47 広い洞窟内に集落がありました
ああ、つまんねえ。
鉄の人形なんかが相手とは。
感情などないくせに、怒りに満ちた顔の『鉄魔人』。
ドシン、ドシンとゆっくりこっちに歩いてくる。
ちゃんと俺様を敵だと認識してるようだ。
人形が立ち止まる。いったん重心をさげ、ふたたび伸びあがった。
ノロマだった重量物がジャンプしたのだ。放物線を描いて落ちてくる。
「エアスさん、相手は鉄の塊ですぜ。潰されます!!」
アホか。潰れるかよ。重量物を片手で受け止めてやった。
たださすがに俺様の足は、少しだけ地面にめりこんだ。
「そんじゃ、こっから人形の解体でも始めっか」
人形を地面に落とす。
起きあがったところにパンチを一発。人形の顔がもげてしまった。
その後も連打で殴る。人形の体は大きく変形。もはや原型を留めてない。
殴るのも飽きた。
「す、素手で鉄の塊を……。さすがはエアスさん!」
「ゲゲゲっ。鉄魔人をこんなふうにしてしまうなんて」
「あたしは目を疑ったよ。彼は本当に人間かい?」
ベスがホホニに言う。
「エアスは人間です。わたくしにとって、初めての人間のお友達です!」
「そんなムキになって答えてくれなくても……」
これで、すべての魔人像は単なるガラクタと化した。
そのうち氷魔人は、ほとんど何も残っていない。
蝋魔人についても、カスが少し地面を汚しているだけとなった。
アリクがガッカリしている。魔人像から魔石を得られなかったと。
そりゃ、人形は魔物じゃないから当たり前だ。
あらためて三人組をじっと見る。
「エアスさん、我々の顔に何かついてますかねえ?」
「別に」
続いてポロルの方を見る。笑みを返してきた。
俺様は黙って視線を切り、先へと歩いていった。
ベスが真横にきて歩く。
だがずっと黙って俯いている。
「早くアッチの俺様に戻ってほしいか」
「はい、できれば早く戻ってほしいです」
「ほう。正直だな」
「こちらのエアスは、わたくしをお友達として見てくれてません。あなたが見ているのは、あの人のことばかりですので」
「そりゃそうだ。俺様にとっての女はミリカだけだからな。だが元の俺様はミリカを女として見てない」
「あちらのエアスは……。それ本当ですか」
「アッチの俺様のことは、お前に任せたい。頼んだぞ」
「はい。言われるまでもありません。あの……ありがとうございます」
洞窟は奥へ行くほど大きく広くなっていった。
やがて洞窟内集落に辿りついた。
「エアスさん、こんなところに集落ですぜ!」
「ケケケケ。集落なんて伝説どおりじゃねえか」
「信じられないねえ。本当にあったなんて」
三人組が感激している。
しかしアリクの顔は怪訝そうだ。
「けれど……。人の姿がないぞ。ここは廃村のようなところか」
「呪われた集落かもしれません。わたしたちは引き返した方が……」
「何を言ってんだい、ポロル。やっとここまで来たんじゃないか」
「ケケケケ。ホホニの言うとおりだだぜ、ポロル。帰るなんてもったいない」
そいつらの会話など、聞き流そうと思っていたが……。
どうにも喉がつっかえたような気になってしまう。
そいつらに横目を送る。
「おい、さっきなんて言った?」
「ケケケケ。帰るのはもったいないと」
「もっと前の台詞だ」
「ここは呪われているかもしれないので、引き返した方がいいと言ったわ」
「ポロルの話じゃない。アリク、答えろ」
「俺? ええと……人の姿が見えないから廃村なのかなっと」
そうだ。
「おもしろいことを言いやがる。ベスはどう思う?」
「アリクの言うとおり、人は見えません。しかし気配はあります。近くにいるはずです」
「さすがだな。スライムの王族は」
「ど、どういうことです、エアスさん?」
ジーガンが疑問を投げかけたときだった。
ブォオーーーーーーーン
爆発によりドドンが吹き飛んだ。
だが、すぐに起きあがった。
「ゲゲゲっ、いったい何が起きたんだ!?」
続いてジーガンが大声をあげる。
「ぬぐぅーーーーーーーー」
腹部から流血。たちまち服が真っ赤に染まった。
ホホニとアリクが騒ぎだす。
「いったいどうしたって言うのさ」
「どうして爆発が? どうしてジーガンが流血を?」
どいつもこいつも、ふざけてるわけじゃなさそうだ。
ならば……。やはりそういうことなのだろう。
狙いを定めて片手を伸ばす。
「お前っ。み……見えているのか」
俺様が喋ったのではない。
ホホニとアリクが、また騒ぐ。
「なんだい、いまの声は。誰かいるのかい?」
「さっきの声、エアスのものじゃなかったよな?」
ほんの少しだけ指先に力を入れてみた。
「く、苦しい……。放せ」
ホホニとアリクが、目を丸くする。
「嘘!? 突然、人が現れた?」
「そいつは誰だ。いつからいた?」
やっと見えたか。初めからここにいたぞ。突然現れたのではない。
爆発魔導を放ったヤツこそコイツだし、剣でジーガンを刺したのもコイツだ。
しかし暗殺者としちゃ未熟だった。不意打ちのつもりだったのだろうが、ドドンを爆死させるほどの魔力はなかった。ジーガンを刺殺するほどの腕力もなかった。
いま俺様はコイツの喉を軽く握っている。
かなり手加減しているつもりだが、顔を真っ赤にして苦しそうだ。
足をバタバタさせている。剣を持った右手を振り回している。
しかしコイツの持つ剣は、俺様の皮膚を傷つけられないでいた。
「おい、アリク。疑問があるなら、直接コイツに訊け」
アリクが剣を構えて寄ってくる。
「お前は何者だ。いつからいた。それとどうして俺たちを襲う?」
「洞窟の住人です。ずっといました……。助けてください」
「さっきまで姿が見えなかったのは、お前の魔導のせいか」
「はい。ただ魔導ではなく、厳密には特殊スキルです」
ジーガンも寄ってきた。
「つまり透明な姿になって、俺の腹を剣で刺したんだな?」
「申し訳ございません。こうするしかなかったんです」
「何故だ。なんで俺らを攻撃するしかなかったんだ!」
「が……外部から、わっ我々民族を守るためです」
ジーガンの大声に、ずいぶん萎縮しているようだ。
俺様はコイツの体をジーガンに投げ渡した。
密集する簡素な建物をじっと見据える。いた!
「おい、そこの窓から見てたヤツ! 隠れずに出てこい」
建物から棒きれを持った男が三人出てきた。
棒きれは護身のためか。やれやれだ。
だが面白い。コイツらに問う。
「お前ら、人間か?」
誰も何も答えない。代わりにアリクが口を動かす。
「なんて質問だよ。どう見ても人間だろ」
「どう見てもだと? そいつのこと、ずっと見えなかったくせによく言うぜ」
「そりゃそうだけど……。てか、エアスにはどう見えてるんだ」
「蛇の化け物。あるいは半蛇半人」
「えっ?」
ジーガンの腕の中で男が言う。
「はい、いかにも我々は蛇人です」
アリクもジーガンもホホニも、ポカンとする。
笑い上戸のドドンからも笑い声が消えた。
普通の人間の目には、コイツらが蛇野郎に見えてないようだ。
どういうことだ? どこからどう見ても、蛇野郎じゃねえか。
背後に振り返る。
「お前もそうだろ、ポロル?」
ポロルがクスッと笑う。
「はい。バレていましたか」
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