不運な男〜その1
「ここは何処だよ??」
目前に広がるのは、空気は淀み、肉眼でも確認出来るほど紫色の霧に包まれた、おどろおどろしい雰囲気を纏った墓地である。
彼の後ろには、高さ2.5mほどの赤く怪しい光を放つゲートがそびえたっていた。
「もう流石に驚かないぞ……」
彼は一言呟いて、赤く怪しい光を放つゲートへ近づくと、左手を触れてみるが『バチっ』と弾かれてしまう。
「ok.ok.出られないのね。」
と納得するや、右手に持ったままの【D.Card】に文字が表示されている事に気が付いた。
ーーー『ダンジョンゲートへの侵入を感知』
ーーー『【死者の楽園】に挑戦します』
ーーー『ダンジョンLv.??』
ーーー『規定人数に達した為【レッドゲート】に変わりました』
ーーー『未確認情報が3件』
「スマホの通知画面みたいだな」
とりあえず、ダンジョンに入ってしまったのかと、1人納得すると未確認情報が3件ある事に気づきタップしてみる事にした。
ーーー『ステータスが更新されました』
ーーー『【贈物】が届いています』
ーーー『【魔道具】〈始まりの腕輪〉を手に入れました。』
「ゲームかよ」
とツッコミながらもステータスを表示する。
?????:Rank.1
【Ability】
・HP【F】
・MP【G】
・STR【F】・VIT【F】・INT【G】
・DEF【E】・AGI【D】・LUC【H】
【贈物】
<疾風勁草>
【魔道具】
・なし
「……駄目だ、強いのか弱いのか見当もつかん。〈疾風勁草〉??これが贈物ってやつなのか??」
と、【D.Card】を適当に操作していると、【魔道具】を装備しますか?と表示されていたので「はい」を選択してみる。
「うわっ!!」
と、気がつけば右手首にシルバーの腕飾が巻き付いていた。
「本当どんな仕組みだよ……これで夢落ちなら俺の想像力もたいしたもんだわ。」
と1人ごちていた。
あれから一通り操作してわかった事は、【贈物】はどうやら自動的に発動しているらしい。そして【魔道具】は魔力なる物を流して、任意で発動出来るらしいのだが、未だ魔力の扱い方が分かっていない。
ただ、〈疾風勁草〉や〈始まりの腕輪〉と表示されていると説明文が出て来たので効果を確認する。
<疾風勁草>
逆境や不運に見舞われた時、能力1Rank上昇。
<始まりの腕輪>
最初に魔力を与えた時、自分が望む武器の形へと昇華する。
「ふむ、すでに不運に見舞われまくっているけど、どうなんだろう……そもそも魔力の使い方……」
当分使えそうにないので、ひとまずこのダンジョンから出るためにゴールを目指しますか……と目前に広がる墓地へと足を踏み入れたのだった。
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現在、不運続きの彼は走っている。
そう、全速力で走っている。その理由は数分前に遡る。
一通りステータスを確認し終えた彼は、墓地へと足を踏み入れたのだがぐるりと歩き回って、この墓地が公園ほどの大きくも小さくもないサイズの場所だと気づいたが、端まで歩いても結界で出られないのである。
そして、この墓地のちょうど中央付近に地下へ降りるための階段を見つけてしまう。
「つまりこのダンジョンは、この階段を降りてスタートって事なのかな??てっきり墓地からゾンビだとか骸骨が湧き出てくるのかと怯えてたのが馬鹿らしいじゃん!!」
と悪態をつくも、暗くて見えない階段の先を見つめながらゴクリと唾を飲み込み覚悟を決める。
「よし!!」
と気合を入れて、階段へと足を踏み入れて降りていく。
ピチャッ……ピチャッ……
と天井から水滴が落ちる音以外物音はしない。
ようやく階段を降り切ると、「なるほどダンジョンか」と納得する。
洞窟内部というには人為的な、レンガで補強された壁や床に先には十字路、そして朽ちた遺体が2体転がっていた。
ふーーーッと息を吐いて歩き出した瞬間、ゴゴゴっと降りて来た階段の入口側から嫌な音が聴こえてくる。
「もしかして……さらに閉じ込められたのか!?生き埋めかよ!!」
と、そもそもレッドゲートに入ってしまっているので出口はないのだが、次々に退路を絶たれていく恐怖に強がりながらも慄いた。
「先に進む以外道はなし……」
と言葉には出すが、恐怖からかその歩幅は小さい。
彼は朽ちた遺体の側に近づくと、その傍らに転がっている剣を手に取り鞘を抜いてみる。
「めっちゃ錆びてるなぁ」
でも、と何もないより良いかと腰のベルトに差し込む。
身に付けていた一丁羅のスーツは、泥と雑草で酷く汚れ、ジャケットは皺がつく事もお構いなしに腰で結んでいた。
十字路に辿り着いた彼は、どちらに進むべきか悩んでいたが答えは出ないので、先ほど遺体から拝借した剣を腰のベルトから抜き出すと、十字路中央に立て手を離す。
カランカランと音を立てて剣が倒れると、剣が倒れた方向をみるや「こっちだな」と呟いて剣を拾い腰に差していた。
腰に差し終えて、剣が落ちないか具合を確かめていると「ん?」と足元に転がっていた黄色い宝石に気づき、拾い上げる。
「これはなんだろうか?」
と首を傾げると、「これ剣の柄に嵌ってたやつか」と、腰に差した剣の柄部分に空いた窪みを見ながら納得するとし眺めていると、左ポケットに入れていた【D.Card】が光っていた。
【D.Card】を取り出すと、『【太陰の黄玉】を入手しました。ボックスに取り込みます。』
と表示されたのも束の間に、黄色い宝石は光を放ち手元から綺麗さっぱりなくなっていた。
すぐさま、【D.Card】に表示されているカバンマークのアイコンをタップすると、そこには黄色い宝石が表示されていた。
「この機能はいいな!ポケットに片っ端から突っ込んで行くわけにはいかないからありがたい。結局『太陰の黄玉』がなんなのか分からんけど生きて出られたらベルさんにでも聞こう。」
そういえばベルさん心配してるだろうなと考えながら、先ほど剣が倒れた方向(十字路の左側)に向かって歩きながら考えていると、前方から獣の息遣いが迫って来ている事に気づき、慌てて逆方向(十字路の右側)に向かって走り出した。
「そうだよ、そもそも死んだ人が持ってた物が指し示した方向なら危ない気がするじゃん!!最初から逆を選ぶべきだろ普通!!」
と謎の自論を叫びながらも、全速力で走っていく。
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