19 二次試験が始まりました/その2
若い試験官が怒っている。
そこへもっと若い男がやってきた。
制服を着ていないので試験官ではなさそうだ。補佐とかか。
若い試験官に向かって言う。
「先輩、あんなヤツは俺が懲らしめてやりますよ。採用試験としての対戦ってことでいいですよね? それならば、誤って殺しちゃっても無罪ですから」
「それでいい。お前、去年の採用試験でトップだったな。やってやれ」
話を勝手に進めるな。
ギルド一年目の新米と戦わせるつもりか。
「おい、却下だ。つええヤツを出せ。もっとベテランを連れてこい」
「何っ? このうぬぼれ野郎! 馬鹿にしやがって。殺すぞ」
新米ギルド員がかかってくる。
ふう、やれやれだ。そいつの腕と肩を掴み、引きちぎってやった。悲鳴をあげる新米ギルド員。だが命を取ることまではしない。仙薬のせいで気分が最悪になるからだ。
老人が目を見開く。
「下品で野蛮で残酷で無茶苦茶なパワー。あれはバーサーカーか? いいや、もしバーサーカーならば、もっと派手に暴れているはず。そのまま相手を殺していただろう。ではなんだ?」
白衣の者どもが、さっと集まった。
新米ギルド員に回復魔導を施す。
しかし完治まで半年以上かかるとか。
弱いヤツが来たからこうなった。
さあ、つええヤツと早く戦わせろ。
「さっさとギルドのトップを出せ!」
すると制服を着た試験官たちがやってきた。
いいぞ。ベテラン冒険者どものお出ましだな。
「この中にギルドのトップはいるのか」
「ふざけるな、黙れ」
てことは……トップはいないのか。
一人の試験官が正面に歩いてきた。
「いいことを教えてやる。たとえ試験でそこそこの成績を残したとしても、お前の採用なんて誰も認めない。アスリア大陸出身者がいるギルドなんて、恥ずかしからな。ハハハハ」
なんでもいから、つええヤツ来てくれ。
「で? お前を軽くボコったら、このギルドのトップが出てくるのか?」
「クソ生意気なヤツめ! 怒らせたことを後悔するがいい!!」
試験官の手から黒い火弾が飛びだす。
手の甲で弾き返し、間合いを詰めた。
腹パンを決める。もちろん殺さないように優しく。
しかし……。
おいおい、一発で気絶かよ。
「もっと強いのを出せ! トップを連れてこい」
カッ カッ カッ カッ
何者かの笑い声。なんだ?
こっちを見て笑ってるのは、さっきの老人だった。
そいつが言う。
「喜べ。いまので試験は十分だ。二次試験通過を認めてやる。これは温情だ」
「また温情だと? 意味がわからねえ。喜べとはなんだ」
カッ カッ カッ カッ
老人はまた笑った。
「我がギルドの二次試験を、奇跡的に通過したということだ。これは貴様らアスリア人にとって、すこぶる名誉なことではないか。故郷に帰ったら自慢するがいい」
地面に唾棄する。
「関係ねえ。俺様はトップとやりてえ。出すんだ」
「ならぬ」
「だったら引きずり出してやる。ここの試験官全員をぶっ飛ばせばいいか」
老人の隣にいた試験官が、ペンと書類を放り捨てる。
「小僧、言わせておけば……」
ほかの試験官どもも、そいつに続く。
こうして試験官どもの集団攻撃が始まった。
な、何っ?
驚愕を通りすぎて唖然とした。
連携技のつもりなのだろうが……ショボい。
ここって三大ギルドの一つじゃなかったか?
