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GOLDEN TIME   作者: 道草雑味
2/10

【00:00】

 照りつけていた太陽は、そそくさとその姿を隠してはこの時期ならではの速さをもって、月が存在を主張し始める。

そして色鮮やかなネオンと、煌びやかなドレスに身を包む女性達、酔っ払いのサラリーマンが街を右往左往とし始め、今日も相変わらずこの街は賑わいを魅せるのだった。

 そんな街の喧騒もよそに、スーツの男はくたびれた様子で1人狭い路地を僅かに蛇行しながら歩いている。

彼にとって、この狭い路地は自宅までの近道なのだ。

彼は、軽く壁に寄り掛かると、鈍い動作で左腕をもたげ、左手首に光映る液晶を煩わしそうに薄眼を開いて見やる。


腕時計の液晶に映る時刻は【23:58】を示していた。


「もう24時じゃん……朝7時に家を出て8時に出社……明日も仕事……つらっ」


はぁ……と、この日何度目かのため息を吐いては、もう歩くのはシンドイと、スーツの背広がひしゃげる事もお構い無しにズルズルと座り込んでしまう。




PiPiPi……PiPiPi……PiPiPi……。


 聞き慣れた電子音が一定のリズムをもって0時を告げているようだ。

「あの一瞬で寝てしまってた……」

このまま外で寝ていたら、洒落にならん季節だろうにと、半ばアルコールで定まらない思考を巡らせながら身体を起こしていく。


「やけに静かだ……」


先程までの賑わいなど微塵も感じないなと思い耳を澄ませても風の音ぐらいしか聴こえてきやしない。

そして極め付けはこの場所だ。


「なんだここは……」

樹海かよ、と驚き半分に、まだ夢を見ているのではという疑い半分で、目の前の光景にまだ思考が追いつけていないといった具合である。


先程までの眠たさや酒の酔いもどこえやら、近くにそびえ立つ凛々しい樹木を掌で触り感触を確かめたり、しゃがみ込み足元の枯れ葉や見慣れない植物を観察し、いよいよここが夢ではなくリアルではないのかと思い始め、そういえばとジャケットの内ポケットを弄りはじめ目当てのものを引っ張り出す。


『某かじられたリンゴマーク』の所謂いわゆるスマートフォンだ。


電源はちゃんと入るようだが、そんな事よりも彼が首を傾げるには十分すぎる事が目の前に映し出されていた。


時刻は【00:00】


目が覚めて、彼此かれこれ体感にして約10分は経過しているものだとし、仮に彼の体内時計が正しく機能していないとしても1分すら経っていないのは現状有り得ない。


まぁそもそも、時間が云々関係なしに現状有り得ない事態は既に起こった後なのだから今更ではある。


ただ、これから起こっていく事は『まだ夢かも知れない』という彼の淡い期待を一つ、また一つとへし折って行くだけの簡単な確認作業になるからして、次の行動もある程度は予測がつくという物だろう。


彼は、スマートフォンが壊れている可能性があると、左手首に巻いている愛用ウォッチに目を向けるが……


「こっちも一緒かよ」


と呟くと、はぁ……と本日何度目かの……そう、ため息だ。






嘘だ。


時刻は【00:00】


日付は変わっているから、本日初の……ため息だ。




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