自己嫌悪(ラフィ)
「はぁ〜」
僕は部屋に戻り、ソファに身を投げるように倒れ込んだ。
「僕は、どうしてあんな行動を取ったんだろう…」
ブランカの部屋での出来事を思い返してみる。
彼女がサビィを心配している姿を目にし、居ても立ってもいられなかった。
サビィがブランカに好意を抱いているのは、以前から薄々感じていた。
それが確信へと変わった。
彼女の部屋の扉を見つめるサビィ…
その瞳は、とても優しく温かだった。
冷静沈着のサビィが初めて見せた表情だ。
僕は、あの時思った。
サビィ…君もか…
僕は、随分前からブランカに恋をしている。
それは…まだ子供だった頃、学びの部屋で彼女の隣の席に座った時だった。
「あなたとは初めて話すわね。私はブランカよ。よろしくね」
彼女の事は知ってはいたが、それまで直接話す事はなかった。
タイミングが合わなかったのかもしれない。
たくさんいる天使の内の1人くらいしか思っていなかった。
しかし…学びの部屋で彼女に話し掛けられた瞬間、恋に落ちた。
(ブランカ…って…こんなに綺麗な天使だったんだ…)
あの時の衝撃は忘れられない。
美しさと可愛らしさが同居しているブランカ。
彼女の笑顔に胸を撃ち抜かれた男性は、数えきれないほどだ。
そして、僕も例外ではなかった。
ブランカとは友人として仲良くなった。
僕は、彼女に自分の気持ちをひた隠しにしてきた。
この関係を壊したくなかったのだ。
彼女はなぜか以前からサビィを気にかけていた。
彼は単独行動を好み、気付けばお気に入りのマレンジュリの木の下で読書をしている。
騒がしい場所が苦手らしい。
ブランカは、そんなサビィに積極的に話しかけていた。
もしかすると、ブランカはサビィの事が好きなのかもしれない…そんな考えが何度も頭をよぎり、胸の痛みと何度も格闘した。
最初は怪訝な表情だったサビィも、徐々にブランカに心を開くようになっていった。
そして、気付けば3人で行動するようになっていた。
サビィは冷静沈着であり優秀な天使だ。
そして努力家でもある。
彼が優秀なのは努力の賜物。
僕もサビィには一目置いている。
でも…僕達2人の間には見えない壁がある。
お互い完全には心を許していない。
どうしてなのか僕も分からなかった。
でも…最近分かった事がある。
それは、ひょっとするとブランカが関係しているのかもしれない…
サビィが、ブランカを意識し始めたのは最近だと感じていた。
しかし…もしかすると彼は自分の気持ちに気付かなかっただけで、随分と前から彼女に好意を抱いていたのかもしれない。
僕達は、お互いのブランカに対する気持ちを敏感に察知し牽制していたのだろうか…
「はぁ〜」
再び深い溜め息をついた。
「僕は、こんなに嫌な性格していたのか…」
自分の性格がほとほと嫌になる。
サビィがブランカの部屋を出る直前、僕はワザと親しげにブランカと話した。
サビィに見せつけたかったのかもしれない。
ブランカが、水盤の件で悩むサビィを励ます姿を目の当たりにして、僕の胸に小さなヒビが入りそのヒビはどんどん大きくなっていった。
僕は耐えられなくなり、あんな態度を取ってしまった…
サビィは、いたたまれない表情で部屋を出て行ってしまった。
僕の胸は、まるで大きな石が埋め込まれたように重苦しくなっている。
「サビィ…ごめん…」
届くはずのない謝罪を口にしても、胸の重苦しさは変わらなかった。
僕は、テーブルに置いたままの読みかけの本に手を伸ばす。
「百科事典の転記…続けないと。」
僕は言い訳じみた言葉を呟くと、本に目を落とし読書に没頭するのだった。