森を行く①
明日からは森の中を行くことになるので、夕食を食べた後、アリアネス達は早めに休むことにした。翌日、朝食を食べ、山賊から奪った荷馬車を売って金にした。どうせ森の中では使えないからだ。ただ馬は役に立つので荷物運びとして連れて行くことにした。
「それじゃあ森に入るぞ。」
街道から外れて、王都の近くまで続いている森の入り口までやってきた。
「分かりましたわ。マリアさん、森の中は危険かもしれませんので、気を付けてくださいね。」
「はい、分かりました!」
アリアネスの言葉にマリアが激しくうなずく。
「もし、体がきつくなったら遠慮せずに行ってください。」
馬を引くキウラがマリアを気遣うと、マリアは「ありがとうございます」と笑う。
「でも私、体力があるから大丈夫だと思うんです。」
「だといいのですが…。」
キウラは前をずんずんと進んでいくマリアを心配そうに見ていた。
「なんなんだ、あの人…。」
馬を引きながら進んでいるキウラが信じられないというような顔で先を行くマリアを見つめていた。アリアネス達は森に入った後、地図を見ながら川沿いに王都を目指している。遅れてくるのはマリアだろうと誰もが思っていたが、実際、最も遅れているのはロヴェルだった。マリアは鼻歌を歌いながら岩の上をひょいひょいと進む。
「マリアさんは随分と身軽なのね。」
同じように軽快な足取りで進むアリアネスがマリアに話しかける。
「はい!私、体の丈夫さと運動神経の良さだけが長所なんです。」
「そんなに身軽なら、マリアさんも訓練を積めば騎士になれると思うわ。」
アリアネスが言うと、マリアは「本当ですか!?」と目を輝かせた。
「私、どうせもといた村には帰れないんです。夫に捨てられた時点で、村の人もそんな外聞の悪い人間は村に置いておけないって言っていたので。だから自分に稼ぐ必要があるので、騎士団に入れたらとってもうれしいです。」
「あら、でしたら私と一緒に上を目指しましょう。」
「はい!」
「…なんだか物騒な同盟が組まれてるけどほおっておいていいんですか?」
ぜいぜいと息を荒げながらついてくるロヴェルがキウラに聞くが、「まぁ、問題ないんじゃないか。」と楽しそうに笑っていた。
「とりあえず今日はここで野宿しましょう。」
朝に街を出てからだいぶ歩き続けた。すでに空は夕焼け色に染まっている。
マリアにはその辺の切り株で休んでもらうことにしてもらい、アリアネス達で野営の準備を始める。
「わたくし、薪を集めてきますわ。」
「でしたら私も。」
アリアネスが腰を上げると、セレーナもついてこようとする。
「いいえ、1人で十分よ。あなたは水を汲んできてちょうだい。」
「…分かりました。」
セレーナがしぶしぶと川の方に歩いて行く。アリアネスは焚き火のための木切れを集めるため、少し森の奥に入ることにした。何かあった時のことも考え帯刀している。
「ご飯もつからないといけないし、少し多めに持って行こうかしら。」
馬の背に着けていた木でできた籠にアリアネスはひょいひょいと探し出した木を放り込む。
「…そろそろいいかしら。」
日もだいぶ落ちてきて、このままこの場にとどまれば暗闇で道が分からなくなる可能性がある。野営地に帰ろうと、アリアネスが一歩踏み出した時だった。
「にゃーお。」
背後からかわいらしい声が聞こえた。
「あら?」
振り返ると、そこには真っ黒な毛並みの子猫がいた。首には真っ赤なリボンが結ばれいてる。
「あら、こんなところでどうしたの?リボンが付いているってことは誰かが飼っているのかしら?」
アリアネスはその場にしゃがんで、猫を呼び寄せる。
「おいで。こんなところにいたら危ないわ。私と一緒に安全な場所に行きましょう?」
「いや、むしろ俺はお前と二人っきりになれる場所に行きてーけど。」
「へ?」
猫の口から突然、よく知った人の声が聞こえた。しかし、彼はこんなところにいるはずがない。
「…わたくし、ちょっと歩いただけで疲れてしまったのかしら。」
ふぅと溜息をつくと子猫が「これは幻じゃねーぞ、ア
リアネス。」と自分の名前を呼んできた。
「久しぶりだな。ちょっと痩せたか?あんまり体重が減ると体に良くねーぞ。しっかり食べるようにしねーと。セレーナは何やってるんだ。」
猫がにゃにゃと鳴く間にまた人の言葉を話す。
「っ!ラシード様、いつのまに猫になられたの!?」
アリアネスは顔を真っ青にしてしっぽをふる猫に話しかけたのだった。




