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58 カカカカと笑われました


 現れた魔物は魔王親衛隊の三傑の一人。

 僕たちがスライムロッサに匿われていたことがバレてしまった。


 しかしスライムロッサたちは諦めようとしなかった。

 なんとか言い逃れを試みるのだった。


「人間を食して何が悪いというのだ? いいか、貴様にくれてやるつもりはないぞ。これらは我々の獲物だ」


 あくまでも獲物だと誤魔化すのだった。

 目を細める三傑の一人。


「本当に人間を食う気があったのか。スライムは人間を食わないと聞くが?」

「それは誤解だ。無性に食したくなる時期もある」

「誰がそれを信じると?」


 それはそうだろう。


 僕たちはスライムロッサから吐きだされた。

 なのに、皆、ちゃんと生きている。

 信じろって言う方に無理がある。


 あるスライムロッサが僕に小声で言う。


「ここから全速力で逃げるんだ。多少の時間稼ぎは可能だ。うまくすれば全滅は避けられるかもしれない」


 スライムロッサ……。ベスにも同じことが言えるけど、どうして僕たち人間のためにそこまでしてくれるんだ。


 この場は僕がなんとかしなくちゃ。

 腹立たしいけどアイツの力を借りようか。


 いいや、さっきトランスに失敗したばかりだ。

 あれから時間はまだほとんど経ってない。


 でも、それがなんだ!!

 スタミナ切れだろうが、なんとかしなくちゃならない。

 無理矢理にでもアイツを引きずりだすんだ。


「ここは僕一人で大丈夫です。あなたたちが逃げてください」


 そう。この場からずっと遠くに離れてもらわないと困る。でなければネオバーサーカーのアイツが、親切な彼らを殺してしまうからだ。


「何を言うか。人間よ、いいから早く逃げるのだ」

「本当に僕一人でアイツを倒せると言ってるんです。だけど皆も巻き込んじゃうので逃げてください」

「我々は曲がりなりにも王族だ。他者を見捨てて逃げることなどできない」


 ああ、だからもう! そういうんじゃないから……。

 そのスライムロッサが彼の仲間に告げる。


「皆! 我々は勇敢で誇り高き王族スライムロッサだ。強者に立ち向かおうではないか!!」


「「おーうぅ!!!」」


 もぉー、待ってよ。


 しかしスライムロッサたちは一致団結。

 戦闘は開始された。


 スライムロッサが十体足らずで、『三傑の一人』に挑む。

 しかしスライムロッサたちは、たちまち戦闘不能に。


 あっという間に決着がついた。

 三傑とやらは強すぎた。


 倒れたスライムロッサに手を当てる。


「あのう、動けますか」

「我々のことより早く逃げるのだ」

「もしまだ動けるんでしたら、あなたたちが逃げてください。這ってでも」

「だから我々のことは心配要らぬと……」


 そうじゃないんだよ。僕は頭を抱えた。


「僕、本当にアイツを倒せるんです。でもムチャクチャやりすぎるんで、あなた方をいっしょに殺しちゃうかもなんです。だから早く僕から逃げてください! 逃げるくらいはできますよね? でなければ、皆、本当に死にますよ。マジで」


 背後に強烈な殺気。

 振り向けば『三傑の一人』がそこにいた。


「お前、さっきからヘンなことばかり言ってるな。頭がおかしいのか」


 ほら、来ちゃった。

 もうネオバーサーカーになるしかない。


「あれだけ忠告したんですからね。最悪、僕に殺されたとしても、逃げなかったあなたたちが悪いんですよ」



 トランス……。



 できなかった。まだアイツのスタミナが回復できていないようだ。

 やはりトランス化するには、余程の気合いと根性が必要なのだろう。


 誰かに袖を掴まれた。

 ボスの妹だった。心配そうな顔。

 彼女の頭に手を添えた。


「問題ないよ。すぐ終わらせてくる」


 本当は大問題を抱えている。

 何がなんでもトランスに成功しなくちゃ。


「トランス!」


 もう一回。


「トランス!」


 もう一回。


「トランスぅーーーー」


 まだネオバーサーカーになれないのか。


「トランスっ」


 『三傑の一人』がこっちに手を伸ばしてきた。

 僕にしがみついた少女が震えている。


「トランス!!」


 その手は僕でなく少女に向かっていた。


「トランス!!」


 少女を僕から剥がし取った。


「トランス。お願いだ、トランス成功してくれ!」


 少女はブン投げられた。


 華奢な体が飛んでいく。

 放物線を描いて遠くへと。


 あああっ!