ことごとく返り討ちにしてやった。
もちろん殺さないように手加減はした。
しかし試験官どもは重傷者が続出のようだ。
顔を歪める試験官ども。いいツラだ。
まだ終わるなよ。もっと楽しませてくれ。
どうだ、どうだ、それそれそれ。
だが……。飽きた。
何故こんなに弱いんだ。弱すぎる。
「おい、次は僕が相手だ!」
誰かと思えば、コイツ……。
ヘラルゴとか言う受験者じゃないか。
お前に用はない。
指先でノックアウトしてやった。
広い試験会場は大騒ぎになっていた。
「滅茶苦茶すぎる」
「アイツ、何者だ」
「本当に人間か」
ここで空気が変わった。なんだ?
歓喜の表情を浮かべる老人。
「おお、やっと来てくれたか」
その視線の先に男が立っている。
男は試験会場内を見回した。
「何事かと駆けつけてみれば、これはいったい……」
「ちぃーと元気すぎる受験者が、ウチのトップと遊びたがってのう」
老人の指差す方に、男が顔を向ける。
俺様と目が合った。
「元気すぎる受験者とは貴様のことだな」
「お前はなんだ」
「貴様の望む『当ギルドのトップ』だ」
やっと出てきたか。
「待ってたぜ。かかってこい」
「貴様など瞬殺だぁーーーー」
ヤツのコブシが俺様の頬に当たった。
というよりワザと当たらせてやった。
駄目だ。コイツも弱い。
溜息が出てきた。
「ふう」
「お、俺の必殺【龍獄拳】を喰らっても無事なのか……」
「ガッカリだ」
「なぬっ。では究極の爆発魔導を喰らってみろ!」
至近距離から何かが飛んできた。
思わずそれを右手で掴んでしまった。
右手の中で何かが弾けた。
数年前にアスリア王国で流行った『乾燥コーンの破裂菓子』か。
首をかしげるしかなかった。
「これのどこが究極なんだ?」
「そんな……馬鹿な……」
ヤツは力尽きたように、地面に両膝をついた。
老人が頭を抱えながら言う。
「なんてことだ。もういい合格だ。三次試験も不要だ」
ザワザワする試験官ども。
「ギルド長がアスリア人を認めたぞ」
「じゃあ、平和ボケのアスリア人が、うちのギルドに!?」
「だけどあの実力だ。ブルードラゴンを倒したというのも、嘘ではなかろう」
話し声によると、老人はギルド長だったらしい。
そのギルド長が両手を左右に大きく広げる。
「君のような実力者がほしかった。君を歓迎しよう」
「うるせ、黙れ」
「な……なに?」
目を白黒させる老ギルド長。
「まだ足りねえ。もっと強いのを出せ。全員でかかってこい」
「いやいや、これ以上戦わせるわけにはいかない。皆、死んでしまう」
「ふざけんな」
老ギルド長が低頭する。
「ぜひ君を我がギルドに迎えたい」
「断る」
「えっ????」
「こんな弱者集団にいられるか」
老ギルド長の額に一筋の汗。
「う、うちは三大ギルドの一つだぞ」
「あー、つまんねえ。三大ギルドでこのザマとは」
「どうか入ってほしい。君が来てくれたら、他ギルドを圧倒できる」
俺様の爪が、老ギルド長の腹を貫く。腹は真っ赤に。
「うごっ。何をする……」
「俺様を不合格にしろ」
老ギルド長は出血しつつも、不可解な顔を見せた。
「は? どういうことだ」
「俺様を試験に落とせって言ってるんだ」
「し、しかし……」
「もし採用なんて発表したら全員殺すぞ」
イライラがマックスに達してきた。
もしかすると、いまの俺様ならマジで殺せるかもしれない。
「わかった。君の言うとおりにする。だが一つ教えてほしい。平和ボケ……もとい平和なアスリ大陸出身というのは、本当なのか」
「本当だ。言っておくが、魔物がいなくなったのは、俺様が滅ぼしたからだ」
「なんと!?」
腹から大量に出血した老人ギルド長は、そのまま気絶した。
二次試験は中断。多くのギルド員に回復治療が必要なためだ。
このまま元のエアスに戻るべきだが、まだイライラが止まらない。
だからギルド敷地内の建物を、すべて破壊して回った。
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