第二話 オッサン困る
ここからオッサン目線で書きます。
「くそっあいつら本当に俺を捨てやがった」
俺はダンジョンの最下層にいて途方に暮れていた。
まさか、本当にここに残されるとは思わなかった。
自分の人生はついてなかった。
受験期に交通事故を起こし、大学はFランクと言われる大学にしか合格できなかった。
それから就職したところはブラック企業に就職をしてしまい、それからは社畜として、休みなく働かされた。
大した給料も無く休みも無く楽しい事もなく、ストレスでふらふらになって激しい胃炎のために無理矢理に取らしてもらった半休。
その代わりに祝日と日曜には、サービス出勤は確定。
やっと行った病院の帰りに乗ったバスで、今度は異世界転移だ。
召喚した奴らは、完全に日本に戻す気がない。
どんなに頼んでも『魔王を倒したら元の世界に戻れる』の一点張りだ。
その上一緒に召喚された者で、生き残っていたのは一回り以上も年下の少年達だ。
彼らの知り合いではない上に、こちらは年上なので全く話も合わなければ、挙句無視や嫌がらせをしてきた。
こちらとしては戦う力が無くて、彼らの力を頼るしかないから仕方なくついて行くしかない。
ただ彼らは勇者なら何をしてもいいと思っているらしく、村人の家に入っては壺を割ったりタンスを開けたりと、いろいろとして家を荒らしていく。
その行為に「やめろ」と抵抗した村人に暴行をした。
彼らは俺や村人よりも何十倍も力があるから、軽く殴ったつもりでも、その殴られた村人は壁を壊して家の外に突き抜け、全身を打撲して骨折をした。瀕死の重傷だ。
下手すれば村人を殺しているところだった。
それを見ていた俺は彼に説教をした。
たとえ嫌われていても年上として、大人として注意するべきと思ったからだ。
だが彼曰く『勇者はなにをしてもいい』と言ってきた。
それを違うとコンコンと説教して最後は『わかったもうしない』と言っていたからわかってくれたと思っていた。
それの結果がこれだ。
正義感のための説教して、ダンジョンの最深部で見捨てられた。
「どうしよう」
どう考えても助かる術がない。
俺には腕力も武器も魔法もスキルも無い。だからここから脱出するための術がない。
ここはダンジョンのボス部屋なので、今は魔物が出る事はないが、一歩でも外に出ると大量の魔物がいるので、俺は襲われて死んでしまうだろう。
だからここで飢え死にするか、この部屋の外に出て魔物に食べられるかぐらいしかない。
日本では社畜として会社ために殺されそうになり、異世界生活では一緒に召喚された高校生に見捨てられて殺されそうになっていた。
ダンジョンボスがいたこの部屋にはまだ魔物が入ってきてないが、いつ魔物が入ってきてもおかしくはない。
下手するとボスが復活するかもしれないと焦ってしまう。
「もしかしたら、武器か転移の魔法陣とかあるかも? 」
ゲームとかなら転移の魔法陣が有って地上に帰れたりしていた。
ユーキは自分のスキルで帰ったが、もしかしたら魔法陣が隠されているかも知れない。
聖剣の他にも戦える武器がまだあるかも知りないと、淡い期待をしながら部屋中を探す。
聖剣が刺さっていた台座をくまなく調べると、台座の横に僅かなくぼみがあり、そこを触るとカチッという音がした。
そして押すと台座が動き、その下には穴が開いており、中からサッカーボール並みに大きい赤色の魔石が出て来た。
「これは?」
この世界では魔石は珍しいものではない。
魔石は魔物の体内で精製される物だ。魔物を倒して解体すると、心臓の横のある臓器の中で作られるモノだ。
その魔石の中には魔力が貯められており、その中から魔力を吸収することで、魔力を回復できたりレベルを上げたりができる。
俺の仕事は、勇者達が倒した魔物から、この魔石をを回収するのが仕事だった。
……と言うか、それぐらいしか一般人並みの力しかない俺が出来る仕事がなかった。
魔物の死体を開き、内臓から魔石を取り出すのは苦行だった。でもそれしかすることが出来なかった。
魔石を取ると勇者の高校生たちに渡していく。
一度も俺には使わしてくれたことも無く、感謝されたこともなかった。
魔石を取らないと、『役立たず』と言われた。
俺は魔石を手に取り持ち上げた。
こんなにデカい魔石の魔力を吸収したらレベルが一気に上がって強くなるかも知れない。
この国の騎士から、魔石から魔力を吸収してレベルが上がると、たまに新しい魔法を覚えることがあると聞いたことがあった。
もしかしたら何か魔法が使えるようになるかも知れない。
こんなところに隠されていたのだ。
きっとすごいレベルアップとか、魔法が使えるようになる間違いない。
俺は魔石を手に握りしめると、騎士たちに教えて貰っていた方法で、魔石から魔力を吸収しようと意識を集中して魔力を注いでみる。
「あっああっぁぁぁ」
何故か強力な力を感じ俺は意識を失ってしまった。
「やっと解放された」
意識が途切れる前に、そう声が聞こえた。
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