表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/64

35 魔紙の番人に会いました


 ネオバーサーカーとなった俺様は、まず一匹目の頭を叩き割った。


「な、なんだ……この小僧は?」


 二匹目、三匹目も瞬時に殺してやった。

 四匹目の大きな爪が俺様を襲う。



 カチっ。



 俺様の体を切り裂くことはできなかった。

 逆にその前足をもいでやった。

 もいだ前足の爪で、四匹目の体を切り裂く。


「どうだ。自分の爪で殺される感想は?」


 五匹目の牛鬼はどいつだ?


「コイツ、ヤバいヤツだぞ」


 いま声を発した牛鬼を、五匹目として認定。

 足蹴りで顔を潰してやった。額から体液が噴きだして絶命。

 牛鬼の集団がいっせいに逃げていく。


 逃がすものか。


 少し本気でダッシュした。どの牛鬼よりも早く階段に到着。

 そこからUターンする。集団を徐々に奥へと追い詰めた。


 これから血と肉の祭りを始める。

 一匹たりとも絶対に逃がさない。



 バシッ ボコッ グシャッ 



 ああ、愉快だ。楽しいぃー。

 あっと言う間に死体の山が築けた。



 ===  ===  ===  ===



 僕はネオバーサーカーから元に戻った。

 牛鬼の残骸を目にして震えあがった。


 殺しちゃいけなかったのに、やっちゃった。


 だけどネオバーサーカーの僕が悪いわけではない。

 全滅させようと決めたのは、こっちの僕なのだ。

 もう後戻りはできない。でも構うものか。



 ガサッ



 音が聞こえた。牛鬼の生き残りか?

 しかしどこにも見えない。隠れているのだろうか。



 あっ、まさか。



 天井から吊りさがったサーバラに寄っていく。

 いまの音はサーバラ? だったらまだ生きている?


 彼女が目を開けた。本当に生きていたのだ。


「サーバラ!」


 牛鬼の爪で白い糸を切断。サーバラを解放した。

 彼女の凍りついた体が振動する。そして光った。

 彼女は魔導により自分の体を解凍させたのだった。


「助けてくれてありがとうございます」

「生きてたんだね。良かったよ」

「嘘を吐いたことはお詫びします。自害するつもりはありませんでした」

「そっか。全身がカチカチに凍ってたから、てっきり……」

「わたしは雪鬼です。世の中さまざまな死があろうと、凍死だけはありえません」


 サーバラが牛鬼の死骸を眺める。


「とうとう殺してしまわれたのですね」

「僕のせいですべての計画が台無しだ。キミにも皆にも謝らなきゃ」


 するとどうしたことか、サーバラが僕の両手を握ってきた。


「わたしたちだけの秘密としましょう。誰にも知られなければいいのです」


 まさかサーバラにそんなことを言われるなんて。


 二人で地下から階段をのぼりきった。サーバラがその階段に手を向ける。氷結魔導を放った。地下階への入口を氷で塞いだのだ。


「この氷は永遠に溶けません。これで隠蔽完了です。帰りましょう」


 隠蔽って。


「そ、そうだね。帰ろうか」


 僕は建物を出ようとした。

 しかしサーバラは後方で立ったまま。


 目が合った。


「どうしたんだい、サーバラ」

「再度、礼を言わせてください。エアス様、この度はありがとうございました」


 いつも無表情だったサーバラが微笑んだ。

 いままでに見せたことのなかった表情だった。




 翌日。


 朝を迎えた……と思ったら、もう昼だったようだ。

 魔空は一日じゅう明るいので、朝昼晩の区別が難しい。

 ベルザスとサーバラは、どうやって判別しているのだろう。


 疲れ切っていたベスの顔色もいい。



 さて、ベルザスが魔紙の番人の住処を見つけてきたという。

 僕たちは彼女についていった。そこは黒い建物の三階。


 ベルザスが笛のような音色の声を出す。

 何かの合図だろうか。ドアが開いた。


 ずんぐりむっくりの魔物が出てきた。

 彼が魔紙の番人だという。


 ベルザスの話に、番人が首を左右させる。


「人間との友好など大反対! 帰れ」

「これは魔王ミリカ様のご意思です」


 しかし番人は、なかなか首を縦に振らない。

 大きな目がこっちに向いた。


「そっちは……まさか人間?」


 バレたか。


 二人の魔王侍従は無言のままだった。

 無表情だから何を考えているのか不明。

 心の中では結構焦っているのでは?


