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Sランク冒険者

冒険者視点です。

 

「ったくよー。なんでそんな危険地帯に足を運ぶことになったんだか。」


 俺はジャック・ハイルディ。Sランク冒険者だ。Sランクパーティ「楽園の門番」でリーダーをしている。村の幼馴染三人で組んだこのパーティがここまで来るとは思ってもみなかったが、今でどのギルドでも名の通った一流冒険者だ。


「そんなこと言って、お前がこのクエスト勝手に受けたんだろうが!」


「まあまあリッツ、ジャックが文句を言うのはどのクエストでも同じだろ?ジャックなりの場の和ませかたなのさ。」


 俺に噛み付く、機嫌の悪そうな金髪のちびっ子はライト・リッツバーグ。村のガキ大将をしていたが、時が経ち、俺たちがぐんぐん成長する中、12歳で身長がストップした。それからはリッツの前でチビは禁句、身長の話をするとイライラしだす。

 

 それでも背が低いことを幼いながら受け入れたリッツ少年は、体格の関係しない魔法の鍛錬に幼少期の殆どを費やしていた。そんな努力が身を結び、3級魔法を5つも習得した。魔法は1から10の級に分かれており、10級が最低、1級が最高ランクだ。例外として超級魔法が存在しているが、世界を創った神が命と引き換えに発現させたといわれる程の幻の階級だ。わかっている2級魔法使いが世界に一人、3級魔法使いも冒険者にはSランクに100に満たない数しかいない。


 そしてリッツをなだめる優男はディルハート・ヴァン・トーテンブルグ。名前の間にヴァンが入っているのは彼が由緒正しい騎士の家に生まれたからである。

 

 トーテンブルグ家は代々、近衛騎士団に入団し、王家の信頼の厚い剣となるためだけの20ある家系の一つである。しかしディルは、そんな堅苦しい家が嫌でよく俺たちとつるんでいた。トーテンブルグ家の剣術を受け継いだ彼はこのパーティで剣士をしている。頼れる前衛だ。普段はディルを名乗り、名の売れた今でも彼が騎士の後取りだと知る者は少ない。本人が言うには、村を出た時に家を捨てたそうだ。

 

 だが、ディルの父親であるイルセンは、今でもディルを呼び戻そうとしている。俺たちはのらりくらりとかわしているが、いつか向き合うことになるだろう。


「そんな事言ったって受けちまったんだから仕方ねーだろ。それにちっと見回って帰るだけの簡単なお仕事だろ?報酬も良かったし、 Sランクは俺たちしか居なかったんだからよ。」


「それが怪しいんだっつってんだよ。難易度が報酬と合わなすぎだろ?」


「リッツの言う通り、少しきな臭いかな?まあ、始祖の迷宮250層なんて僕らくらいしか到達してないんだからその分上乗せしてくれたということさ。」


「俺らしか行けねーんならわざわざ調査依頼なんて出るかよ。」


「はいはい話はここまで、もう迷宮に入るんだ。集中ないと痛い目見るのはリッツなんだから。」


 そこで会話は中止して、一気に集中する。俺たちのピリつきに周りが静まり返る。始祖の迷宮は60レベル以上の冒険者から挑むことが許される上級者向けのダンジョンだ。当然ここにいる冒険者は皆、上級冒険者だ。しかしその上級冒険者の誰もがSランクパーティを前に動くことが出来ずにいる。ダンジョンの入り口にいた冒険者達が、息を飲む音が鮮明に聞き取れる。


 ダンジョンの入り口と言っても大きな魔法陣があるだけの50メートル四方の部屋だ。人が入ると本人がクリアしたことのある階層へ、自由に行き来出来る半透明のウィンドウが現れる。このウィンドウには本人の名前、レベル、スキルも見られ、そこにある名前の本人しか見ることができない。


