18 二次試験が始まりました/その1
二次試験が始まろうとしている。
その内容は受験者同士の戦闘勝負だ。といってもトーナメント方式は、まずありえない。有能な受験者同士が、早くぶつかることもあるからだ。また総当たり戦も無理がある。受験者はまだ百人も残っているのだ。
ということで、各受験者が三~四人の受験者と戦うことになった。結果よりも内容で判断するとのことだ。
したがって仮に一敗したとしても、まだ慌てる必要はない。逆に全勝したとしても安心できない。もし印象に残らないような試合ばかりなら、試験に落とされてしまうこともあるのだ。
トップ通過を狙う僕としては、全試合を圧勝しなければならない。
いいや。圧勝だけでは駄目だ。派手な圧勝でなければトップ通過は遠い。
それにしても……。どうして僕が、初っぱなから登場しなければならない? いきなり最初の試合に出されるなんて。
なんだか緊張するなぁ。
僕の対戦相手は、一次試験が九十九番目の通過者だった。ああ、そうか。わかったぞ。順位の低い者同士を先に戦わせるわけだ。これじゃ圧勝したとしても、印象は薄いだろう。トップ通過にはますます不利じゃないか。
九十九位の対戦者がやってきた。
互いに顔をうかがう。
ん? この対戦者、見覚えがあるような……。
えーと、誰だっけ?
ああ、思いだした!!
僕は笑顔で話しかけた。
「ねえ、キミキミ。僕のことは知ってるはずだよね。ほら、ダンジョンでいっしょだったじゃないか。行き止まりの通路に進んじゃったんだよね。だけどブルードラゴンに通路を塞がれたっけ。あのときは焦ったな。そのとき僕はキミをしっかり目撃したよ。キミはブルードラゴンは見ているはずだ。なのにどうして見てなかったことにしたんだい? 試験官が皆に訊いたとき、誰も挙手しなかったけど」
「し、知らないよ。行き止まりってなんのことかなあ。人違いだと思うけど?」
目すら合わせようとしない。シラを切るなら、それでいい。
対戦者がこんなヤツで良かった。なんたって、僕はネオバーサーカーになると、相手を滅茶苦茶にしてしまうのだ。いつもならば気が引けるところだけど、今回は気にせず特殊スキル<トランス>を使える。
それに……。
ダンジョンでトランス状態から戻ってから、もうだいぶ時間が経過している。だからアッチの僕はスタミナばっちりのはずだ。今度はトランス化に失敗なんてないだろう。見てろよ!
ようやく試験官たちがやってきた。
そのうち一人が審判となる。僕たちの間に入った。
残りの試験官は僕たちをグルリと囲んだ。
彼らは試合内容を評価するためにいるそうだ。
いよいよ試合開始――!
その途端、相手の足がガタガタと震えだした。
おいおい、僕はまだトランスもしてないのに。
「やっぱり……怖い。エアスさんに勝てるわけがない~」
えっ? ちょっと待ってくれ。
どうして逃げるんだ。試合放棄じゃないか。
ねえ、これ、どうすんの?
えっ、僕の勝ち? なんてこった。
圧勝しなくちゃならなかったのに……。
次の対戦も僕だった。
おいおい、連チャンか。
まるで勝ち抜き戦だな。
案の定、対戦相手は九十八位通過者だった。
通過順位の低い受験者と戦ったってなあ。
ところが、彼も試合放棄で逃げていった。
そして次の対戦相手。予想どおり九十七位通過者か。
彼も同じく試合前に逃げだすのだった。また不戦勝。
三人ともダンジョンで、なんとなく見覚えがあった。
てか、誰も戦ってくれないのか? これじゃトップ通過できなぁーい!
それどころか不戦勝ばかりだと、二次試験通過すら怪しくなるのでは?
試験官たちがザワザワしている。
「いったいどういうことだ」
「あの受験者はなんだ」
「もしかしてまた不正でもしてるのか」
「ブルードラゴンの件と同様ってわけか」
一人の受験者が前に出てくる。
周囲が騒がしくなってきた。
「見ろよ。あれってヘラルゴだよな」
「そうだ。注目株のヘラルゴだ」
「一次試験をトップ通過したヤツか」
えっ、ヘラルゴ? まさか次の対戦相手が彼だとは。
大物の登場にホッとした。これでやっと戦える……。
いくぞ、トランス!!
=== === === ===
俺様はネオバーサーカーとなった。
ヘラルゴとかいうヤツが眉根を寄せている。
「聞いたよ。不正したんだってね」
「はあ? 殺すぞ」
「僕が殺されるもんか。名門『メグレズ冒険者養成スクール』の主席だぞ」
「名門スクールの主席? ガッカリだ。それ素人ってことじゃねえか」
「うるさい! さっさと僕と戦うんだ」
「断る。もっと強いのがいい」
「なんだと!」
怒り心頭といった顔のヘラルゴ。
試験官が慌てて割り込んできた。
「二人ともさがれ。対戦相手はこっちで決める」
「おい、試験官、お前ギルドの一員だろ? 俺様と戦ってみろ」
試験官の口が、あんぐりと開いた。
しかし冷静さをすぐに取り戻した。
「却下だ」
「お前も俺様にビビってんのか」
挑発には乗ってこなかった。
この様子を呆れ顔で眺める老人がいた。
そいつも試験官だと思われる。
「あれはアスリア大陸の出身だったか。なるほど……未開地人らしい品格だな。あんな者は冒険者失格だ。穢らわしい民族め」
老人の隣で若い試験官が首肯する。
「同感です。アスリア大陸といえば、周囲が海ばかりの僻遠の地です。土民どもは野蛮で、文明度も発展途上だと聞いてます。そのくせ魔物に対抗することがないため、土民どもは強い精神力を持たず、だらけきった生活をしているというではありませんか。そんな土民どもに、先進大陸の冒険者が務まるはずなどありません」
その若い試験官が歩いてきた。
「不正疑惑があったらしいな。あらかじめドラゴンの魔石を持ってきたとか」
「ざけんな。どうでもいから、つええヤツと早く戦わせろ」
「おい、生意気だぞ」
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