第三話 オッサン契約する
俺は何もない空間にいた。
全くの闇で、なにも感じない。
これで『死んだんだ』と思うと、逆にほっとしてしまう。人にペコペコすることなく、誰にも馬鹿にされなく、虐められたり、休みなく働くことがもうない。
あーよかった。
『起きて』
遠くで声が聞こえる。
『起きて』
段々と声が近づくけど、俺にではないよなと思い、また目をつぶり意識を閉じようとする。
俺はここで死ぬんだ。
『起きろー』
「うわぁ」
俺は目覚める。
目の前には10歳前後ぐらいの可愛く美しい女の子がいる。
「えっ?」
「目が覚めた?」
「うっうん」
俺は起き上がる。
周りを見るとダンジョンの最下層部に位置する、あの部屋だ。
まだ死んでいない。
それよりも誰だこの子?こんなところに?
てか、めちゃくちゃ可愛いお人形みたいな子だ。フリフリの洋服を着ていて、まるでフランス人形だ。
「起きたのならよかった!これからよろしくね」
なんだ、なんだこの子は?
「えーと君は誰? あったことないよね? ここにはどうやって? 」
ここはダンジョンの最下層だ。外は魔物だらけで人間は入って来ることは出来ない。
「えーあんなにすごいことしたのに忘れたの? 」
女の子が俺に抱きついてくる!
柔らかい女の子の感触が、何年もいや、生まれて初めての感触にドキドキする。
それが10歳の女の子としてもだ。
兄弟も従妹もいないから親戚関係も無く、全くの女の子との接点がなかった。母親は流石にあるだろうが、残念ながら俺が1歳で死んだからその記憶がない。
だから抱きつかれたら、ドキドキしてしまう。
「えっええ」
「まあ……と言っても初めましてだからわからないよね、では挨拶がてら」
カプ
じゅるじゅる。
あれ?今首に噛みつかれて血を吸われている?
もしかしてこの子は……。
「あーご馳走さま、ご主人様の血は美味しかったわ」
俺から離れた彼女の口元には、真っ赤な血がついている。
やっぱり……。
「吸血鬼ーーー!!」
「いやだわ、せめて吸血姫とよんで」
俺にウィンクする。
「俺をグールか吸血鬼にするのか?」
あぁ、ついに人間もやめちゃうのか俺……。
「ご主人様にそんなことするわけないでしょう」
あきれたように俺を見つめる。
「でも血を吸って?」
「馬鹿ね、殺すほど吸わないし、ましてや吸血鬼やグールなんかにするわけないじゃない」
俺に抱きついたまま、顔を近づけて言う。
「じゃあ?」
「契約により、あなたのサポートをするわ!ご主人様」
「契約?なにそれ」
「あなたは魔石を解放したじゃない?忘れたの?あの魔石は私で、聖剣に封印されていたの。聖剣が抜かれて封印が解放されて、あなたが魔力を注いだから復活出来たの」
「えっ?あの魔石が君?」
よく見たらさっきの魔石が無くなっている。
「そうよ!私はリルラあなたは?」
「俺はま……レイと呼んでくれ」
この世界では名字は貴族しか使えない。
「よろしくねレイ!契約してくれてありがとう! 」
そのまま俺を抱きしめてくる。
「えっ?えええどういうことだ」
確かにレベルアップのために魔石の中の魔力を取ろうとして魔石に魔力を注いだけど、契約をした覚えはない。
「私はこのダンジョンのダンジョンコアとして封印されていたの!私を封印していた聖剣を抜いて、魔石から復活するための魔力を注いでくれたからね」
レベルアップのために魔石から魔力を取る時に、自分の魔力を注ぐから確かに注いだけど……。
「でも契約って?なに?」
「リルラはダンジョンコアとして封印されていたからね! その封印を解いてもらった人とは主従関係の契約することになっているの! だからレイはリルラのご主人様なの!」
そうなのか?
「なにかデメリットとかあるのか?」
吸血鬼という魔物との契約だから、何かのデメリットがあるに違いない。
よくある悪魔との願いで3つ願いをかなえたら魂を寄越せ的なものが……。
「まあ……定期的な血の要求とご主人様の貞操をいただければよろしいでしょうか?」
「はい? 貞操? 」
「はい!ご主人様の初めての女性はリルラに決まりね! 」
「……それって俺が……ど、童貞ってとか知っているの?」
恥ずかしながら生まれてから一度も女性経験はない。
それどころかさっきも言ったように、キスいや女の子と手を繋いだことさえもない。
「はい!リルラはスキルに鑑定を持っていまして、ご主人様のステータスも過去も未来も、全て丸っとお見通しでございます。例えば精通の日から今まで自分で慰めた回数さえもわかりますわ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
いやー童貞がバレた。それよりも俺の射精回数がわかるのって嫌すぎる。
はっ!
「それって鑑定スキルがある人は皆わかるの?」
「いえいえ、リルラのスキル『神鑑定眼EXスーパーウルトラリミックス』だけでございますよ」
なんだそのふざけたスキル名は!
まあ鑑定を持っているユーキにバレていなくてよかった。あいつらカップル同士の連中だったから、夜な夜なやりまくっていたからな。
俺だけ童貞だったから、それが原因もあって捨てられたと思ったら、嫌すぎるからだ。
「なら、俺が定期的に血を提供したらリルラは俺を守ってくれるの?俺は何も力をもっていないから、リルラが俺を守ってくれるなら、死なない程度になら血をあげるよ」
吸血鬼なら俺よりも強いはずだ。
無力の俺を守ってくれるなら、このダンジョンからも無事に出られる。
「それはもちろんです。リルラのご主人様なのですもの!……でもご主人様はリルラよりも強いですわよ!」
「えっ?俺は一般人並みの体力とアイテムボックスしか持っていないよ」
そのアイテムボックスさえも、使ったことがほとんどない。道具とか武器や食べ物とお金さえも奴らは俺には持たせてくれなかった。
入れたことがあるのと言えば、解体用の短剣を入れるぐらいしか使ったことが無い。
「えええっえええええぇぇぇぇ!! 違いますわ! ご主人様!」
リルラはものすごく驚き、声が部屋中に反響しまくる。
「何が違うの?スキルは言語能力とアイテムボックスしかないよ」
ステータスにはそれしか書いてなかった。
アイテムボックスは生きた物以外なら、触れた物をなんでも収納出来る。
その説明はこの国のお偉いさんたちに教えて貰った。
一応はレアスキルだが、召喚者ならみんな持っていると言う代物だ。
「違いますわ、ご主人様のスキルは、異空間収納ですわ!アイテムボックスなんかとは一緒にしては駄・目・で・すー!」
リルラは白く細く美しい人差し指で、俺の唇を押さえながらそう言った。
「えっでもそう教えられたけど?所持数が無制限なだけで、アイテムボックスとほとんど変わらないって言われて『召喚者なのにそれしかないなんて使えないやつだ』と馬鹿にされたぞ」
確かにそう聞いた。だからこの国のスキル学者たちも、俺には興味がなく、たいして相手にしてもらえなかった。
「もう、ご主人様を馬鹿にするなんて……そいつら殺しちゃいますか?」
リルラが冷たく笑うように、微笑む。
ゾクッとするけど、否定できない圧迫感がある。
「……じゃどう違うの?」
俺が聞くと。
「なら試しに使い方を教えますわ、ご主人様はリルラについて来てくださいませ、いざとなったらリルラが守ります。ですからご主人様には危険なことはありません!」
リルラは俺の手を取って起こし、このダンジョンボスの部屋の外に連れ出した。
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