表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/64

4 国外に永久追放されました


 港に到着。


 ここから多くの船が、あちこちの大陸に向かう。

 僕たちは埠頭ふとうの事務所で、身内や友人への手紙を書き始めた。


「おい、エアス。お前に手紙を書く相手なんているのかよ」


 そう言ってきたのはジャイだ。ギルドでは、僕と同じく最年少だった。

 ともに十五歳。ただしそれは戸籍上のことであり、実際の生年日は不明。

 赤ん坊の頃から同じ孤児院で育った。まあ、兄弟のようなものだ。


 だけど彼は以前から、何かと僕に突っかかってきた。

 ギルドでの僕の活躍が、ずっと面白くなかったようだ。


 ただ、理解できなくもない。

 僕はギルドでエース的存在。ジャイは雑用係的な存在だった。


 もし立場が逆ならどうだっただろう?

 僕だって嫉妬くらいしていたかもしれない。


 だから多少の憎まれ口は、いつも大目に見ていた。

 でも偶に度を越えることがあった。そんなときはケンカした。

 ずっと口を聞かなくなることだってあった。半日くらいだけど。


 もしかして、二度と彼とは会えなくなるかもしれない。

 そう思うと、ケンカした日々すら懐かしい。

 寂しいな。あの日常がきょうで最後なんて。



 さて。手紙を書けた順に、乗船することになっている。


 手紙を書かなかったジャイは、すぐ船に乗ることになった。

 行き先はゾガ大陸らしい。ザルドフの部下に連れられていった。


 ジャイを除き、手紙を一番早く書きあげたのは僕だ。

 たった三通のみだったからだ。


 一つは、ギルド館内の清掃員だった老夫婦宛て。

 もう一つは、ギルド医務室の先生宛て。

 どちらも冒険者ではないため、刑罰の対象外だった。


 最後の一つは、僕を育ててくれた孤児院の先生宛て。

 追伸として、そこの子供たちにも一言ずつ書いた。


「手紙、書き終わりました」

「確かに預かった。名は……エアスというのだな」


 ザルドフはリストで僕の名前を確認。


「マリーリョ大陸へ向かってもらう」

「やっぱりジャイとは、いっしょじゃないのか」


 ここでザルドフが説明する。


「諸君は、いっさい同船を認められていない。それぞれが別々の本船に乗ることとなる。到着する港も違う」


 皆、離ればなれ。それが国王命令なのだ。

 この話を聞き、青ざめたのが新婚の先輩夫婦だ。

 夫婦の顔をじっとうかがうザルドフ。


「そこの二人は……ご夫婦だったか。いっしょに乗ればいい。こっちの手違いとしておく」


 やはりザルドフはいい人だった。



 さて、僕は一人の兵士に連れられ、桟橋さんばしへとやってきた。

 船に乗ろうとしたとき、バシッと背中を叩かれた。

 彼は無言だったが、その顔は『頑張れよ』とか『達者でな』とか言っていた。


 僕は兵士に一礼し、船に乗り込んだ。

 これから船旅が始まる。もちろん楽しいものではない。


 刑罰のはずなのに、乗船チケットの料金払いは義務だった。

 しかし財産没収で一文無しになったため、支払えるはずがない。

 だから船内で、料金分を働かなければならなかった。


 ついでに追放先での当面の生活費も、船内で稼がせてもらうことになった。




 十五日後、マリーリョ大陸の港に到着。

 広大なマリーリョ大陸は、いくつかの国に分かれている。

 ここはドルンバ王国というらしい。


 賑やかな港町を一人で歩く。


 これから先の居住場所を、どうにか確保しなくてはならない。

 手持ちのカネが尽きる前に、働き口を探す必要もある。


 僕がここで働けるとしたら……。

 仕事はやはり冒険者くらいだろうか。


 アスリア大陸以外には、まだ魔物が生息しているはずだ。

 住み込みで働ける冒険者ギルドがあればいいのだが。



「きゃーーーーーーーー」



 悲鳴が聞こえた。狭い路地の方からだ。

 しかし誰も振り向かない。聞こえないフリをしているのか。

 それどころか逆に、人々は歩行を速めるのだった。


 僕は路地に入っていった。


 そこにいたのは三人のチンピラ風の男たち。

 奥には……。あっ、ウサ耳?


 獣人の女の子だ。珍しい。


 アスリア王国すなわちアスリア大陸に、獣人はほとんどいなかった。

 だけど身近に一人だけいた。同じ孤児院で育ったジャイだ。猪人だった。

 ほかに見たことのある獣人といえば、旅人などの短期滞在者くらいか。


 いまそこにいるのは兎人。

 獣人の中でも兎人を見るのは初めてだ。


 念のため彼女に確認する。


「お困りのようですけど?」


 応答はない。彼女は震えるだけだ。

 しかしチンピラ風の男たちが振り向く。


「なんだ? 小僧。あっち行け」


 当然、素直に立ち去れるわけがない。

 だから訊くけど……。


「どうしてその子の服を、引っ張ってるんですか」

「そりゃ、引っ張らねえと、脱がせられねえだろ」

「脱がすって!? じゃあ、やっぱり迷惑行為……」


 男たちが下卑た笑みを見せる。


「ひひひ。兎人の女だ。その体にモフモフしたくなるのは当然」

「そんな勝手な。嫌がってるじゃないですか」


 すると男たちが顔をすごませる。


「うるさい、小僧! さっさと失せろ。ぶっ殺すぞっ」

「殺されませんよ。僕、こう見えても、海外で冒険者やってたんです」

「こんなガキが冒険者? おもしれえ。痛い目に遭わせてやる!」


 三人がかりで襲いかかってくる。


 僕は出国前に剣を没収されている。

 だけど素人相手ならば素手でじゅうぶん。



 ビシッ バシッ ドシッ



 当然ながら楽勝だった。

 逃げていくチンピラ風三人衆。


 僕は兎人の女の子に声をかけた。


「大丈夫ですか」


 つやのある真っ白な毛。目は丸くてクリクリしている。

 人間の女の子に負けないくらい魅力的な子だ。

 しかし彼女はまだ震えている。


 僕は笑顔を作った。

 するとようやく声を聞かせてくれた。


「申し訳ございません。せっかく冒険者様に助けていただいたのですが、生憎、わたしにはお礼として支払うおカネが……これしかありません。でもわたしの全財産です。どうぞこれでお許しください」


 声を震わせながら、花柄の袋を差しだしてきた。

 チャリッと音がした。コインが入っているのか。


「受け取れません。僕はお礼なんて要りませんから」

「で、ですが、あなたは冒険者様とおっしゃりました」

「僕が冒険者だと、何故、おカネのお礼が必要なんですか?」


 首をかしげる兎人の女の子


「えっ?」

「……えっ?」


 僕たちは互いにポカンとするのだった。



ここまでお読みくださり、ありがとうございます!!

もし続きが気になるという方がいらっしゃいましたら、

【評価】と【ブックマーク】で応援をお願いいたします。

下の ☆☆☆☆☆ を ★★★★★ に変えてくださると、

最高にうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