表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/64

9 難関ギルドの採用試験が始まりました


 これから試験前検査が始まろうとしている。


 ただ、その前にやることがあった。本試験の同意書へのサインだ。

 本試験中に命を落としてもいいという、穏やかではない内容だった。


 そんな命がけの採用試験だとは……。

 サインしている手が、少し震えてしまったではないか。


 いよいよ試験前検査に進む。


 特殊な水晶に手を当てるのと、いくつかの質問に答えればいいそうだ。

 水晶には年齢が表示されるので、誤魔化しがあればここでバレるらしい。

 また、水晶についてはもう一つ役割がある。魔導力測定もされるとのことだ。


 受験者は大きく五班に分けられた。

 千人を超える大人数のためだ。


 おっと、早く並ばなければ。


 すでに長い列ができていた。

 同じ班には有名人の受験者もいた。

 巨漢『ガウガ』と聖女様『シールラ』だ。


 この班では、皆がその二人に注目している。

 もちろん僕も二人に興味があった。


 検査の順番がガウガに回ってきた。

 彼の大きな手が水晶に当てられる。


「ほう。驚いた」と検査官。


 皆が聞き耳を立てる。僕も同じく耳を澄ませた。


「キミが体力自慢って情報はあったけど、魔力もかなり高いね」


 おお、そうなのか。羨ましい。


「では主な経歴を話してもらおうか」


 ガウガは優勝した武闘大会の名前を列挙していった。


 僕は異国人なので、それぞれの大会規模については何も知らない。

 しかし周囲の反応から考えると、結構メジャーな大会も制しているようだ。

 これまでに倒してきた魔物の数は、二百四体だという。


 なんと、倒してきた魔物をずっと数えてきたのか。

 てか、少ない。少なすぎる。僕とは比較にならない。

 でもまあ、少ないのは当然か。彼はギルドに入る前なのだ。



 聖女様に順番が回ってきた。

 彼女が水晶に手を添える。


「ふむ。年齢は十五で……」


 と、検査官は呟いた。

 そして水晶を見るや、身を乗り出した。


「おお、これは! 大神官のご令嬢だけのことはある」


 なんだ、なんだ。

 彼女はどのくらいスゴイ人なんだ?


「魔導力が尋常ではない。近年まれに見るほどの高さだ」


 検査官がしみじみと驚愕している。

 大神官の娘という肩書きは、伊達ではないようだ。


「一応、経歴を聞かせてもらおうか」


「魔導大会のようなものに参加したことはございませんが、父に同行して様々な場所を訪問いたしました。その際、東の地区では、累計五十八体の魔物を仕留め、三百人ほどの民の命を守りました。西の地区では、累計三十二体の魔物を仕留め、二百五十人ほどの人命を守りました……」


 ほかの受験者が『屠った魔物の数』をアピールするのに対し、彼女は『守った人の数』までも述べた。なかなか考えたものだ。


 でも守った人命なんて、どうやって数えたんだ。超いい加減なドンブリ勘定にしかならないのでは? そもそも殺した魔物の数だって、なんの証明もないだろう。



 しばらくして僕の番がやってきた。

 指示されたとおり水晶に手を置く。


「ええと、キミは年齢が十五で……」


 へえ、やっぱり僕は十五歳だったんだな。


 僕も自分が十五歳だとは思っていた。

 拾われた孤児だったから、確信はなかったけど。


「魔力は……ほぼナシに近い」


 まあ、魔導は苦手だったからなぁ。

 だから必死に体力訓練を受けてきた。


「キミの経歴は?」

「はい。他ギルドに所属していました。そこではエース的存在でした」


 周囲から「「おおおお!」」という声があがった。


 そう。僕はここの受験者たちより、多くの経験を積んでいる。

 間違いなく、ガウガよりもシールラよりも。


 検査官も興味深そうだ。


「ほう、では何体くらいの魔物を屠ってきたのかね?」


 実際、数なんて見当もつかない。


「いちいち数えていませんが、軽く千体は超えてるかと」


 大勢の受験者から羨望の眼差しを受けた。

 なんと有力受験者のガウガやシールラまでも、こっちを見ているではないか。

 検査官が顔を近づけてくる。


「もし差し支えないようならば、聞かせてくれないかね。どこのギルドに所属していたのかを」


 別に隠すつもりなんてない。

 僕は自信持って答えた。


「アスリア大陸の『天使の羽音』というギルドです」


 その途端、爆笑がこの場を包んだ。


 検査官も受験者も笑っている。ガウガもシールラも同様だ。

 いったい何がおかしいのだろう? 僕はぽかんとした。


 後方から受験者たちの声が聞こえた。


「アスリアって魔物のいない平和な大陸だろ」

「平和な大陸のギルドで、エースだと言われてもなあ」

「こっちとあっちじゃ、ギルドのレベルが違うだろ」

「千体以上の魔物とか言ってなかった? あそこは魔物なんていないのにね」


 それについては言い返した。


「三年前までは、普通に魔物がいたんだ」


 すると後方の受験者も言ってくる。


「三年前って何歳だ? いま十五ならば、十二って計算になると思うけど」

「そうさ。十二歳でもギルドのエースだったんだ」


 さらに大きな爆笑となった。


「十二でギルドのエースって。誰が信じるかよ」

「きっとあの大陸のことだから、ギルドに一人しか冒険者がいなかったとか?」

「ああ、もう笑い殺さないでほしいわ」


 どうして誰も信じようとしないんだ。

 まさかこんなに笑われるなんて。


 必死に笑いを堪えようとする検査官。


「キミねえ。嘘はいけないよ、嘘は」

「嘘じゃありません! 本当なんです」


 僕は嘘つきのレッテルを貼られた。検査官は信じてくれなかった。

 それどころか、検査官の心証を悪くしたかもしれない


「わかった、わかった。そういうことでいい」


 検査官はそう言うと、検査待ちの受験者たちに大声で告げる。


「ここで行なう質問は、採用に直接関わるものではない。本試験における組み分けの参考とするだけだ。だから無理して嘘まで吐く必要はないぞ」



 試験前検査が終わっても、大勢の者が僕をチラチラと見ていた。

 とんだ笑い者になってしまった。嘘など吐いていないのに……。


 すれ違いざまに「エース君」なんて声をかけてくるやからもいた。

 ヘンなあだ名をつけられたものだ


 くっそ。見てろよ。

 こうなったら、トップで試験突破してやる!



ここまでお読みくださり、ありがとうございます!!

もし続きが気になるという方がいらっしゃいましたら、

【評価】と【ブックマーク】で応援をお願いいたします。

下の ☆☆☆☆☆ を ★★★★★ に変えてくださると、

最高にうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