 こういった場合、正直に話した方が良い結果になると思う。

 だから僕が白状することにした。


「はい、人間です。このマスクで人間の匂いを消してます」

「人間とは直接話したくない」


 ベルザスが僕に代わる。


「何卒、魔紙をいただきたく」

「ならば持っていくがいい」


 番人はドサッと机に紙を置いた。

 しかしベルザスは受けとろうとしない。


「あなたのサインがあるものでなければ、意味がありません」


 単に魔紙を持ち帰ればいい、ということではなかったらしい。

 魔王と正式な契約を結ぶためには、その魔物のサインが必要だったようだ。


「そこの人間。俺と力比べでもしてみるか。勝ったら望むものをくれてやろう」


 力比べ……。そういうからには自信があるのだろう。

 たとえ僕が冒険者だろうが、人間には負けるはずがないと。

 番人は正面の机を倒し、いまにも襲いかかろうとしている。


 僕の前にベルザスとサーバラが入ってきた。


「この人間に手を出すことは許しません」


 サーバラが言った。僕は少し驚いた。

 きのうまでの彼女ならば、考えられない台詞だ。


 番人の目がサーバラたちを蔑む。


「人間の味方するとは情けない魔物だな」

「その言葉、魔王ミリカ様への侮辱でもありますが?」

「人間をミリカ様と同じにするな! その人間、いま俺が殺してやる」

「魔王ミリカ様を一度は殺した相手に、あなたの実力で勝てますか」

「なにぃーっ? コイツがミリカ様を!!」


 逆に番人を激怒させてしまったようだ。


「暗黒弾っっっっっっっっっっっっっっ」


 両手から真っ黒な玉をブッ放した。

 もちろんいまの僕はネオバーサーカーではない。ただの人間だ。

 それを食らったら即死することは、容易に想像できた。


 しかしここで、身を呈して庇ってくれた者がいた。

 ベスだった。僕は倒れるベスを受け止めた。


「ベスぅーーーーーーーーーーーーー!」


 ベスが目を開ける。


「このくらいたいしたことはありません」

「ベス、どうしてキミはこんな無茶するんだ」

「夕べ誓ったのです。魔核地で」


 魔核地で誓った? ああ、そういえば……。

 いっしょに踊ったあと、ベスは奇妙な動作をしてたっけ。


「もしかして両膝をついて、僕の手を額に……。あれのことかな」

「はい。身を投げうってでもあなたを守ります、という意味です」

「ど、どうしてそんなことを」

「わたしにとって初めてのお友達だからです。大事なお友達なのです」


 ベスはそういって目を閉じた。

 僕の胸の中で、彼女の両手がだらりとする。


「ベス!!」


 しっかりしてくれ、ベス。

 たいしたことないんじゃなかったのか?

 そう言ったはずなのに、どうして。


「彼女はスライムロッサです。闇属性の魔導にはめっぽう強いのです。この程度では死にません」


 ベルザスの言葉だ。それを信じたいけど……。

 動かないベスの体を、アリクとカーニャに預けた。


 番人が笑っている。


「ハハハハ。人間ごときを助けるため、そこまでするとはな。やはりスライムというのは劣等魔物ってことだ」


「うるさい! お前にベスの何がわかるというんだ。番人だかなんだか知らないけど、僕は許さない」


 ベルザスが慌てて僕を止める。


「いけません。番人を殺してはなりません」


 僕は力なく笑った。


「いいや。僕は失望したんだ。魔物との殺し合いのない大陸になったらいいな、と思ってきた。だけどわかったよ。無理なんだ。こんなヤツらと友好関係なんか結べるものか。もうどうでもいい。またアスリア大陸から魔物がいなくなればいい。ああ、だけど安心して。ベスもベルザスもサーバラも殺さないよ。人間を襲わない限りはね」


 カーニャが僕の腕を掴む。


「ちょっとエアス、何言ってるの」


「いいじゃないか。アスリア王国を魔王から守ったのはエアスだ。エアスの好きにやらせよう」


 アリクが言うと、カーニャは何も言わなくなった。


「アリク、カーニャ、ありがとう。いまから番人を殺すよ。ベスを連れて遠くに逃げて。ベルザスとサーバラも、僕に殺されたくなければ逃げて。さあ、早く!」


 皆がいっせいに遠ざかる。残ったのは僕と番人のみ。


「おい、人間。ふざけてるのか」

「本気だよ。いまから殺すからね」


 番人は遠ざかる皆を一瞥。両手を僕に向ける。

 また暗黒弾を放つつもりか。僕は咄嗟に――。


「トラン……」

「待ったぁーーーーーーーーーーーーーーー」


 叫んだのは番人だ。

 突きだした両手を、大きく振っている。


 な、なんなんだ?


「殺さないでくれ。魔紙にサインする。人間との関係を承諾する、いいや、切望する。だから許してください」


 番人がヘタレた。



ここまでお読みくださり、ありがとうございます!!

もし続きが気になるという方がいらっしゃいましたら、

【評価】と【ブックマーク】で応援をお願いいたします。

下の ☆☆☆☆☆ を ★★★★★ に変えてくださると、

最高にうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