 少女を追ってダッシュ。



 ===  ===  ===  ===



 俺様はネオバーサーカーになった。


 余裕で少女に追いついた。

 キャッチして地面におろす。


 振り向くと、もうそこに『三傑の一人』がいた。

 俺様を追ってきたのだろう。そいつが笑う。


「カカカカ。逃げても無駄だぞ」


 逃げた? 俺様が?

 面白いこと言うじゃないか。


「おい。魔王親衛隊の三傑ってからには、ちゃんと強いんだろうな?」

「はあ……?」


 ヤツがきょとんとする。

 俺様の問いが意外だったか?


「いいか。俺様をガッカリさせるんじゃないぞ?」

「カカカカ。コイツ、可哀想に。馬鹿だったんだな。死ね! ……えっ?」


 俺様の喉元を襲った爪が、ポロっと欠け落ちた。

 すなわち俺様の皮膚を貫くには、脆すぎたのだ。


 やはり溜息の出る結果となったか……。


「おいおい、三傑なんだろ? しっかりやってくれよ」

「う、うるさい。いまのは、まぐれだ。そうに違いない」

「ほう。まぐれだったか。それは良かった」


 ならば今度は俺様からいくぜ。

 コブシを握り締め、試しに腹パン。



 ん?



 この三傑、避けもしなかったぞ。

 俺様の手はヤツの腹にめり込んでいる。


 もしかして、タフさが売りなのか。

 いいね。だったらこうしてみよう。

 そのまま腹から内臓をえぐり取った。



 あれっ。三傑、倒れやがったが……。

 ふざけてるだけだろ? そうだよな?


 おーい、冗談だろ。


 ヤツの耳を引っ張り、体を起こす。

 また倒れた……。おいおい。


 横たわるヤツに尋ねてみる。


「なあ。三傑ってからには、他にあと二匹いるんだろ? いま呼べ。三匹がかりでかかってこい。もっと戦わせろ」


 三傑が目を開ける。しかし応答はない。


「なあ、何を黙ってる? 早く仲間を呼ばないとこうだ」



 ぐわぁーーーーーーーーーー



 三傑の両足をもいだら、悲鳴をあげた。

 まだ元気だけはあるようだ。


「さあ、他の三傑を呼び寄せろ」


 両手も、もいでみた。



 うおーーーーーーーーーーー



 三傑の悲鳴と同時に空が光った。

 四肢を失った三傑が、首だけをあげる。


「フェーン様!」


 コイツ、いまフェーンと言ったか。

 フェーンといえば……。そうだ、あの魔王のことだ。

 俺様がこの魔空に舞い込む直前に会った女。


 ヒト型の魔物が空から降りてくる。

 あのとき見たフェーンに間違いない。


 女の魔物と目が合った。


「おぬしは……」


 そいつも俺様のことを覚えていたらしい。

 続いて別のヒト型魔物も降りてきた。


 アリク以上のさわやか系イケメンだ。

 フェーンにうやうやしく頭をさげる。

 そのあと俺様を睨んだ。


「貴様がフェーン様に無礼を働いた者か?」


 無礼? ああ、なるほど。

 あのときフェーンは、すぐ倒れたんだったか。


「だとしたら?」


 実のところ、あれはスライムの牙によるものだった。

 だが、俺様がやったことにしておいた方が面白そうだ。


 さわやか系イケメンは怒りで大興奮。


「許さぬ!」


 いいねえ。許すなよ。


「お前、強いんだろうな? もしかして三傑の一人とかか」


 できれば三傑であってほしくない。

 さっき『三傑の一人』が弱すぎて、落胆したばかりなのだ。

 たった一人だけなら、もっとずっと強いヤツじゃないと困る。


「三傑とは魔王親衛隊のことを言っているのか。だとしたら侮辱だ」


 弱すぎる三傑じゃないと?

 ホッとした。


「ほう。ならばさっさと俺様と戦え」

「戦うだと? 笑わせるな。お前を一方的に懲らしめるだけだ」

「最高の言葉だ。俺様を思う存分痛めつけるがいい」


 互いにニヤリと笑った。



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