1話 僕の身体は真っ赤な血の味
真っ暗な空間、3000の光が流れていく。暗闇の中で眩い光が列をなす様は、幻想的に命の輝きを放っている。
俺たちが向かう先には、視界を埋め尽くすほどの光がある。あそこが異世界なんだろう。ゴールが大きすぎるためどれくらい近付いているのかがわからないが、まだまだ時間がかかりそうだ。今俺は薄い光の膜の中にいる感覚だ。ある程度周りがみえるが、他の人のようすまでは窺えない。
っと…スピードが上がった…。異世界に近づくにつれ速く進んでいくようだ。
(なんか少し暖かくなっているような………暑くなってきたな…いや熱い、身体が燃えるようだ。)
身体を見ると光の膜と同じように俺そのものが光だしていた。光が強くなるのと身体の熱さが比例しているのかっ?
(これは不味い…し、死ぬ…)
もう既に限界だというのに身体の熱は増していく。俺は耐えきれず意識を手放した。
―――
(ここは…)
俺は一人草原をゆらゆらと漂っていた。辺りを見渡すが、人の気配はなくクラスメイトどころか動物すらいない。
(……漂っていた…?)
俺はそこで自分が浮いていることに気づいた。ふわふわと。
足下を見ると俺の身体が転がっている。
(死だのか?確かに死ぬほど熱かったけど、本当に……?)
まさか一人寂しくこんな所で孤独死するなんて。とはいえ意識があるせいかあまり死んだことを実感できていない。
(幽霊になったということか…これからどうしようか。
状況を整理しよう。)
俺はいま50センチほどの高さに浮いている。
自分の身体に触れてみたが見事にすり抜けた。触れられないタイプの幽霊になるのか…
腹は減っていないし喉も乾いていない。幽霊って何食べてるんだろうか。何も食べなくていいなら楽だけど味気ないな。
!?
ものすごい轟音が地面を揺らし、美しい白銀の体表の竜が地表を突き破り姿を見せた。
翼をはためかせ空に躍り出たその姿は、蛇に近く、身体に対して小さな手足はそれでも人を握り潰すには十分だった。
なにもない草原で竜は一直線に向かってくる。
(不味い不味い不味いっ!)
慌てて逃げる俺は、全力でバタバタともがくがほとんど移動ができていない。そうこうしているうちに竜は目の前まで迫っている。
(やばい!終わった…)
短時間のうちに二度も死を覚悟した俺は、逃げることを諦め目を閉じる。しかし想像した衝撃は振動という形で返ってくる。
襲ってきた竜は目の前の俺の身体に喰らいつき、そのまま地面に潜っていく。引き裂かれ鮮血でその場を飾る俺の死体。
すぐ目の前で身体が襲われ、近くを通る竜からビリビリとした振動が伝わってくる。
―――
ことが起きてたっぷり数十分。 草原に静けさが戻るも、現実を見ることができない。
自分が飲み込まれる姿は中々にショッキングで、どっと疲れが押し寄せてきた。
(はーー。こわかったぁーー)
頭がぼーっとする。これで身体があれば汗が吹き出していたところだ。1秒か1分か、はたまた1時間か。気を取り直したところで思考を再開させた。
あの竜は俺の身体に一目散だったわけだが…
あれじゃ無視だったのか、そもそも見えてないのかわかんないな。
(全然逃げられなかった訳だが触れられないなら堂々としていれば良かったのでは?
いやいやいや、関係なく消し飛ばされそうな感じだったし、堂々とする勇気なんてあるわけないぜ…)
あんなのがいるってことは、ここは間違ってもはじまりの草原じゃないな。初っ端からあんなのと戦うなら異世界のデフォルトはハードモードが過ぎるだろ。
取り敢えずは移動の方法だ。空中で平泳ぎしてもダメだったし。
考え込んでいると今までに無い感覚が俺の中を巡るのに気づいた。
(これは魔力なんじゃないだろうか。今思えば竜から感じたのと近い気がする。)
霊特有のなにかかも知れないが、本能がこれがもっと別の力だと訴えてくる。
(手足から出せばアイ○ンマンみたいに飛べる!!)
閃いたままに俺は魔力を放出する。
「あぁーーーーっばっばっばばばば!?」
思ったよりずっと高く打ち上げられた俺は魔力をストップさせる。段々とスピードが収まっていき、俺は今、雲より少し低いくらいを漂っている。
(ふー。酷い目にあった。しかし、ここまで高いと怖くないな。それにしても広い草原だな。)
辺りを見渡した俺は少しずつ魔力を出し、移動を開始した。
―――
「イェーーーーーイ!」
ただいま空の旅を満喫中!
飛行に慣れかなりの速さで飛び続けるが一向に景色が変わらない。
(このまま終わりがないなんて訳ないしな。気ままに行こう。魔力は無くなる気配がないけど切れるとペナルティがありそうだし…)
バチッ!
全身に痺れる様な衝撃が走り、飛び退く。
(イタタタ。せっかく初フライトを楽しんでたのに……。
これは…)
一見なにもないように見えるそこに、手を伸ばすと静電気の様な衝撃が走る。
(電気の見えない壁ってところか…)
壁の向こうにも景色が続いているが進むことができない。
(見えない壁ってこっちじゃ常識なのかな?)
そのとき下から青白い光が生まれ、その中から三人の人影がでてきた。