば涙を流していた。


「え!サビィ、どうして泣いてるんだい?僕、何か気に障るような事を言ったかい?」


ラフィが、明らかにオロオロしている。


「いや…違う…違うんだ…」


私は、感情の赴くままに涙を流し続けた。




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