第一話 オッサン捨てられる
なろうテンプレ作品。
「ハハハ、見たか! あのオッサンの顔! 」
谷川勇気……いや勇者ユーキは宿屋で大笑いしていた。
髪を茶色に染めた17歳の少年で、耳にはピアスをしていた。
「本当に空気が読めないオッサンだったね、こちらの顔色ばかり見てキモかった」
そう言ったのは喜多嶋麻衣……魔導士マイも笑っていた。
肩まである髪は、金色に脱色している17歳の少女だ。顔はクリクリとした目で可愛い。
「あの間抜けな顔は当分笑えるわ、えっまってくれよーってっふははっははははっあーあ苦しい」
物まねをしてから笑いすぎて呼吸困難となりかけているのは、太田心……聖女ハートは宿のベッドの上で転がりまわっていた。
明るい茶髪の17歳の少女で、少し吊りあがった狐目だが、美人と言える。
「さっさと逃げ出すと思ったけどなかなか逃げないし、敵に襲われてもなかなか死なないからなあ……ユーキ、グッドタイミングだったな!!ちょうどよかった」
そう言うのは中村騎士……聖騎士ナイトはユーキに向かっていいねと親指を立てていた。
黒色で刈りあげた短髪の彼は16歳の少年で、体格がでかく180センチはあるような大柄な少年だ。
「もう今ごろは魔物の胃袋の中だろうね」
しみじみとマイは言う。
「魔物が腹を壊すかもな。あんなオッサンだからね」
「「「ハハハハハ」」」」
ユーキがそう言うとみんなが爆笑する。
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ユーキ達はつい1ヶ月前に勇者として、この世界に来た。
それは突然だった。
たまたまみんなが同じバスに乗り合わせていたら、そのバスに対向車線からハンドルを切りそこなかったダンプカーがぶつかってきた。
みんなが気がついた時には、血まみれで転がって死んでいるバスの運転手と、その周りには騎士と王様と王女がいた。
その者たちが言うには、『魔王がいてそれを倒してください』と言った漫画や小説でありがちなことだった。
その時に召喚されたのは、谷川勇気、中村騎士、太田心、喜多嶋麻衣の高校生の友人同士の中に、32歳の真中玲という中年も一緒に召喚されていた。
それからは、ラノベでよくある展開が続き、高校生たちは魔王を倒すことを承諾して、王達にステータスをチェックされる。
ユーキ
レベル 1
体力 500
魔力 300
力 100
魔法 光魔法
スキル アイテムボックス 成長率上昇 身体強化 覇者の力
鑑定 転移 言語能力
称号 勇者
ユーキは勇者の能力を持っていた。
ナイト
レベル 1
体力 650
魔力 105
力 150
魔法 結界魔法
スキル アイテムボックス 成長率上昇 身体強化 肉体鉄壁化
言語能力
称号 聖騎士
ナイトは聖騎士と言う力を持ち強靭な肉体を持っていた。
マイ
レベル 1
体力 150
魔力 800
力 50
魔法 火魔法 水魔法 土魔法 風魔法
スキル アイテムボックス 成長率上昇 魔力操作
言語能力
称号 魔導士
マイは魔導士として強力な魔力を持っている。
ハート
レベル 1
体力 190
魔力 750
力 60
魔法 聖魔法
スキル アイテムボックス 成長率上昇 魔力操作
言語能力
称号 聖女
ハートは聖女として人を癒す力を持っていた。
この世界の人々の平均値が体力と魔力は100前後、力は10前後なので異常に強いレベルになる。
そして……。
レイ
レベル 1
体力 101
魔力 98
力 11
魔法 なし
スキル 異空間収納 言語能力
称号 勇者召喚に巻き込まれた人
真中玲にはほとんど力がなかった。この国の一般人と、全く同じぐらいしか力がなかった。
ただ称号にあるように、勇者のユーキ達が来たついでに、ただ巻き込まれただけだった。
これには前例がないことで、この国のたちは焦ってしまった。
召喚したら、使えないただの一般人もを召喚したからだ。
唯一持っている異空間収納は、召喚者なら誰もが持っているはずのアイテムボックスとほとんど変わらず、物を異空間に入れて収納する能力と同じだったからだ。
それらの違いは無制限の数の物が持てるという以外には、大した価値がない。
それはユーキ達が持っているスキルのアイテムボックス自体も一人10000個の物が収納できるので、正直言って必要がない能力だ。
だがせっかく召喚したからには、レイにも勇者として一緒に魔王を倒してもらおうと国の者達は、ユーキ達に一緒について行かせようとする。
だからレイは元の世界に戻してくれと願った。
自分は役に立たないのなら日本に帰してくれと……。しかしそれはかなわなかった。
実は召喚には王家の力を持つ者が、生命をかけて異世界から召喚させるしかない。この国の第二王女が、己の命を懸けてユーキ達をやっと召喚したのだ。
死亡した第二王女の事を思うと、いくら使えない者でも召喚したからと責める訳にもいかない。
そして、レイだけをもとの世界に戻すわけがなかった。それをすることでユーキ達が戻りたいとか言われたら困るからだ。
召喚の魔法には王族の命が係わる事なのだ。
魔王を倒した後にならともかく、現段階ではレイを戻す訳にはいかなかった。それも役立たずのために王族の命を賭けられない。
だから王様は元の世界に戻せる魔法を持っていないと言った。戻し方は魔王が知っているから、魔王さえ倒せば元の世界に戻れると言って説得した。
