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コンプレックス ~心に傷を抱えた少女の一年間~  作者: 下東 良雄
二学期・前半
69/223

第五八話 少女の過去(一)

 一枚の写真によって、自分の身体の秘密を知られてしまった幸子は、そのショックで過呼吸を起こし、倒れてしまう。

 その後、保健室で休むことになった幸子を迎えにいった亜由美だったが……


 ――放課後の教室


「さっちゃんがいなくなった……」


 駿の言葉に、その場にいた全員が目を丸くする。


「え? どういうこと?」


 理解の追いつかない様子のキララ。


「かばんは亜由美が持ってる。保健室のベッド脇に上履きもあるらしい……」


 ポコン


 メッセージの通知に、スマートフォンをチェックする駿。


「今、亜由美が下駄箱を確認したみたいなんだけど……靴もあるらしい……」

「え? 上履きも履いてなくて、靴も履いてなくて……? え?」


 キララは、まだ理解が追いついていない。


「今わかってるのは、何も履いていないさっちゃんが姿を消した、ってことだ」


 静寂の時間が流れる。


「とりあえず、手分けして探そう。靴があるってことは、校内にいる可能性が高いだろ。LIMEで連絡取り合おう」


 幸子の捜索が始まった。


 ◇ ◇ ◇


 ――しばらくして


 ポコン


 スマートフォンをチェックする駿。


「くそっ! いないか……グループチャットへの投稿にも反応ないし……どこにいるんだ、さっちゃん……」


 ~♪


(電話の着信……? もしかしたら……)


 幸子かもしれないと、電話に出た駿。


「はい、もしもし……はい、そうです……えっ?……幸子さんのお母さん⁉」


 ◇ ◇ ◇


 ――しばらく時間は遡る


 ガチャガチャ ガチャリ


 玄関が開く音に、幸子の母親・澄子が居間から出てくる。


「さっちゃん、おかえりな……どうしたの⁉」


 澄子が目にしたのは、靴を履いておらず、白い靴下を泥だらけにして玄関に佇む幸子の姿であった。


「さ、さっちゃん、一体どうし――」


 澄子が言葉を言い終わる間もなく、大粒の涙を零しながら、何かから逃げるように二階へ上がっていく幸子。


「さっちゃん! さっちゃん、待って!」


 バタンッ ガチャリ


 幸子は、自分の部屋に入ると、ドアのカギを締めた。


 ガチャガチャガチャ


 澄子がドアのノブを回すが、カギがかかっていて開かない。


 ドンドンドンドン


「さっちゃん、開けて! 開けて頂戴!」


 澄子が懇願する。

 しかし、ドアの向こう側からは、心の底から絶叫するような、幸子の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。


「幸子……」


 ――しばらくして


 泣き疲れたのか、ドアの向こう側からは物音ひとつ聞こえない。

 そっとドアのノブを回す澄子。しかし、カギはかかったままだった。

 LIMEを送っても既読すらつかず、まったく反応がない。


 澄子は一旦居間に戻り、どうすればいいのか頭を抱えた。

 視界に自分のスマートフォンが入る。


(こんなときに相談できる人がいれば……)


 悔しさに涙が出そうになったときだった。


「…………!」


 澄子は思い出した。彼の連絡先を持っていることを。

 慌ててメモを探す澄子。

 藁にもすがる気持ちでスマートフォンをタップする。

 呼び出し音が鳴り、そして――


「もしもし、高橋くんの携帯でしょうか。私、山田と申します。幸子がお世話になっております――」


 ◇ ◇ ◇


 ――その頃


 幸子は泣き疲れ、いつの間にか眠っていた。


 幸子は夢を見ている。

 イジメられていた小学生時代。<声>が聞こえ始めたのも、この頃だ。

 しかし、幸子をイジメていた林を赦したことにより、夢の中でのこの頃は、曖昧な何かになろうとしていた。


 そして、中学生時代。

 突然、夢の世界が鮮明になる。


 一年生の頃、幸子は小学生時代のイジメが原因で、友達を作ろうとせず、孤立を深めていた。

 小学生の頃、自分をかばってくれた女子もいた。

 しかし、その都度言われる「かわいそう」「好きでこんな風なんじゃない」などという言葉。

 それらは、幸子の心に無意識のうちに深い傷をつけていた。


『私は、かわいそうな、人に憐れまれる子なんだ』


 人との付き合いが怖くなり、イジメられたり、憐れまれるのが嫌で、人を遠ざける幸子。

 幸子の孤立は必然であった。


 二年生になった時、変化が起きる。

 友達が出来たのだ。


 同じクラスの 諸留(もろどめ) 亜利沙(ありさ)

 最初は突き放していた幸子も、積極的に距離を詰めてくる亜利沙に、いつしか心を開いていった。

 亜利沙はクラスの女子の中心的な存在であり、そんな亜利沙の近くにいられることで、幸子の自尊心はくすぐられる。

 自分の好きな男の子も打ち明けた。頑張ってねと応援された。

 自分の身体の秘密も打ち明けた。そんなの気にすること無いよと言ってくれた。

 <声>によって心が弱っていたこともあり、幸子は徐々に亜利沙に依存していった。


 三年生になり、二年生に続き亜利沙と同じクラスになる。

 幸子は喜んだ。

 そして、亜利沙への依存はどんどん深まっていった。


 やがて、亜利沙との関係は友達ではなく、使い走り、いわゆる「パシリ」のようになりつつあった。

 飲み物を買いに行かされる、宿題をやらされる、掃除を代わりにやらされる、トラブルが起これば、代わりに頭を下げに行く……亜利沙は、高圧的な態度を取っていたわけではなく、幸子を上手に誘導して、それらをやらせていたのだ。

 幸子も薄々そういう状況にあることを理解していたが『友達』を手放すことは、どうしてもできなかった。


 卒業直前、幸子は亜利沙に言われる。


「ほら、さっちゃん、前から光司くんのこと好きだって言ってたじゃない! 卒業式の日にさ、思い切って告白しちゃいなよ! 大丈夫! 絶対うまくいくって!」


 当時、幸子が好きだったのは 榎本(えのもと) 光司(こうじ) という同じクラスの男の子だった。飛び抜けてカッコイイわけではないが、真面目で、優しく、掃除をよく手伝ってくれた男の子だ。

 亜利沙のそんな言葉に、自分を奮い立たせて、幸子は告白することを決意する。


 そして、卒業式。

 幸子は、校舎裏で思い切って光司に告白をした。


「いつも優しい光司くんが好きです! よ、良ければ私と……」


 そんな幸子の告白に、光司の答えは残念なものだった。


「山田さんの気持ちは嬉しいんだけど、ボク、今付き合ってる子がいて……」


(あ……そうだよね……うん、仕方ないよね……)


 恋には破れたが、幸子はどこかスッキリした気持ちになった。


 しかし――


「こんなところで何やってるの、山田さん」


 幸子の後ろから、突然亜利沙が現れた。



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