早くも詰みである
ため息ばかりでは物事が何も進む事はないなと思い、まずは置かれた状況を整理して行くとする。
最悪このままいきなりサバイバルをしろと言われても、正直経験も知識もある訳ではない。
よくテレビやネット記事、スマートフォンから見る事の出来る動画などでたびたび話題となる、『無人島に一つだけ持っていけるなら何を持っていきますか?』だとかそういった類のものがあるが、結局の所何を持って行くのが正解かも分からず仕舞いだったなと思い、一先ずは、自分がカバンを持ち歩いていない事への社会人としてあるまじき行いを後悔する事から始まってしまう。
第一に、間違いなく時間は【00:00】を示してはいたが樹海だというのに、辺りはライトが無いと見えないという訳では無い。
理由としては、辺り一面に咲いている辛うじて花だと認識は出来るモノのおかげだろう。
辛うじて花だと言えるのは、土に植わっていて花を咲かせてる風なのだからとしか言いようがないが、逆説的に花では無いと思える部分に関しては、まず形が歪すぎる点である。
花弁らしき部位の厚みが、普段目にする花が目測0.08……止めよう。そもそも花弁の厚みなんて知らないから嘘はやめておこう。つまり、どんなに肉厚な花弁でもこんなに分厚くは無いだろうとの予測である。
それから、先程光っていると言ったが、文字通り花弁が光っているのだ。
それも、色鮮やかに「まぁ素敵」なんて具合なら幾分か夢心地のままで入れたてあろうが、よりにもよって黄色と赤のストライプ。
危険色である。
経験則からなのか、はたまた生物としての本能からなのかはさて置き、分からない場所ならば知らない物には触れないでおく事がサバイバルの知識として必要だと思う。サバイバルなんてやった事はないが……
とりあえず、危険そうな場所は避けて辺りが見渡せる安全そうな開けた場所へと移動した。
では改めて持ち物を確認しよう。
1.腕時計
2.スマートフォン
3.リップクリーム
4.メモ帳
5.ボールペン
6.ポケットティッシュ
7.スーツ
8.ネクタイ
9.シャツ
10.靴下
なんて事だ、何も使えない。メモ帳とボールペン、それからライト代わりになるかも知れないスマートフォン。
あ、ポケットティッシュは地味に嬉しいかも知れない。
だめだ、サバイバル出来る気がしなし。
これは、さっそう詰みである。
「ねぇねぇそこの君」
背後からいきなり声をかけられて、驚きのあまりに肩をビクつかせる。
おどろおどろしく背後を振り向くとそこには尻尾を揺らし猫耳を生やした女性がこちらを見上げ、首を傾げていた。