入団③
「部屋はこっちだ…着いてこい。」
背が高く、赤毛の長い髪を1つにまとめている女がアリアネスとセレーナを案内する。
「はじめまして、わたくしアリアネスよ。こちらがセレーナ。」
「…。」
「あら、聞こえなかったかしら?わたくしは…」
「あんたに名前を教えるつもりはない。男漁りにきた世間知らずなお嬢さん。うちの騎士団の評判を下げないうちにさっさとやめてくれないか?」
女はアリアネスの方を振り向きもせずに話し続ける。
「伯爵令嬢ならうちなんかにこなくても、いくらでもいい男はいるだろう?それとも騎士と良い仲になって、騎士団長に一矢報いるつもりか?いずれにしても、騎士団長の見る目は確かだな。あんたみたいな女を選ばずに、民衆からも人気のあるファニア様を選んだんだからな。」
「…。」
「体を使って男を貶める雌狐め!うちの団員はお前なんかに見向きもしないぞ。泥にまみれて地面に這いつくばりたくなきゃさっさと逃げ帰るんだな。」
女はここが部屋だと告げて、まるで触れたくもないとでもいうようにセレーナに鍵を投げてよこし、そのまま早足でその場を去った。
「…随分とありきたりな悪口しか言えない方なのね。もっと言われるかと思っていたから少し拍子抜けしてしまったわ。」
「お嬢様のことを侮っているのでしょう。すぐに屋敷に逃げ帰ると…。部屋に入りましょう。」
古ぼけたドアのカギを開けると、建てつけが悪いのがぎぃぃと耳触りな音がする。部屋の中には2つの古ぼけたベッドに使い古されたシートが載せられていた。荷物を入れる洋服ダンスが1つに窓は、長年掃除されていないのか薄汚れている。部屋全体がほこりっぽい。
「まぁ!まるで童話で読んだ貧しい女の子の屋根裏部屋のよう!素敵だわ!」
「そういってくださって幸いです。私はこのような部屋になれておりますが、お嬢様には不便をかけてしまうかもしれません。申し訳ありません…。」
「何を言ってるのセレーナ?小さい頃、2人で秘密基地を作って1カ月生活したことをお忘れ?」
「…もちろん覚えております。お嬢様が半分野生化してしまい、文明に戻ることが大変でしたね。」
「そんなことは覚えていなくてよろしい!とにかく、部屋の掃除をするわよ!!」
「かしこまりました、お嬢様。」
セレーナは恭しく頭を下げたのだった。




