起死回生
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あれからどれくらい走っただろうか、ダンジョン内を闇雲に走りすぎたせいで当然と言えば当然と言うか、エンカウントしまくってしまった。
彼の後ろにはゾロゾロとサイズの大きい狼や、剣や盾をもった骸骨、生々しい腐った肉をくっつけた所謂ゾンビと言える見た目の魔物達が追いかけて来ていた。
「死ぬ、死ぬ、もう、無理!!」
と息も切れ切れに走る速度が低下していくが、視界の隅に人が1人通れる程の道を見つけ、最後の力を振り絞りながら逃げ込む。
とりあえず、この道の先にもまだまだ奥があるようだが、この先でエンカウントしてしまったら流石に逃げれないと思い、立ち止まると錆びた剣を構えて振りかえる。
剣を振るう余裕もない狭さなので、一先ず切っ先を正面に構え魔物の群れを見つめた。
流石に魔物達も一体づつしか入ってこれない様子で、これならなんとかなるかも知れないと少しだけ安堵する。
「大人しく食べられると思うなよ!!」
と先頭に出しゃばっている狼の魔物に喋りかけると、それを合図とばかりに飛びかかってくる。
しっかりとタイミングを見計らって突きをお見舞いしようとするが、狼の前脚が目前に迫っていて咄嗟に剣で防御する。
キンッ
乾いた音と共に錆びた剣は折れてしまった。
「なんの役にもたたねぇのかよ!」
このオンボロがぁ!と悪態をつく彼の顔は、言葉とは裏腹に焦りと絶望が覆っていた。
ニヤリと狼の魔物が笑った気がした。好機とみた狼は跳び上がると、顔目掛けて前脚で引っ掻いて来る。彼は咄嗟に左腕で顔を守るが、狼の爪は腕の肉を抉りとり傷は骨にまで達していた。
彼は痛みに顔を歪めながら、それでもなんとか助かろうと、後方の道へと逃げ出す。
「痛い痛い痛い痛い!そもそも戦おうと思ったのが間違いだった……ゲームなら最初のダンジョンはもっと緩いはずだろ!それでレベルアップとかするんじゃ無いのかよ……」
と目には涙を滲ませながら、右手で血が止まらない左腕を守るように抑えながら、満身創痍といった具合で走るが、その背に衝撃を受けて転んでしまう。
そして、そのまま右足を噛み付かれズルズルと引き摺ろうとしている狼に抵抗しようと、左足で頭を蹴ってみたり、逃れたい一心で状態を起こそうとするがうまくいかない。
必死に抵抗を試みるが、身体に上手く力が入らなくなっていき視界がぼやけていく。
ポトリッ
とポケットから【D.Card】が落ちるが、その表面に文字が表示されていた。
ーーー『体力の低下を確認 回復してください』
ーーー『体力が危険域に達します 回復してください』
ーーー『体力が危険域に到達 間もなく死亡します』
ちらりと視界の片隅で、【D.Card】の表示を見ては「はは、もう無理だな……」と力無く呟くと、目を瞑る。
ーーー『回復が実行されていないので、〈太陰の黄玉〉を使用します』
……先ほどまでの痛みが少しだけ和らいだ気がした。痛覚が麻痺してしまったのかそれとも、もう死んでしまったのか……ただ気分は先ほどよりもマシだった。
目を開けると、未だに自分の足に噛み付いては美味しそうに食べている魔物が見える。
両足は膝から下は無残にも食い散らかされたようだが、そんな事よりもこの魔物どもに怒りがこみ上げて来た。
ーーー『未確認情報が2件』
俺の足を食べてやがる、この狼の頭を踏み潰して、その後ろにゾロゾロと群がっていやがる魔物共を片っ端からすり潰してやりたいと。
右手首に巻いていたシルバーの腕飾【始まりの腕輪】が一度光ったかと思うと消えて無くなり、代わりに両足の膝から下にまるで義足のように形を為した。
ーーー『未確認情報が4件』
その義足の表面は黒い光沢のある銀で出来ているようで、その爪先は狼の鉤爪のように3つの曲がった爪が付いていた。
