『キャットベル』
「まぁ沢山気になってる事もあるだろから歩きながら話すね」
と猫耳の女性は喋りだす。
「まずこの世界だけど、私自身3年ほど前からこの世界にはいるけど未だに全容が掴めていないわ」
ん?3年前にこの世界に来たと言ったのか?と疑問とともに彼女の腰辺りで揺ら揺らしている尻尾や、頭部に生えているであろう猫耳を交互にみて
「えっと、ちょっと持ってください。もしかしてあなたも元々日本人ってことですか?」
という至極全うな疑問を口にしてしまう。
「あぁ……そうね。確かにその通りだけど、もしかしてこの耳とか尻尾がきになるでしょ?」
と言って振り向きながら答えた。
「これはね、こっちに来た時には生えてたのさ」
そう言う君も、と人差し指で僕の頭部を指差しながら
「その白い髪と真っ赤な目はあっちにいる時からじゃないでしょ?」
もしかして気付いてなかった?と言いながら笑い出す彼女を横目に、そんなバカなとスマートフォンのカメラ機能を使って自分の姿を確認する。
「あと最初に注意しておくけど、こっちでは決して向こうでの本名は名乗らない事ね。これは重要よ」
死にたくないならね、と付け足しながらまた歩みを始めた。
未だ自分の変化をまじまじと眺めていた彼は、
「え?当然理由も教えてくれるんですよね?そもそも名乗る時はなんて言ってるんです?」
と既に歩みを進めていた彼女に追いつくように、小走りで追いかけながら問う。
「まぁまぁ、そんなに慌てなくてもちゃんと説明するから」
と笑いながら言った。
「まずは自己紹介をしておくね。私の名前は『キャットベル』。まだこちらに来たばかりの頃あだ名でそう呼ばれていたからそのまま名前にしたのさ」
と言った彼女の首元のチョーカーには、銀細工で鈴のモチーフが付けられていた。
『気軽にベルと呼んでいいよ』
君の名前は……まだないね、と言って
「何か候補はあるのかな?」
と尋ねるので、うーん……としばし考えては見たが何も思い浮かばないので
「全く考えてもいなかったので街についたらゆっくり考えますよベルさん」
と答えた。
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キャットベルの説明を一通り聞いて要約するとこうだ。
『この世界には、魔物や悪魔と言った空想上の生き物が実在している』
『それらを倒すためには、【魔道具】や【贈物】が有効である』
『討伐した対象の素材や持ち物を売る事が出来る』
『食べる事の出来る魔物も存在する事から食事にも困らないらしい』
『悪魔などのある程度知能を持つ者に本名を知られると、【服従の魔法】にかかるらしい』
※過去に何人もの人が【服従の魔法】にかかり悪魔の奴隷となったり、餌になったのだという。
『【魔道具】とは、魔力をおびた道具で日常生活で使う物もあれば、武器として絶大な力を発揮する物と様々なものが存在する』
※見た目は千差万別であり、魔力を伝導させる事で本来の力を発揮する。
『【贈物】とは、こちらの世界に初めて足を踏み入れた時、最初から身についている物だという』
※人それぞれ違う【贈物】を持ち、目には見えない物であると言う。
「なるほど……ちなみにベルさんも【魔道具】持っているんですよね??」
と興味本位で聞いてみると
当然だよといい、少し考える素振りをしながらも、まぁ良いか……と呟いて
「本来はあまり見せる物じゃぁないけど君なら問題ないだろう」
と言って、キャットベルは右手の人差し指に嵌めている王冠の形をした指輪を見せてくれた。
「この指輪も魔道具で名前は【大魔侯爵の冠】という」
そう言って、今度は右手の人差し指を空に向け弧を描くと、
「しっかり耳を塞いでおく事ね」
といいながら、ニタリと不敵な笑みを浮かべると明後日の方向を指し示す。
直後に、空はまだ暗いというのに、一瞬の眩いばかりの閃光を伴って、けたたましい雷鳴が耳の奥の鼓膜をつん裂く。
(落雷だ。これをベルさんが起こしたというのだろうか?いや、それ以外に考えうる事は出来ない。これが魔道具と言うものか。)
驚愕の面持ちで、今しがたこの惨事を起こしたであろう人物に目を向けると、彼女は満面の笑みで「どんなもんだ」と胸を張っていたのだった。
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「とまぁこんな感じかな?」
と、さも誇らしげに語るベルさんは、魔道具が全部が全部あんなバカみたいな威力のものじゃぁ無いと言って、「アレは私が持っているものの中でも特別強いやつだから」と人差し指をくるくると回していた。
やめてくれ……危ない……と心の中で呟くも、それを見透かしてなのか
「魔力流してないから大丈夫なのさ」
とまたしても不敵な笑みを浮かべていた。
「この森を抜けた場所に街があるから、そこでゆっくり【贈物】の確認でもしましょうか。ちなみに【贈物】や【魔道具】を確認するのに使うのがコレだよ」
と言いながらも取り出したのは、スマートフォン程のサイズの黒いカードだった。
「この黒いカードが【Devil Card】通称【D.Card】って言って自分の贈物を確認したり、魔道具など持ち物の管理にも必要になるから絶対に無くさないようにね」
と言って【D.Card】と言われるものを仕舞いながら歩いて行く。
【D.Card】か……手に入れたら無くさないようにしなければと思いながら、
「その【D.Card】は町で手に入るんです?」
楽しみだなと、はやる気持ちを隠しもせずキャットベルに声をかけながら後を追うが、前方のキャットベルはなんとも形容し難い表情で、こちらを見ていた。
「ちょっとまって……え?……【D.Card】持ってないの??本当に??嘘でしょ??こっちに来た時に足元落ちてなかった??」
どうやらこちらに来た時、足元に落ちている物らしい。
……絶対に気づかないでしょ。