フリージア
R15指定しています。
遺体の描写がちょっとだけあるからです。
もしかしたら、人間のどろどろもこれから書くかもです。
また、死を題材にしているので、感受性が豊かな方にはあまりお勧めできません。
宜しくお願いします。
あの日、俺は全てを喪った。
富、名声、家族……そして命。
足元にごろりと転がっている自分を見下ろす。
着てるシャツは真っ赤に……いや、既に血は乾いて赤黒い。
溜息を吐こうとして、自分が息を吐きだせないことに思い至った。
衝動的な笑いが込上げるが、笑うのにも息が要るらしい。笑えない。
なんと可笑しなものか。こんなに可笑しいのに笑えないとは。
その上、舌打ちさえもできない。
生きていれば、できていた当たり前の事。
それが、できない。
死とはこういう事なのか。
諦めと共に取り留めのない事を考えながらも、あたりを見回す。
どうしてこんなことになったのだろうか。
自業自得。
そう言ってしまえばそれだけの事。
溜息ばかりが……吐きたくとも吐けないが。
俺は今、俗に言う幽霊という存在か。
生前、得た知識を思い出そうとする。
意識した瞬間に、言葉や画像や音やらが雑多に頭の中へ流れ込んできた。
それらの波にのまれて危うく、自分を見失いそうになる。
意識の端から、ひょいと聞きかじった知識を摘まむ。
-物理的な容れ物から弾き出された虚数体。-
今の俺が正にそれということか。
ところで、ここはどこなのだろう?
再度、周りを見回してみる。
時計とは反対周りに、ゆっくりと一周。
一周?
何かがひっかかった。
そうだ。俺は体を動かした覚えがない。
見た景色も、滑らかに動いていた。
下に視線を落とす。俺がいる。
更に真下を意識する。何もない。
俺は、俺の体を足元にある、と思っていた。
だが、今の俺には足がない。手もない。体もない。
多分、顔もないのだろう。
俺は何度目かの溜息を……いらいらが募るだけだな。これは。
さて、ということは意識すれば見たいものが見れる訳か。
これはこれで面白い。