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月の道

作者: 着津

覗いてくださりありがとうございます。

「ムーンロードって知ってる?」


きっかけはこの一言だった。


「確か、月が海から顔を出したとき、その光が砂浜とかから月までまっすぐに続いてる、あの現象の事だろう?」


浅薄な知識だが、僕はそう答えた。彼は笑う。


「たぶんそうだと思う」


言い出しっぺもそんな感じで、僕らはただいい加減だった。



彼とは大学からの付き合いで、つまりはそんなに長い関係ではない。たまたま同じ学部学科の同じクラスで、たまたま同じ講義を取ることが多くて、自然と仲が良くなった。お互い、サークルは別だし、研究課題も掠ってすらいない。


そんな僕らの共通点は、ただお互いがお互いに居心地が良いというだけだった。


「来週の日曜あいてる?」

「ああ」

「海に行こう」

「いいな」


いつものようにいい加減に予定を決めて、いい加減に出かけた。集合時間も決めず、移動手段すら相手がどうにかするだろう、というものだった。こんないい加減さでも、お互いにかみ合っているのだから、人間というものは面白い。


結局、駅で待ち合わせることだけはしっかりして、彼がレンタルカーを借りると言い出し、こまごまとした作業をしていたら、出発は夕方になった。そもそも、集合したのが昼過ぎなのだからさもありなん。


彼の運転で高速道路を走るころには、すっかり日が暮れていた。


「次のPAパーキングエリアで交代するか?」

「いや、あとちょっとだから平気」


すでに真夜中に近い時間である。何度か交代を繰り返していたが、彼は案外眠くなさそうだった。かくいう僕も、たいして眠気を感じていなかった。この夜は、いささか不思議な時間だったのかもしれない。



高速道路を降り、十分もたたずに人気のない砂浜についた。車から降りると、案外さわやかな潮風が、潮の香りとともに吹いてきた。しかし、その後はぴたりとやみ、波も静かだった。


「そろそろだ」

「何がだ?」

「良いから見てみろよ」


彼に促されて海を見る。煌々と、意外に強い光が目に入った。月だった。


「月がどうしたんだ?」

「ムーンロードだ」

「ああ、あの時の」


月は音もなく、海に姿を消していく。その間、凪いでた海に、一筋の光の道が出来上がった。


煌びやかな魅力があるわけでも、存在感があるわけでもない。それなのに、どうしてか目を離せなかった。ムーンロードは月が登り始めた時のことを指すのではないのか、と思ったが、それもどうでもいいことに思えた。


「ああ、消える」


僕と彼と、どちらが言ったのだったか。いまさらどうでもいいか。


月は海に消え、あたりは急に暗くなったようだった。


「これで思い出ができたな」

「何を急に」


彼の言葉に苦笑いしたことを覚えている。



彼はその後、大学を卒業し、海外へ行ってしまった。連絡もとうに来ない。ただ時折、月を見て思い出す。彼と見たムーンロードを。


彼もまた、そうであればいい。

読んでくださりありがとうございます。

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