45 秘宝の眠る山について、話を聞きました
人探しに協力する三人組は、どう見ても普通の人ではなかった。
一人はジーガンという名の長身男。体はガッチリとした筋肉質だが、背が異様なまでに高いため、かなり細身に見えてしまう。
もう一人はホホニという女。何故かずっと寝巻き姿のままでいる。しかも品のないネグリジェであり、さらに品のない下着が透けていた。
最後の一人はドドンという名の男で、大きな口が耳の近くまで裂けている。いつもケケケケと笑っているが、驚くとゲゲゲに変わる。
三人とも魔導の使い手であり、冒険者だったこともあるそうだ。
僕たちは宿屋に戻り、三人組にジャイのことを話した。
「……ということだけど、ジーガンたちは猪人を見かけたことはある? あるいは目撃した人の噂とかないかな」
「残念ながら猪人なんて見たこともねえし、耳にしたこともありませんぜ」
そっか残念だ。困ったなあ。
部屋の隅っこには少女ポロルが立っている。
ああ、そうだった。ジャイのことだけじゃない。
「あともう一つ。僕たちはポロルのお母さんも探してるんだ。それについても協力してほしい」
下品女のホホニが、じっとポロルを見据える。
「あんたのお母さん、なんて町または村にいるんだい?」
「……二つの大河の狭間」
「聞いたことない場所だねえ。ジーガンとドドンは知ってる?」
二人とも首を左右させるのだった。
いまのところ手掛かりナシだ。
「少なくとも猪人の子についちゃ、大急ぎで探さないとだねえ」
「ケケケケ。何かワケでもあるのか、ホホニ?」
「ここで昔っから言われてるじゃない。西風の多い年は冬の到来が早いって」
それはマズい。ジャイが凍死してしまう。
僕たちはジーガンたちのいる宿に移った。快適で格安だったからだ。
しかも子豚連れなのに、宿主からは何も言われなかった。
眠っているコジャイの頭を、ベスが撫でようとする。
しかしコジャイはベスに気づいたのか、パっと目を覚ました。
逃げるように走り出す。ベスの顔は寂しそうだった。
コジャイは僕のもとにやってきて、ぴょんと膝に乗っかった。
「ケケケケ。人間によく慣れた野良豚だぜ」
僕もそう思う。
ベス以外には、少しも人見知りしない。
クリクリした目が僕を見つめている。
「この人懐っこさ、前の飼い主から可愛がられてた証拠だね」
「ケケケケ。案外、その豚こそがジャイって人物だったりしてな」
「ドドン、酷いよ! 確かにジャイは猪人だけど、豚じゃないっ」
するとホホニが口を挟む。
「ドドンはさあ、別に悪い意味で言ったんじゃないよ。呪いかもってことさ」
はあ? なんだ……呪いって。
きょとんとしていると、ジーガンが笑う。
「ガハハハハ。エアスさんには、呪いと言ってもさっぱりでしょう」
「うん、さっぱりわからない。どういうこと?」
「たとえば俺の身長、どれくらいに見えますかねえ」
「ありえないくらい高い。いままで会ったどの人よりも高身長だ」
ジーガンがまた笑う。
「確かに俺は背が高い方です。けど驚くほど高いわけじゃないんです」
何を言っているのだろう。
彼の高すぎる身長には、誰だって驚愕するはずだ。
さらにジーガンが言い続ける。
「たとえば俺が立ってるときです。エアスさんの手は俺の頭に触れられますかね」
「無理、無理、無理。僕の手が届くはずない」
「じゃあ、試しに触ろうとしてみてください」
「絶対に無理だけど……」
皆で屋外に出た。
立ったジーガンの頭に、手を伸ばしてみる。
あっ!!!!
