森を行く③
「ん?そろそろ体が起きそうだから俺は帰るぞ?」
子猫がキウラの手の中から逃れて地面に降り立つ。
「…もう会えないのですか?」
その姿を見てアリアネスが寂しそうな顔をする。
「…マゴテリアとの戦争の準備がいろいろあってな。寝る時間がそんなにないんだよ。でもあぶねー時は必ず行くから安心しろ。」
「ラシード様…。」
「猫と話すアリアネス様の図ってちょっとシュール…。」
「お嬢様を馬鹿にするなら、二度とその口開けないようにしてやる。」
「ひぃ、ごめんなさい!」
アリアネスと子猫の様子を見ていたロヴェルにセレーナがナイフを向けると、顔を青くして謝った。
「それじゃあな。」
「あっ!」
子猫がにゃーんと一声鳴くと同時にその姿は煙のように掻き消えた。
「ん…。」
子猫が姿を消すとマリアが目を覚ましたようで、体を起こす。
「あれ?いつの間に私寝てしまったんでしょう?なんだか変な夢を見ていたような気がしたけれど。」
「それは災難だったな。」
顔を引きつらせたキウラははははと棒読みで笑った。
その後、夕食を終え、雑談した後、焚き火のまわりで全員眠りについた。
「…アリアネス、起きているか。」
「もちろんですわ。」
「私も起きています。」
キウラの問いかけにアリアネスとセレーナが返事をする。
「ロヴェルは…。」
「ぐかー。」
「…寝ているようです。」
間抜けないびきを聞いて、キウラが小さな溜息をつく。
「マリアさんも寝ているようだし、今後について話を詰めたい。」
「わたくしもそう思っていたとこですわ。」
3人は体を起こして、眠りの妨げにならないよう、マリアから少し離れたところに腰を下ろした。
「騎士団長は、加護を与えられたのはマゴテリアの騎士団の副団長だと言っていたな。その男の詳細については詳しい情報は入ってきていないようだったが。」
「もともとマゴテリアの情報はオルドネアにはあまり入ってきません。騎士団長ならまだしも、副団長がどんな人物かは王都に行ってみないことには分からないですね。」
セレーナがキウラに返答する。
「それと、マゴテリアの女王についてだが。」
「かなり聡明な方だとお聞きしたことがありますわ。他国へ留学もされて学もあられると。」
「…バライカさえ倒せれば、正気に戻ってくれるらしいし。戦争は避けられそうだな。」
「そもそもバライカはわたくしたちがマゴテリアに侵入していることは把握しているのでしょうか?」
セレーナが聞くとキウラは渋い顔をして「分からない」と首を横に振った。
「オルドネアを出発した時にファニア様に聞いた話では、マゴテリアに入っても、オルドネアに比較的近いところまではファニア様の力で私たちの気配を隠すことができるらしいが、バライカがいる王都に近づけば近づくほど気配を隠すことが難しくなるらしい。」
「…ですからマゴテリアに入ってからはあの男の力便りになるという話でしたが…。」
「そうだったわね…。」
3人が寝こけているロヴェルを無表情でじーっと見つめ、同時に溜息をつく。
「…以前聞いたときは『大丈夫です!』と大見得を切っていたが。」
「ロヴェルは妖精王の後継者ですわ。信じましょう。」
「…信じられませんが。」
「相変わらずね…。」
ロヴェルに対するセレーナの辛口な意見に、アリアネスは苦笑した。
?side
自分はなんて愚かな人間なのだろうと体中を自分自身に対する嫌悪感が蝕んでいる。それでもこの思いは止められないのだ。
まさかこんなことになるなんて昔は想像もしていなかった。自分の役割を全うするためにレールの上を走り続けているだけで良かったのだから。
あの人に出会ってしまってから自分は作り変えられてしまったのだ。自分のせいで多くの人が苦しんでいるのは分かる。それでもあの人の笑顔が見られるというだけで誤った道へと進んでしまう。
きっといつか自分は断罪される。正義の人に殺されるだろう。
「それでも…。」
あの人のことを思う気持ちは大きくなるばかりなのだ。
「…!」
あの人が自分を呼ぶ声が聞こえる。
「行かないと…。」
重い腰を上げてあの人の所へ向かった。
アリアネスside
「ねぇ、まだつかないんですか…?」
「弱音を吐くな。」
汗をダラダラとかきながら尋ねるロヴェルをキウラが叱咤する。
「だってー。もう6日も歩きっぱなしですよ?いい加減到着してもいいころじゃないですかー。」
「…貴様がダラダラと歩いているからだろう!」
先を行くセレーナがロヴェルを怒鳴りつける。
「ひぃ!すいません!」
「お前が!もっと!早く!歩けば!貴様以外のペースであれば4日でつける距離なんだ!なのに!!!!」
「…セレーナ落ち着きなさい。」
「しかし!」
今にもロヴェルを殺そうというような形相で詰め寄るセレーナをアリアネスが止める。
「あなたも疲れているのよ。キウラ、少し休憩にしましょう。」
「分かった。マリアさーん、休憩にしよう!」
随分と先を行ってるマリアから「はーい。」という返事が聞こえてくる。
「はぁー、疲れたー。」
ドサッと木の根元に座り込むロヴェルをセレーナが親の仇でも見るかのように睨み付ける。
「お前は少しマリアを見習え。」
ひょいひょいと身軽に帰ってくるマリアをキウラが指差す。
「…俺も体力ある方だとは思うんですよ。どちらかというとマリアさんとかアリアネス様たちのほうがおかしい…。」
「何か言ったか?」
「何でもありません…。」
キウラににらまれロヴェルが黙る。
「あ、みなさん!あっちにベリーが生ってたのでとってきました!おやつに食べましょう!」
「あら、マリアさんありがとう。とてもうれしいわ!セレーナ、お茶の用意を。」
「かしこまりました。」
セレーナがカバンの中から次々に茶器を出して、紅茶を入れる準備をする。
何も言わずにキウラが焚き火の準備をする。
「皆さん、なんでそんなに元気なんですか?」
げっそりとやつれたとロヴェルがいそいそと動き回る女性陣を眺めている。
「あら、ロヴェル。女性にとってお茶の時間とは特別なのよ。女性がもっとも癒され、憩える時間なの。」
マリアがとってきたベリーをきれいなハンカチの上に丁寧に並べながらアリアネスが笑う。
「お嬢様にとってはお茶の時間がリラックスできる数少ない時間ですからね。」
セレーナが火の上に陶器製のポットを乗せる。
「…甘いものに罪はないからな!」
アリアネス達との旅によって、すっかりお茶会の虜となってしまったキウラが少しだけ顔を赤くしながらうんうんと頷いていた。




