11 ドラゴンを前にして皆でビビりました
立ちはだかるドラゴンに、受験者たちが絶望の声をあげる。
「どうしてブルードラゴンが、このダンジョンに!?」
「超高難度の魔物は出現しない、って話だったじゃないか」
「俺たち皆死ぬぞ。ああ、試験受けるんじゃなかった」
「これは絶対に助からない。もう駄目だ」
へえ、これブルードラゴンっていうのか。青くて美しい。
ちなみにブルードラゴンはアスリア大陸にいなかった。いままで僕が倒してきたドラゴンは、ブラックドラゴン、マウンテンドラゴン、ミニドラゴンの三種類のみだ。
この青いドラゴンが、そんなに厄介なヤツだなんて。
ならば、いままでで最強のドラゴンかもしれないな。
多くの受験者が弱音を吐いているが、僕は知っている。
これまでの経験上、冒険に『絶対』なんてものは存在しない。
想定外の凶暴な魔物と遭遇することなんて、ザラにあるのだ。
ここで一人の受験者が手をあげる。
「ブルードラゴンは強敵。だがここは俺がなんとかしよう」
その立派な装備、見間違うわけがない。彼の名前はルキルク。
大商人の息子とかで、ガウガたちと同じく有名人だ。
ルキルクが言葉を続ける。
「俺が強烈な閃光魔導で、ブルードラゴンの目を潰そう。それまで皆、目をギュッと瞑っててくれないか」
受験者たちは彼に同意した。
僕も目を瞑って待った。
ルキルクにより、閃光魔導が放たれた。
薄暗いダンジョン内での閃光は、強烈だった。
瞼を閉じていても、痛いほど眩しく感じた。
グゴオオオオオオオオオ
まるで悲鳴のようなブルードラゴンの鳴き声。
ルキルクの閃光魔導が効いたようだ。
そろそろいいだろう。目を開けてみた。
あれっ――――?
すでにルキルクはブルードラゴンの背後に回っていた。
しかも向こうにいるのは、ルキルクだけではなかった。
ガウガとシールラも彼といっしょではないか。
「おーい、どうしてガウガとシールラもそっちにいるんだ?」
こっち側の誰かが大声で尋ねた。
ルキルクがそれに答える。
「目を潰したといっても一時的だ。全員が無事に逃げられるものではないだろう。だから挟み撃ちに切り替えることにした。ブルードラゴンの背後はこの三人だけでじゅうぶんだ」
「そういうことか。ならば背後から三人で攻撃してもらおう。頼んだぞ」
ところがブルードラゴンを背後から攻撃するようすはない。
有名人の三人は、分岐点の方へそのまま歩いていく。
えーーーーっ!
何故だ?
僕は思わず叫んだ。
「おーい、どこへ行く」
『聖女様』シールラが、チラッと振り返る。
「ごめんなさい。本当は皆さんとともに、死を迎えたかったの。だけど天はそれをお許しにはならない。世の中の人々が、わたくしを必要としているからよ。わかってね」
はあ? なんだ、それは……。
いまさらながら気づいた。ルキルクたち三人に騙されたのだ。
あの三人は大勢の受験者を脱落させるため、見殺しを決めたのだ。
今度はガウガが振り返る。
彼は笑いながら通路の天井を破壊した。
ズドドドドっと、崩れ落ちる瓦礫の山。
通路は完全に塞がれた。つまり閉じ込められた。
そしてここにはブルードラゴンがいる。
道を塞ぐ瓦礫の向こうから、ガウガの声が聞こえた。
「安心してくれ。俺たちはお前たちの分まで、立派な冒険者になってやるぜ」
ガウガのヤツ……。
とにかく残った者だけで、ブルードラゴンを倒さなければならない。
安易にブルードラゴンには近づけないため、皆で魔導攻撃を始めた。
もちろん魔導を使える者のみによるものだ。
火炎、氷塊、毒霧、爆雷…………。
しかしブルードラゴンにはまったく効いていなかった。
ショックを受ける受験者たち。
「あの三人ってさ……。初めからグルだったのかなぁ」
「くそっ、卑怯すぎる。あんな酷いヤツを見たのは初めてだ」
「しかもブルードラゴンといっしょに閉じ込めるなんて」
「ああ、超高難度のブルードラゴンなんて倒せないよ……」
皆の顔には絶望感が浮きでていた。
しかしどんな危機に直面しても、冷静でいなければならない。
冒険者はどんな場合でも、最後まで諦めてはならないのだ。
それがアスリア王国で冒険者をやって学んできたことだ。
ここの全員に言う。
「いくらなんでも諦めが早すぎやしないか?」
だが、彼らの口からはこんな返答があった。
「はあ? エース君が偉そうに」
「平和な大陸育ちのエース君は、何も知らないから言えるんだ」
「ブルードラゴンは恐ろしい。受験者千人全員でかかっても勝てっこない」
「まったくだ。十倍の一万人でも勝つのは無理だろうな」
「エース君が考えてるより、数百倍は強敵だと思っていい」
マジ!?
数百倍って……。そんなにすごいドラゴンなのか。
僕はブルードラゴンを甘く考えすぎていたらしい。
なんだか皆の『諦め』に感染されそうだ。
確かに弱音を吐きたくなってきた。
「つまり……ブラックドラゴンやマウンテンドラゴンなんかとは、比べものにならない魔物ってことだね」
僕はブルードラゴンの恐ろしさを知らなかった。
だってそれは仕方のないことじゃないか。
ブルードラゴンはアスリア大陸にいなかったんだ。
皆の視線が僕を軽蔑している。
「エース君は何を言ってるんだ。さすがにブラックドラゴンよりは下だよ」
えっ?
「でもマウンテンドラゴンと同等。ブルードラゴンはそれほど強いんだ」
へっ?
「無知なエース君、やっと理解できたか。俺たちはここで食われてお仕舞いだ」
んっ?
なんだよ、なんだよ、なんだよ!
マウンテンドラゴンと同等だったら……。
勝てるじゃん。わりと余裕で。
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