02.夜と朝
今日もよく眠れなかった。
私は固く重苦しい布団を押し上げて這いずるようにして出た。立ち上がって見れば、滅多に開けないカーテンを透かして差し込む陽の光の微かな明るさしかないこの部屋は10代半ばを過ぎた私には寝ていた頃より、一層に窮屈だった。カーテンの傍によれば、僅かな太陽の温かさが私の皮膚を焦がしてきた。そっとカーテンに伸ばした指先は酷く汚い。女性の淑やかさだったり、嫋やかな生活を感じることのないゴツゴツとした、いかにも雑な皮膚組織の手袋だった。カーテンをそっとそっと、顔一つ分開ける。外にあったのは、昨晩の豆電球と同じ、オレンジ色だった。東の空を金色に染めて、ゆぅっくりとその体を空へと昇らせている。西の空は、まだ暗い。だが、もう黒くは無かった。青に透けるような深く、暗い空だ。いくつかの白い星はもう姿を見せなかった。一等星と、月。それだけが西の夜の形見だった。だが、それもあと数時間か、数分か。しばらくすれば、誰も彼も、夜空も月も、そしてあのオレンジ色の侵略も、知らぬままの朝が来る。
空の下に広がる灰色の墓標のように整然と、だが乱雑に地面に生えるアパートの住人たちも、地平線にうっすらと浮かぶ鮮やかに目を眩ませる大都市の人間も夜は恐ろしいようで、私のようにこんな時間に戸を開く変わり者はいやしないことを私は知っていた。だから、あの西に浮かんでいた夜の死体が何も変えられないほどに寂しく、心細く。私一人の独占的な美に酔いしれるには十分過ぎる程に愛しかった。
私は夜の後ろ姿が消えるまで、ガラス戸を覗いていた。