8 かわいい魔物を見つけました
僕はギルドの冒険者募集のチラシを手にしていた。
そのギルドに入るためには、試験に受からなければならないらしい。
では改めて内容を確認してみよう。まず受験資格は?
『年齢十五歳から二十歳までの者(但し亜人は含まない)』
やったぞ。たったそれだけだ。
僕にも受験資格があるってことだ!
でも幼馴染みのジャイならば、不可だった。
彼は猪人だから、亜人ってことになるのだ。
この国、そんな差別があったとは。
ジャイかぁ……。元気にしているだろうか。
次に試験日は?
『試験日:○○日(雨天決行)』
あしたかぁ。これはラッキーだ!
他には、たいした注意事項もなかった。
どんな試験になるのだろうか。
とりあえず、きょうの宿を探そう。
場合によっちゃ野宿でもいいや。
ああ、お腹が空いた。
そういえば軽食屋に入ったはずなのに……。
結局、何も食べなかったのだろうか。
あらためて軽食屋に入り、メシを食べた。
メシを食べるカネはあっても、宿屋に泊まるカネはなかった。
安宿が見つからなかったのだ。この国、宿代の相場が高すぎる。
しかし運良く神殿廃墟を発見。
ここなら雨風を防げるだろう。
よしっ、野宿はここにしよう。
神殿廃墟の中に入っていく。
瓦礫がたくさん転がってるなあ。
ピキーーーー
なんだ? 何かが飛び跳ねたぞ。
あっ、スライムだ。初めて見た。
スライムなんて魔物は、アスリア大陸に生息していなかった。
それでもスライムのことは、それなりに知っている。
アスリア王国のギルドの資料室で、文献を読んだことがあるのだ。
魔物の中ではほぼ唯一、むやみに人間を襲わない種類だっけ。
昔、スライムをペットとして飼っていた人もいたとか。
可愛いな、スライム。
しかもピンク色……。文献には記載のなかった色だ。
もしかして超レアなのではないか。
「ねえ、キミもここで野宿するの?」
返事するわけがなかった。
ピンク色のスライムは牙を見せ、僕を威嚇しながら逃げていく。
そんな姿もキュートだった。
スライムは逃げながら高くジャンプ。
ゴチッと天井に当たった。
ドジなヤツだ。そこがまた可愛い。
ゴゴゴゴ ゴゴゴ
ヤバいぞ……。
天井が崩れる。小さな瓦礫となって落ちてくる。
あっ、危ない!
咄嗟にジャンプ。スライムに覆い被さる。
小さな瓦礫は、僕の背中で防いだ。
スライムは無事だった。庇った甲斐があったというものだ。
腹の下からスライムが逃げだす。しかしその動きが止まった。
そろり、そろり、とこっちに近づいてくる。
僕がケガを負ったことに、気づいたようだ。
このケガのワケを、きっと理解しているのだ。
ピキーーーー
スライムは霧のようなものを吐いた。
すると背中の痛みが和らいだ。
えっ、まさか……。
どう考えても、いまのは回復魔導だ。
僕は体を起こした。
ちゃんと動けるぞ。ケガがだいぶ治ってる。
ありがとう、とスライムに礼を言おうとした。
しかしすでに姿はなかった。
僕はこの神殿廃墟で一泊した。
次の日――。
きょうはギルド<聖クロモスフェア>の採用試験日だ。
受験者らしき人々が、立派な門を続々と越えていく。
仲間らしき人々に見送られている者も多かった。
もちろん僕は一人で門を潜っていった。
「受験者はこちらへ」
係員が敷地内の広場へと案内している。
わっ、すごい数の受験者だ!
千人を越えてるんじゃなかろうか。
しばらくして募集は締め切られた。
受験者数は千二十三人だと発表があった。
説明によれば、採用されるのは五人以下らしい。
かなり高い競争率だ。
広場は大勢の受験者でザワザワしていた。
「おお、アイツは○○じゃないのか」
「あんなスゲぇーヤツが受験にきてるとは……」
「あっちは超有名な○○ってヤツだ」
「おいおい、○○までいるぞ。こりゃ、まいった」
「はあ、最悪。これじゃ、俺、採用されないよぉ」
などと声が聞こえてくる。
優秀な受験者がたくさんいるらしい。
その中でも多くあがったのが、『ガウガ』という名前だ。人々の視線を辿ると、巨漢男がいた。周囲のヒソヒソ話に耳を傾けてみる。その巨漢男は未成年でありながら、数々の武闘大会で優勝しているそうだ。彼の腕力は伝説級だとか。
ガウガに次いで名前があがったのは、おそらく『ヘラルゴ』だろうか。超有名な冒険者の父がおり、その才能を譲り受けた魔導剣士らしい。剣術も魔導も一流だとか。
それから『ルキルク』の名前も多かった。大商人の息子らしい。裕福な家庭の息子なのに、冒険者になりたいのか。ちなみに彼がまとっているのは、上級冒険者でも買えないような高級武具だとか。でも冒険者としての実力は、はたしてどうなのだろう?
ああ、そうそう。ガウガ以上に名前のあがっていた人物がいたのを忘れていた。名前は『シールラ』。有名な大神官の娘であり、高い魔導能力を有しているのだとか。また周囲からは口々に、聖女様なんて呼ばれ方をしている。
僕はそのシールラを見てハッとした。目にしただけで、身がすくむほどの美少女だったのだ。実際、彼女は多くの男子受験者の目を奪っていた。
さて、『試験前検査』がいま始まろうとしている。
本試験の前に何が行なわれるのだろう。
もし試験前検査で落とされたらどうしようもない。
ちょっぴり緊張してきた。
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