「届いた。どういうこと?」
これはおかしい、おかしいぞ。
絶対にありえないことなのに。
「エアスさん、驚いたようですね。これ、呪いなんです」
「呪い……」
「はい。人間じゃないくらい背が高く見えてるだけなんです」
高身長に見えてるだけだったとは。しかしヘンなのは、それだけじゃない。
僕の手は、ジーガンの頭に届いたときも、別に長く見えることがなかった。
不思議だ。
ただ、彼の頭に触れた手を見続けていると、目がチカチカしてくる。
頭もくらくらしてきた。なんか気持ち悪い。
「ケケケケ。奇妙だろ」
「うん、まったくだよ」
「じゃ、あたしの恰好どう見える?」
ホホニの恰好? ちょっと言いづらいけど、透け透けの……。
「寝巻き姿でしょ」
「いくらあたしだって、外でなんて着られっこないわ」
「えっ、それじゃ」
「あたし以外の人には寝巻きに見えてるだけ。しかもだらしないタイプの」
「そんな……」
破廉恥で恥知らずな人ではなかったのか。
「ケケケケ。そんじゃ俺にかけられた呪いはわかるだろ?」
「大きな口?」
「そうだ。実際に口は裂けてない。普通の人と同じ大きさの口だ」
ああ、なるほど。口裂け男ドドンの言いたいことがわかった。
僕は小さなコジャイを抱えあげた。
「このコジャイが、実はジャイかもしれないってことだね」
つまり呪いにかけられたため、子豚のように見えているだけなのだと。
軽々と抱えることができているのも、錯覚にすぎない可能性がある。
もしかすると、いまこのときも人語をちゃんと喋っているのかもしれない。
ただ呪いのせいで、僕たちの耳には人語に聞こえないとか。
だけどその場合、非常におかしな点が一つある。
女好きのジャイが、ベスを避けるなんてことはない。
なあ、コジャイ……。
本当のところどうなんだ?
あ、オシッコした。
町で聞き込みを開始する。『猪人の目撃情報』と『二つの大河の狭間についての情報』を入手するためだ。しかしなんの情報も得られなかった。
この町は諦めた方がよさそうだ。町を出て、他を探すしかない。
三人組には引き続き協力を要請した。彼らには悪いとは思う。
だけど、なんでもすると言ったのだから構うものか。
長旅にならないことを祈る。ああ、ジャイが心配だ。
でもゾガ大陸は広そうだ。極寒の冬になる前になんとか……。
ジャイを探しながら、ポロルの母親も探し続ける。
大河沿いを歩きまくった。しかし大河なんてどこにでもある。
二つの大河かぁ……。もっと絞り込めるような情報はないものか。
大河から大河へと移っていく。たくさんの町や村を渡り歩いた。
しかしなんの情報もまったく集まらなかった。
今朝は異様に寒かった。それもそのはず。外は霜が降りていた。
マズい。マズい。冬が近い。ジャイ、待っててくれ。
いつもより早く出発した。
大平原に、ぽつんと切り立った山が現れた。
途端に三人組のようすがおかしくなった。
「ジーガンたち、どうかした?」
「はい。あの奇妙な形の山が……」
どれどれ? ジーガンの指差す方を見る。
「確かにヘンテコな感じの山だね」
「……かつて俺たちの探してた山の形にそっくりなんです」
「かつて探してた?」
「はい、宝の隠された山です」
すると小さなポロルが、珍しく話に割って入ってきた。
「あれは単なる伝説でしょ? 大人のくせに、そんなものを信じてるなんて」
少女ポロルが三人組に、冷ややかな視線を送る。
だけど僕としては、その伝説に興味が湧いた。
単に伝説という響きが、とてもカッコ良く聞こえたからだ。
「山に何があるっていうの?」
僕の問いに、口裂け男のドドンが答える。
「ケケケケ。伝説の秘宝【山龍の剣】が眠ってるんだ。俺たち三人はパーティを組んで、あちこち探し歩いたもんだ。ところが、その途中で悪い術士に阻まれ、俺たち三人はこんな呪いをかけられた。それ以降、秘宝探しを諦めちまったわけさ。あの山……。もしかすると、本当に例の山かもしれねえぜ」
三人組の目はギラギラと輝いてきた。
アリクも話を聞いて興奮しているようだ。
僕たちはその山に、ちょっとだけ寄ってみることになった。
ただポロルだけが「もうすぐ冬が来るのに」と、不満そうな顔だった。
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