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この話には、裏がある

作者: Rester

これは、とある国のとある町で生まれ育った、二人の物語。


===


「…あれは、いつのことだったでしょうか。遠い昔、まだ私が幼かった頃、私はある少年と出会いました。その少年は私と変わらない背丈ながらも、愛らしいつぶらな瞳と柔らかな黒髪のせいで幼く見えました。実際は彼の方が一つ年上で、私はそのことにひどく驚いたのを覚えています。そんな彼に私は、“友達宣言”をしたのです。…今となっては微笑ましいお話です。私が宣言をした場所は時計の絵が地面に描かれている広場で、この町の中心ともいえる所でした。もちろん人もたくさんいます。そんな場所で、私は「私の友達になって下さい!!」と大きな声で言ったのです。大勢の大人が私たちに注目していたことにも、恥ずかしながら気づいていました。少年は、はじめは戸惑ったようでしたが、「うん、いいよ。」と頷いてくれました。これが、のちに親友となる彼との、はじまりの記憶となったのです。」


「その後成長した僕たちは、大人になった。ある夜、僕は彼女をある場所に誘った。…そこは、彼女と僕が友となった場所。時計の広場だ。時計の広場には噴水が出来ていて、それは月明かりの光を受けてきらきらと輝いていたと同時に、僕らの時間の流れを感じさせてくれた。僕はそこで彼女に…プロポーズをしたんだ。彼女は最初は驚いていたようだったが、すぐに満面の笑みを浮かべて、プロポーズを受け入れてくれたんだ。彼女が頷いたとき、噴水の水が高く上がり、まるで僕たちを祝福してくれているように、一層その輝きを強めたんだ。」



「傍からみれば、素晴らしいお話。」


「まるで物語のようね、ロマンティックなお話。」



「ですが、」「だけど、」


「「この話には、裏がある。」」


===


「広場にある時計の絵は、私が物心ついた頃に描かれました。それまでは名前もなかった広場が、時計の広場と名前を変えたのはこのためです。時計の絵は美しく、まるでステンドグラスでも埋め込まれているかのようでした。…そして、私は新しくできた時計の絵をみて思いました。


 “あ、これをうまく使えばドラマチックな演出が出来るな” と…。


それから先は色々と策を巡らせました。私が考えた演出とは、もちろん友人計画のことです。ただの友人ではありません。異性の、ゆくゆくは私の一生のパートナーとなる人物へ向けての演出です。幼い時に何を考えているんだ、といわれてしまえばそれまでですが、私は幼いながらに見てしまっていたのです。それは、不遇な結婚の末に不幸な人生を歩んだ者の末路。それは私の両親…ではなく私の叔父夫婦でした。詳しいことは彼らの名誉のためにも語りませんが、私は彼らをみて結婚の重要性を深く学んだのです。そしてその対策は、早すぎることはない、とも。


それからというもの、私は幾度となく脳内でイメージをし、来るべき時に備えました。まず私ともうひとり、つまりパートナー候補と一緒に時計広場まで歩きます。もちろん彼には時計広場が目的地だなどと伝えません。あくまで、通る道に偶然広場があった、という体です。パートナーと歩く理由はいくつか考えましたが、一番自然であり得る理由としては家への帰り道でしょう。広場は文字通り、町の中心に位置しています。私の家は広場から見て南側にあったのですが、もし彼が南以外の方角に住んでいるのなら、広場を通って帰るのが予測できました。もちろん広場を通らずとも帰れることは帰れるのですが、大抵は人一人が通れるくらいの細い路地となってしまいます。それに建物のせいで薄暗いので、親は常々子供に「大通り」…つまり広場に通ずる道を通るように言いつけることを、私は知っていました。もし仮に相手が南に住んでいたとしても、なんとか理由をつけて広場を通る手筈になっています。


広場に行くまでにも、準備は欠かせません。パートナーと歩くとき、特に広場に近づいた時に考え込むようなそぶりをするのです。…いきなり宣言するのは、少し不自然ですからね。あくまで、偶然が引き起こしたように見せかけるのです。


広場に入ると、私の歩は少し遅くなります。もちろんわざとです。時計の絵、その中央で私は立ち止まります。そしてこう叫ぶのです!