「なあ、リッツお前レベルいくつになった?」


「126だ。ジャックは?」


「130になってた。やっぱりリーダーは強くないとな。ディルはどうだった?」


「僕は秘密にしとこうかな。」


「そうだと思ったぜ。100をみんなで超えてから教えてくれなくなったよな。まっ、一緒に戦ってる俺らがディルの強さを一番分かってるからな。じゃ行くぞ」


 …3・2・1



 ―――



 光り輝く魔法陣。三人がぴったり同じタイミングでだだっ広い草原に視界が切り替わる。


「はーーー。ここは気持ちいいね。」


「気持ちの問題だろ?ここは壁も天井もあるダンジョンの中なんだから。」


「ジャックは夢がないね、子供の頃は一番冒険だのなんだの夢見てたのに。」


「うるせーぞ。だいたい叶ったんだから関係ないだろ。」


「そうだな…お前が誘ってくれなきゃ、俺たちこうはなってなかっただろうからな。」


「おー、リッツがデレたぞ。みろよディル、リッツがデレたぜ?」


 俺たちは談笑しながら草原を進む。この層は初の到達者が現れてから30年、モンスターのいない広いだけの安全地帯だと考えられていた。

 だが、今から10年前S、ランクパーティ「赤い羽」が、リーダーを残し全滅した。それからギルドが鑑定スキルのある冒険者を雇い特定したモンスターの個体名は、〝土獣リネオ 固有の個体名があり此処でしか発見されていないユニークモンスターだ。四つ脚に巨大な体躯、全身に鎧のような鱗があり鼻先から金属製の角が生えている。

 それまでの階層のモンスターとは一線を画す強さを誇る。

 

 発見されてから未だかつて奴の素材が持ち込まれたことはなく、倒した暁には計り知れない名声が得られるが、挑み散っていった冒険者も計り知れない。


「リネオは気まぐれだ。討伐隊が組まれ階層をくまなく探索したときも発見されず、討伐されなかったり、走り抜けようとした少数パーティが、走り切る2時間の間に潰されたりしたんだろ?」


「こればっかりは運命の女神にお願いするしかないね。」


 その巨大な体躯はどんなに離れてもすぐ分かる。ただ姿を見せてからぶつかるまでとんでもなく速く、大きさに身合わない俊敏さがあるらしい。

 1秒もあれば俺たちには充分だが。


「おいリーダー」


 リッツが短く俺を呼び、遠くを指差す。


「おいおいこりゃチャンスなんじゃねーかー?」


 リッツが指差す先には寝転ぶ大きな影。


「リッツ最高の魔法だ。油断してる奴に一番のを喰らわせてやれ!」


「言われなくても…。」 


 リネオに向けリッツが詠唱を始める。あいつが使える魔法で最高の攻撃力を誇る3級魔法 恐雷撃(イビルライトニング) だ。圧倒的貫通力を誇り、身体の硬いモンスターに有効な魔法だ。他の3級魔法に比べ詠唱が長いが今なら時間はたっぷりとれる。

 詠唱短縮や詠唱破棄は完全な詠唱に比べ幾分か劣る。が、こんな風に意識を全て魔法に持っていき発現させると戦闘中でのものの何倍もの威力が出たりする。

 うちのリッツは口は悪いが決めるところで必ず決める。


「………………………恐雷撃!!」


 魔力が渦巻き、黒雷が空に咲く。リネオとここを一線に結び、地面がえぐれ、紅く溶ける。


「リッツ援護たのんだ。いくぞディル!」


 自身の全力を尽くし、膝をつくリッツを置いて、すぐさまディルと走る。


「ん?」


 だが距離が近づくと異変を感じた。


「止まれ。ジャックおかしい。リネオが微動だにしてない。」


 リネオは背を向け寝転だ体勢でいる。恐雷撃が直撃したはずの背には傷ひとつない。それはそれで問題だが、それよりも…


「コレはリネオの死体だ。」


 俺たちが迫ったリネオは腹がすべて喰いちぎられ、血を撒き散らしその身を沈めていた。


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