敵、襲来?
「ん!このベリーすごくおいしいですね!」
誰よりも先にベリーを口にするロヴェルをキウラが睨み付ける。
「お前は…。何もしていないくせに。」
「いやいや、そこは勘弁してくださいよ!本当においしいですって!」
「確かに!甘酸っぱくてとてもおいしいわ。マリアさん、とってきてくれて本当にありがとう!」
「いえ!よろこんでもらえたならうれしいです!私、村にいる時に少しでも生活の足しになればと思って森の中に入って木の実探しとかもしてたので。」
「随分とたくましく育たれたのだな…。」
「はい!」
元気に返事をするマリアを見てアリアネスが微笑する。
「私、マリアの旦那様があなたを置いて行ったのには必ず理由があると思うわ。」
「え?」
ゆっくりと紅茶を飲んでいたマリアがきょとんとした顔をして首をかしげる。
「あなたみたいに素敵な奥様を捨てる人がいるはずはないわ。あなたを愛して結婚された方ですもの。必ず理由があるはずよ。」
「…そうなんでしょうか。」
マリアが泣き笑いのような表情でマリアを見る。
「あの方はいつも私のことを褒めてくださいました。それと同時に『自分のことをそんなに卑下するな』とも。私は確かにあの方からの愛情を感じていたんです…。」
その瞳から大粒の涙を流し始めるマリアをアリアネスは優しく抱きしめる。
「マリアさん、憶測で物事を判断してはダメよ。自分で見て、聞いて判断しなくては。旦那様からきちんとお話を聞くまで諦めてはだめよ。」
「…はい。私、ちゃんと旦那様からお話を聞いてから離婚届のサインをいただくことにします!」
涙をぬぐいながらにっこりと笑うマリアをみて「あんまりわかってらっしゃらないのね…。」アリアネスが肩を落とした。
「それじゃあ、出発するぞ。」
お茶会の片づけも終わり、先に進もうとした時、げんなりしていたロヴェルが突然、顔つきを変えた。
「キウラさん、気を付けてください、後方から誰か来ます。」
「なんだと!アリアネス、セレーナ!」
「分かりましたわ。」
「了解です。」
アリアネスが刀を抜き、姿勢を低くする。セレーナは隠し持っていたナイフを手に取り、いつでも投げることができるように体勢を整えた。
「敵は何人だ?」
「おそらく…1人。」
「1人だと!?」
「しかもものすごいスピードです。…気を付けてください、随分な使い手です。」
「セレーナ!マリア様をお守りして!」
「かしこまりました!」
「右です!」
ロヴェルの指示に従ってキウラとアリアネスが走り出し、草の茂みを一閃する。
「っ!何もいないぞ!」
キウラがその周囲を確認するが、人はおろか動物さえも見当たらない。」
「いったいどこに…きゃあ!」
「久しぶりー。」
キウラと同じく周囲を警戒していたアリアネスは突然後ろから抱きしめられ、悲鳴を上げる。
「お嬢様!」
セレーナがナイフを投げるが「そんな物騒なもの投げないでよー。」とその男は腕に着けた籠手でそれを叩き落とす。
「どうして貴様がここにいる!」
キウラが剣を構えて睨み付けると、突然現れた男、ザガルードは「そんな怖い顔で見ないでよ。」と笑った。
「…報復にでもいらっしゃったのかしら?」
抱きつかれたままのアリアネスが冷静になって尋ねると、ザガルードは「そんな馬鹿みたいなことしないよ。ただ、君に会いたかっただけ。」と食えない顔で笑う。
「随分と嘘がお上手なようですわね。」
「えー、嘘じゃないんだけどなー。」
キウラやセレーナは何とかアリアネスを助け出そうと知恵を巡らせるが、アリアネスにザガルードが抱きついてる以上、下手なことをすればアリアネス自身も傷つけてしまう。
「いったい何が望みだ。」
キウラが額から汗を流しながら聞くと、ザガルードが「ん?」と返事をしてアリアネスの首元に埋めていた顔を上げる。
「それは前にも言ったでしょ?この子をお嫁さんにしたいって。だから迎えにきた。それだけだよ。」
「何を馬鹿なことを!貴様のような人間にお嬢様を渡せるか!」
セレーナが男を殴り飛ばすために動くが「おーと、その場を動いちゃだめだよー。」と口に出すザガルードの殺気の強さにピタリと動きを止める。
「大事なお嬢様が傷物になってもいいのかなー?」
「くそっ!」
よく見れば、アリアネスの腰に回された手にはナイフを持っている。悔しそうな顔をして一歩下がるセレーナをザガルードは満足そうな顔で眺める。
「うんうん、女性は素直なのが一番。男の言うことを聞く女性が一番美しいんだよ。」
(ちょ、なんかアリアネス様の様子が…。)
(しっ!黙っておけ!)
楽しそうに笑うザガルードと反対にどんどんと負のオーラを放ち始めるアリアネスに気づいたロヴェルがキウラに小さな声で話かけるが、キウラが黙らせる。
「さぁ、お嬢さん、僕と一緒に行こう。」
「あなた…先ほど、男性の言うことを聞く女性が美しいとおっしゃいましたか?」
うつむいたまま話すアリアネスにザガルードは「うん、その通りだ。」と頷く。
「女性は男のサポートをするものだよ。男性を輝かせる装飾品のような存在なんだ。君ならきっと僕をとびっきり輝かせてくれる存在になれるよ。」
うれしいでしょ?とアリアネスの顔を覗き込もうとしたザガルードは鋭い殺気を感じてパッとアリアネスを抱きしめていた両腕を離した。
「あれー?もしかして怒ってるの?」
「…こんなにも屑な人間を見たのは久しぶりですわ!」
アリアネスが苛立たしげに髪をかきあげる。
「僕のことを屑って言ったの?へぇー、心外だなぁ。…少しお仕置きが必要かもしれないね。」
ザガルードが笑うが目の奥は笑っていない。
「それはこっちのセリフですわ。」
「はっ?ちょ!うぐぅ!」
アリアネスは一歩前に出た後、華麗な回し蹴りをザガルードの顔面に決めた。まさか女性にそんな攻撃をされるとは夢にも思っていなかったザガルードはまともに防御することもできず、倒れ地面に叩きつけられる。
「あら、まさかわたくしが足を上げるなんて淑女にあるまじき行動をするとは思いもよらなかったのかしら。なんて浅はかなんでしょう。戦いの場に男も女も関係ありませんわ。強いものが勝者でであり、弱いものが敗者になる、それだけのこと。」
「君は…うぐぅ!」
「さぁ、立ちなさい。男の風上にも置けぬ愚かな山賊よ。わたくし自ら調教して差し上げますわ。」
ロヴェルは後に、その時のアリアネスの姿を「まるで鬼神のようだった」と震えながら語った。




