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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

歪な白野と普通な僕

作者: 十一六

僕の友達に、白野という非常に歪んだ性格をもったやつがいる。そいつと一緒に、久しぶりに町の中心地で遊んだときの話だ。僕と白野が楽しく話をしながら街中を歩いていると、急に白野が立ち止まってしまった。


「どうしたの、白野?」


「いや……ごめん。なんでもないよ。」


白野が引きつった笑みを浮かべた。僕はそんな白野の表情が少し気になって、理由をそれとなく聞き出そうとする。


「なんだよ。何かあったんだろ?せっかく久しぶりにあったのに、お前がそんな顔するなんてちょっと心配だよ。話してみなよ。」


「そうか?そんな顔してたか……。じゃあ引くなよ。絶対に引くな。」


白野が真剣な眼差しで僕を見つめてきた。


「わかった。絶対に引かない。だから、話してみなよ。でも、その前にここ人通り多いから、あっちのベンチにでも座ろうか。」


「ああ、そうだな。」


白野は少しうつむきながら僕の少し後ろをのそのそと着いてきた。僕たちは少し離れたところにある小さな広場に用意されたベンチに腰を降ろした。


「で、何があったの?何を見たんだよ?」


「うん。あの……カップルをな。すごく仲良さそうなカップルを見たんだ。」


「ああ。でそれがどうかしたの?」


「うん。そのカップルの女の方が、この前俺が告白してふられた女子だったんだ。」


僕は白野の気持ちを察した。そりゃ誰だって告白してふられた女の子が他の男と仲良さそうにしていれば多少のショックは受けるだろう。


「なるほど……。それで、立ち止まっちゃったわけか。そりゃショックだよね。僕だってたぶん同じようになっちゃうと思うよ。」


「いや、それで止まったんじゃない。」


白野が僕の同情に即答する。白野があまりに冷静に無表情で即答するので、僕は言葉が出ない。


「その女子を見かけたのは、お前が来るのを駅で待ってたときだ。立ち止まった理由は別にある。確かにそれもショックだったがな。それを見てからずっと考えててな。俺、自分で言うのもなんだけど、少し変わった奴だろ。考え方とか行動の仕方とか。だから、どうも女子に受け入れられないらしくて、今までも告白なんて何回もしたけど、ことごとく断られてきたんだ。それに……もっと言えば男の友達だって実はほとんどいないんだよ。俺は、あんまり人に受け入れられない人間なんだなってずっと考えてた。そんなときだよ。お前と一緒に楽しく会話してて、お前の笑顔を見たとき突然思ったんだ。もう、女じゃなくてもいいんじゃないかってさ。」


「えっ?」


僕はそれ以上の言葉を発することができない。それと同時に白野の言葉の意味がわからなかった。いや、絶対にわかりたくなかった。白野はさっきまで俯いていたくせに、今は僕の目をじっと見つめている。というか真っ直ぐに目を見開いている。白野はその状態のままで話を続ける。


「ほら、俺って変わってるだろ。だからよく考えたら、女子とか男子とかそんなみんなが拘ってるようなことに縛られる必要ないんじゃないかと思ってさ。そりゃもちろん、女子の方が好きだよ。でも女子は俺を好きじゃないんだよ。だったら……だったらさ!!」


白野が僕の両手を握っている。僕は得たいの知れぬ恐怖に晒されて、体が金縛りにあっていた。起きているのに、金縛りにあったのは人生で初めてだった。この状況をなんとかしなければならない。なんとかしなければ……僕の至ってごく普通の人生が、誰も経験したことのない捻りに捻られた、ユリゲラーも苦笑いするような捻り曲がった人生に変わってしまう。


「待ってよっ……待ってよ白野!大丈夫だよ。君を好きになってくれる女子は絶対にいる!!僕が保証するから!!!」


「いない……いないんだよ。俺今18だぜ。一回も彼女できたことないんだ。もう……だめだよ。あっ……俺いつの間にかお前の手握ってたよ。体も俺の意見に賛同してくれるのか?そうか。そうだよな!体!」


白野が意味のわからないことを言い出した。僕は慌ててその手を払いのけようとするが、白野の力は思いの外強く微動だにしない。


「待ってよ!!待って!待って!まって!……ふう。大丈夫。僕が探し出すから。白野、お前は確かにちょっと変なやつだけど、でもいいところもたくさんあるよ。絶対にお前を好きになる女子はいる!だから、僕を信じろ。僕がなんとかしてやるから。」


「……うっ、……うっ……」


白野は僕の手をしっかりと握りながら、泣いていた。


「……お前、やっぱりいいやつだな。わかった。信じるよ。お前を信じる。まだ諦めるには早いもんな。でも……もし本当に誰もいなかったら…………いいよな?」


白野は、上目遣いで僕を見つめ、少しだけ微笑んだ。


「やめっ。やめろよ。はっはっ。お前は確かに変なやつだけど、そういうキャラではなかったろ……。絶対にいるから。絶対にいなきゃいけないから……。」


「……。」


白野は、僕の言葉に何も返さなかった。その後、白野は用事を思い出したと言って、僕を置いて颯爽と街中に消えていった。僕はとんでもないことを引き受けてしまった。いや、違うか。引き受けざるを得なかったんだ。明日は、月曜日、つまり登校日だ。明日から僕の彼女探しではなく、僕の友達の白野の彼女探しが始まるんだ。嫌だとは言わない。僕が白野に約束したのは変わりないんだから。僕は歩き出す。歪んだ道ではなく、真っ直ぐな道を。

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