魔力の扱い方なんて全く分からなかったが、なるほどコレが魔力か。この義足の扱い方も何故だか知っている。
起き上がろうと軽く力を入れると、胴から頭付近を軸に回転して着地する。
先ほどまで足を食べていた狼の魔物は頭部を失っていた。
起き上がるついでに狼の頭を蹴り飛ばして着地すると、目前の魔物達を見て「またせたな!!第二ラウンド開始だ!!」
と叫び魔物達に突っ込んでいく。
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どれだけ時間が経ったのか、気が付けば追いかけて来ていた魔物共を一匹残らず駆逐していた。そうしてようやくと言うか、今更と言うかだが落としたままだった【D.Card】の存在を思い出し、だいぶ落とした場所から離れてしまっていたために【D.Card】が落ちているであろう場所まで戻っていく事にした。
「あったあったこれか」と、【D.Card】を拾い上げると、魔物の飛び散った臓物で汚れてしまっていたのでシャツの裾で汚れを拭う。
ーーー『体力の低下を確認、回復してください』
ーーー『体力が危険域に達します 回復してください』
ーーー『体力が危険域に到達 間もなく死亡します』
ーーー『回復が実行されていないので、〈太陰の黄玉〉を使用します』
ーーー『未確認情報が4件』
表示を確認すると未確認情報をタップして表示する。
ーーー『体力の低下に伴い〈太陰の黄玉〉を使用し【生体魔道具】〈太陰の鼓動〉を生成しました』
ーーー『【生体魔道具】〈太陰の鼓動〉を心臓とコンバートし、【贈物】としてセットしました』
ーーー『【始まりの腕輪】の使用を確認』
ーーー『【魔道具】〈愚者の義足〉を生成しました』
「あの黄色い宝石のお陰で命拾いしたって事か……あのオンボロ剣、何の役にも立たないとか言ってマジごめん……」
と、もともと黄色い宝石、〈太陰の黄玉〉がついていた剣に感謝をする。
「無くなった足の代わりに〈愚者の義足〉が装備出来てるけど何の違和感も感じないし……まるで自分の足のようだな」と両足を見ながら呟くと、【D.Card】を操作しステータスを確認する。
?????:Rank.1
【Ability】
・HP【F】⦅B⦆
・MP【G】⦅C⦆
・STR【F】⦅B⦆・VIT【F】⦅B⦆・INT【G】⦅C⦆
・DEF【E】⦅A⦆・AGI【D】⦅S⦆・LUC【H】⦅D⦆
【贈物】
<疾風勁草>
逆境や不運に見舞われた時、能力1Rank上昇。
<太陰の心臓>
日没から日出までの間、能力3Rank上昇。
【魔道具】
<愚者の義足>
「名前の横にあるRankは上がらないのか……しかし〈太陰の心臓〉は夜限定の制限でも強すぎるな……〈疾風勁草〉と合わせて4も上昇か」
とステータスを眺めていると、上昇中のRankが点滅しだした。
?????:Rank.1
【Ability】
・HP【F】⦅C⦆
・MP【G】⦅D⦆
・STR【F】⦅C⦆・VIT【F】⦅C⦆・INT【G】⦅D⦆
・DEF【E】⦅B⦆・AGI【D】⦅A⦆・LUC【H】⦅E⦆
【贈物】
<疾風勁草>
逆境や不運に見舞われた時、能力1Rank上昇。
<太陰の心臓>
日没から日出までの間、能力3Rank上昇。
【魔道具】
<愚者の義足>
「1Rank下がったって事は〈疾風勁草〉の効果が切れたってことか……」
ただ先程までの能力上昇の事を考えると、Rankが変わるだけで強さが段違いに変わるんだな……と戦闘を思い出しながら1人うんうんと頷く。
ふわぁ……と大きな欠伸をすると、結局まだ自分が寝ていない事に気づくが「今寝て朝になったら〈太陰の心臓〉の効果まで消えてしまう」そうなったらまた、詰みになるなと考えまだ足を踏み入れていない場所、一本道の奥へと歩きだしたのだった。
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