イブの夜に、ひとりきり
1
ぼくは、クリスマスの夜が大キライだ。
みんなみんな大忙しで、
みんなみんな出かけるから、
いつもはにぎやかな家の中が、シーンと静かになってしまう。
クリスマス・イブって、家族と一緒に仲良く過ごす日だって聞いてるよ。
なのに、ぼくはいま、ひとりでミルクをあたためて、ひとりでパンをかじってる。
とても楽しい日だとは、思えないな。
2
(ふぅ……)
ため息つくと、テーブルの上にあった1枚の手紙が目に入った。
"クリスマス・ライブ、楽しみにしています"
たどたどしい子どもの文字で、書かれたハガキ。
(ライブじゃなくて、イブだよ)
ぼくのうちには、いつもたくさんの手紙が届く。
いまの時期は、また格別だ。
手紙で部屋中、山盛りになる。
ぼくの家族は、みんなその手紙をとっても喜んでる。
おじいちゃんなんか、特に。
大きなお腹を揺らして、顔いっぱいで笑って。
本当に嬉しそう。
だから今夜も、張り切って出かけて行った。
いいんだけどね。
(お留守番は、つまらないな)
カタン……!
(誰か帰ってきた?)
「なんだ、ルゥかぁ──」
扉の音にあわてて振り向いたら、ペットで友達のルゥが、顔をのぞかせこっちを見ていた。
「そっか。キミもお留守番だったね。今夜は一緒に寝よう。みんな居ないしさ」
こうしてぼくは、ルゥをベッドに連れていく。
お母さんがいたら、ダメって言われそう。
ルゥはまだ小さいから、ギリギリぼくとベッドに……あれ? せまいな。
ルゥ、大きくなった?
ぼくも早く大きくなりたいよ。
大きくなって、イブの夜に──。
3
ガヤガヤガヤ
……ざわめきが、聞こえる……?
──みんなが帰ってきたんだ!!
「おかえりなさい!!」
ぼくはベッドから跳ね起き、ルゥと居間に駆けつける。
そして、おじいちゃんのおっきなお腹に飛び込んで、真っ赤な服に顔をうずめた。
「おお、ただいま、ニコラス! 今年も大成功だったぞ」
おじいちゃんも、お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんたちも。
おじさん・おばさん、みんなみんな、大満足のいい笑顔!
「プレゼント、全部配れた? 子どもたち、喜んでた?」
「もちろんだとも」
それを聞いて、ホッとする。
ぼくがひとりぼっちで我慢した甲斐があったというもんだ。
でも、ぼくも。
ぼくも早く大きくなって、
お兄ちゃんやイトコたちみたいに、みんなのお手伝いがしたいな。
トナカイのルゥを相棒にさ。
ひとりで過ごすイブは大キライだけど、
おうちのお仕事は、大好きなんだ。
だって、世界中にワクワクを届けるお仕事なんて、素敵じゃない?
そう思ってると、テーブルのハガキが、ハラリと落ちた。
─ サンタさんへ いつもありがとう! 今年もクリスマス・ライブ、楽しみにしています。 ゆうた 5歳 ─
ふふっ。こんなカワイイ手紙、ぼくも貰ってみたい!!