「私の友達になって下さい!!」……と。



そう、あの一連の出来事は、全て私の計算の内だったのです。

なぜそんなことを、というのはもう分かりきっていますね。生涯のパートナーをつかむためです。そのためにはインパクトのある出来事で私という存在を印象付け、一気に親しくなる必要がありました。そのためには多少の人の目も厭いません。


…いえ、それは少し違いますね。私はその人の目すら利用したのですから。時計の広場は町の中心地であり大通りでもあるため、人の往来が多い場所です。そこで私のような子供が多少声を張り上げれば、注目は集まりますが不快にはあまり思われません。むしろ微笑ましいと受け取るでしょう。もし仮にそこで、少年が友達になることを拒否したらどうなるか。…非難の目は少年に集まります。お節介な大人なら、「いいじゃねえか、友達くらいよ。」と援護射撃をしてくれるかもしれません。少年は友達にならざるを得なくなります。


しかしその場合、私が彼と結婚するかといわれればNOでしょう。何の理由もなく人を拒否するような人とそりが合うようには思えませんから。私の目的はあくまで、幸せな結婚なのです。この場合彼とは以後ただの友人としてお付き合いしていくことになります。彼は私の“演出”について悪いことは言えません。例えその行為が彼にとって馬鹿馬鹿しいものでも、それを馬鹿にすれば大人たちのお叱りを受けることになるでしょう。なにせその出来事は、多くの人に目撃されているのですから。


私はしっかり、万が一の時の保険も考えていたのです。


パートナーに関してもしっかり選ばせていただきました。私の将来の伴侶なのですから、将来性が高い人がいいに決まっています。私はその相手に、最近町に越してきた夫妻の一人息子を選びました。作戦を決行する前に彼とは少しお話をしたのですが、性格は穏やかで芯のある子だと判断しました。容姿には大して気を配りません。今の段階で見目の麗しい男子を見極めることなど難しいですし、なにより顔というものには性格が現れるものです。彼は例え美男子にはならずとも、好青年になることは分かっていましたから。


そして、この計画を成功させるための条件がもう一つ。それは、「パートナーとなる人物と、あらかじめ事実上の友人になっておくこと」です。初対面の人にそのような奇行をすれば、ただの変わった人で終わってしまいますからね。ある程度は言葉を交わす必要があります。多少の知り合いから“宣言”を受けることが、インパクトを与えるために最も重要なことなのです。


そうして私は見事、時計の広場で堂々と“演じる”ことが出来たのです。」




「そして数年後、時計の広場には新しく噴水が作られた。その噴水は町の人々の心を癒す目的として作られたものだったが、僕はそれをみてこう思った。


 “あ、月明かりの夜にここで告白すれば、確実に彼女を落とせるな” と…。


彼女とはもちろん、「友達になって」と叫んだあの子だ。あれから僕と彼女は唯一無二の親友となっていた。だが、それだけでは足りない。彼女には僕の妻になってもらう。いつからか僕はそう決めていた。彼女のスペックは高く、料理や洗濯などの家事はもちろん、知識や教養も身につけた賢い女性だった。家柄も問題ない。彼女の家は代々続く由緒あるもので、今は大した権力を持たないため身分は変わらないがその財力は健在。凡庸な平民である僕にとっては夢のような存在だ。もちろん容姿も申し分ない。彼女の長い金髪は他の女性とは比べ物にならないほど美しく、その蒼い瞳に射抜かれたものはたちまち恋に落ちてしまうとまで言われる程だ。彼女に恋焦がれるものは数知れず。


…手に入れ甲斐があるというものだ。


そんな彼女に勝機があるのかと言われれば…もちろんあった。数多いる男どもの中で一番可能性があったのは、親友である僕一人だ。それに時折彼女が熱っぽい目で僕を見つめていたことには何度か気づいていた。…だが、勝率は100ではない。


だから僕は、勝率を100にするための準備を始めたんだ。僕はまず噴水の()()()()()が発動する時間、月の満ち欠け、そして告白について学んだ。実は噴水には三時間に一度水が高く吹き上がるような仕組みが施されていた。その光景は昼でも幻想的で、僕はそれをみてプロポーズに組み込むことに決めたんだ。告白については、他人のプロポーズをのぞき見して、告白された後相手が返答するまでの時間を計算した。満月の夜に広場で告白をして彼女がそれを受け入れた瞬間、噴水が上がる予定だ。