それを信じるユーキ達は魔王を倒しに行くと言った。
レイは自分だけはこの城で待つと言ったが、王様たちはレイにユーキ達について行けと言って城から追い出し、魔王を倒しに無理矢理行かされることになった。
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そして冒険者をし始めて一ヶ月
勇者としてユーキ達は魔物を倒し、徐々レベルアップしていった。
ユーキ達は平均レベル30前後になっていた。ただ一般人並みの能力しか持たないレイは、レベルが1のままだった。
高校生と32歳の成人した大人が、話が合うわけがなかった。
その上レイだけが全く知らない他人の上役立たずなので、無視などの虐めはひどかったが、それでも戦える力のないレイは我慢してユーキ達について行くしかなかった。
そんなある日、事件は起きた。
ユーキが途中で寄った村で、人を殴って大怪我をさせたのだ。
理由はユーキ達が勝手に村人の家に入り、壺を割ったり家具を荒らしたりしているのを見て、その家の村人が怒ってユーキに殴りかかった。
ユーキはなんの迷いも無く、その村人の男を殴り返したのた。
……ただそれだけでその村人は、大怪我をしてしまったのだ。
すでにレベルが30に上がっていたユーキが殴れば、普通の村人は大怪我をしてしまう。
全身打撲して全身骨折の大怪我で死にかけた。
ギリギリ生きていたので、聖女のハートが回復魔法で何とか怪我を癒したが、レイがこの事を、ユーキを責め立てたのだ。
『殺すつもりか』とか『相手は一般人だぞ』とか『力のある勇者なんだから』などと説教をした。
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そして次の日。
ダンジョンに入っていく。
ダンジョンと言われる洞窟には何階層も分かれていて、迷路のようになっている。
ダンジョンに入る理由は、魔王を倒すためにレベルを上げるための魔物退治の他には、魔力が宿った武器や宝物がダンジョンには隠されている。
そしてこのダンジョンには……。
ギァオオオォォ
ユーキが三つ首の大蛇の首を全て切り落とした。
「よしこのダンジョンはクリアだ」
勇者たちは最下層のダンジョンボスを倒した。
そしてボスが消えると奥の扉が自動で開き、台座に刺さっていた光り輝く剣を見つける。
それは聖剣と言われる剣で魔力がある魔剣だ。
これを手に入れる目的で、ここまで魔物を倒しつつ来たのだ。
ユーキは聖剣を握ると、力を込めて抜く。
「おっぉぉ、抜けた」
ユーキはまるでアレキサンダーが剣を抜いたかのように、天に剣を掲げる。
「やったね! これで魔王も倒せるわ」
マイがユーキに抱きつく。
「あー身体がベトベトする。早く宿で休みたい~! 帰ろ? 」
ハートは嫌そうに言う。
「そうだな、返り血を流したいしな」
ナイトもハートの意見に同意のようなだ。
3人はユーキの元に集まる。
ユーキ転移魔法で、一気にダンジョンの外に出るからだ。
レイもユーキの近くに寄る。
「オッサンはここでサヨナラだ」
ユーキはレイに向かってそう言い、手でレイを制した。
「えっ……どういうことだよ」
レイは驚く。
「オッサンは役に立たないくせに説教とかしてうざいからな、だからここに置いていくことにした。サヨナラだ」
ニヤニヤしながらユーキはそう言う。
「ここに……置いていくって?」
レイは焦る。この最下層にこれたのは、ユーキ達がいたからこれたのだ。レイそのものには戦える力がない。
「そうだよ、ユーキとは話していたけどお前は邪魔だからな」
ナイトはニヤニヤしながらユーキに近寄り肩を掴む。
「そうそうオッサンは、いらないから、ここで魔物に食べられたらいいじゃん」
マイはごみを見るような目でレイを見ながら、ユーキに抱きつく。
「バイバイ、オッサンがここで死んだら日本に転生できるかもよ! キャハハハハハッ」
ハートも大笑いしながらユーキに寄り、ユーキの空いている方の手を握る。
「えっまってくれよー、こんな所に置いて行かれたら、死んでしまう」
「ハハハ、そうかもな? じゃあな、オッサン俺を恨むなよ、恨むなら無能で役立たずな自分を恨めよ……バーイ、オッサン【リミト】」
ブンッ
一瞬光った後は、ユーキ達の姿が消える。
村人に大怪我をさせたユーキに説教をしたレイ。
それはユーキだけがムカついたわけでもではなく、他の勇者達も無能なレイが偉そうにユーキを叱ったことにたいして不服に思っていた。
だからダンジョンの最下層にレイを残して、ダンジョンから脱出する事を秘密裏に決めて全員が納得していたのだ。
お金や武器などの荷物のほとんどは、アイテムボックスを持っているユーキ達が持っていた。
王様からもらった傷が一気に治る薬や魔力の回復する薬や魔物と戦うための武器等は、レイには持たせてくれてなかった。
レイが持っているものと言えば、魔物解体用にもらった小さなナイフしか無かった。
魔物が闊歩するダンジョンの底から、レイ一人で脱出する事はほぼ不可能だった。
「嘘だろ……奴らは俺を捨てたのか!」
絶望の中、レイはただダンジョン最深部の部屋に佇んでいた。
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