そう、あの一連の流れは偶然じゃない。全て僕の計算の内だったんだ。


彼女がプロポーズを受け入れない…という考えはない。自分に自信がある…わけではない。だが、そうならないように前々から策を施し、プロポーズの瞬間感情が一番高まるように誘導する。


感情のまま流されるように、プロポーズを受け入れさせるのだ。


婚約指輪についても考えた。もちろん美しい宝石がはまったものがいいのだろうとは思ったが、僕が買える一番高いものを買っても、彼女にとってはそうではない。彼女の家には、僕が一生働いても買うことのできないような品々が数多く置いてあるからだ。


だから僕は、あまり値段にはこだわらない。


彼女が最も好きなサファイアがはめ込まれた、銀の指輪を選んだ。それは僕の“普段”の生活で、ギリギリ買える値段のもの。僕は一生懸命彼女のために選んだということを強調し、かつ彼女のために有り金をはたいたように見える。


まあ僕にはあらかじめ貯めておいた貯金が残っているので、個人的には痛くも痒くもなかったのだが。物心ついた時から一定の額をため続けていたので、今ではかなりの額になっている。それを全て使えばもっといい指輪も買えたのだろうが、そこはあえて止めておいた。結婚してからもまだまだ出費は続くのだ。保険は多い方がいい。


彼女とかつて印象的な出会いをした場所で、再び印象的な出来事が起こる。


…な、ロマンチックだろ?」




「…ふふ。今となって思いましたが、やはりあれはいささか幼稚でした。あの作戦は一度しか通用しません。いくら下準備をしたところで、失敗する可能性も十二分にあったというのに。…まあ、それが幼さ故の大胆さでもあったのでしょうが。いずれにせよ、それが功を奏したのですから結果オーライといったところでしょうか。あの出来事がなければ、彼は私の親友となることはなかったでしょう。そうすれば私は、いずれ顔も知らぬ相手と結婚する羽目になっていました。


彼が私に好意を抱かない可能性ももちろんありました。ただの友人で終わってしまう可能性です。しかしそうならないように私は彼の好感度を徐々に上げていったのです。彼がプロポーズをしたときは、思わず飛び上がりそうになりました。これで私は、性格の悪い年上のおじ様と結婚するかもしれないという不安と、永遠におさらばできたのですから。偶然にも噴水が高く上がっていったのも、まるで私を祝福しているように思えて笑みがこぼれましたよ。」


「彼女が時計の広場で友達と宣言したこと、やはりあれが大きかった。僕はその瞬間、一筋の希望を見出したから。玉の輿に乗る、という希望をね。この場合は逆だけど、僕にとってはそんなことは些事だった。本来なら彼女のような人物は、いくら身分が同じだとは言え気軽に話せる間ではないから。それが“友達”なら、あっという間にそんな壁は消え去る。本当に友達様様だ。…もちろん不安もあった。それは、彼女が僕をあくまで友達としか見ていないこと。だがその不安も、彼女の目を見たら消し飛んだ。だから僕はプロポーズをしようと思い立ったんだ。受けてくれるかは正直心配だったけど、僕の作戦は無事成功。晴れて僕は、玉の輿に乗れた、というわけだ。


ああ、でも安心してほしい。僕はこれにかまけてお金を無駄遣いするようなバカじゃない。あくまで僕は婿養子だし、そんなことをすれば、彼女側の両親が怒るだろう。それに彼女自身も経済観念が身についている。だから僕の戦いは、これからともいえる。僕がいかに使える人物か、彼らに見せつけるのだ。贅沢をするのはそれから。まずはプロポーズ前に覚えた礼儀作法とかがちゃんと通用するか、確認しないとね。」


===


「こんな、相手を罠に嵌めるような真似をして、相手が怒ったらどうするつもりか、ですって?」


「大丈夫、彼女は怒ったりしないさ。」




「「だってこれは、墓場まで持っていく秘密だ(です)から。」」




どっちがより腹黒なのかはわかりませんが、おそらく二人は末永く幸せに暮らしたと思います。

恋愛系は初めて書いたので拙い作品ではあったと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました!

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