オルドネアでは
ラシードside
「あー、くそ。あー、くそ。」
「…仕事をしてください、騎士団長。」
「うるせーぞ。」
ラシードは騎士団長の椅子に座りながら天井を仰ぐ。その様子を見て、アルフォンソが注意するもののまったく話を聞かない状態が先ほどから続いている。
「なんで子猫ちゃんがいねーんだよー。やる気でねーよ。」
「騎士団長…。」
アルフォンソが長い長い溜息をつく。ラシードはアリアネスがマゴテリアに旅立ってから、アルフォンソがそばにいるとまったく仕事をしなくなってしまった。(ただ、アルフォンソ以外の人間がそばにいると、疲れも見せず完璧に仕事をこなしているらしい)
「なんで自分がいる時だけ仕事をされないんですか?」
「あ?お前は事情知ってんだろ?」
(こんなことになるんだったら事情なんて知りたくなかった。)
マゴテリアからの宣戦布告により、オルドネアは大混乱に陥っている。腐抜けていた貴族たちのよって構成されていた騎士団の支団も、戦争に向けて厳しい訓練を行うようになった。一方、水面下では何とか戦争を回避しようと国同士の交渉が進められているが難航しているようだ。なんでも、交渉にあたっている外交官が使えないらしい。
「あー、子猫ちゃん怪我してねーだろうなー。」
そしてオルドネアの軍事力のトップであるラシードは騎士団長室で腐抜けている。
「騎士団長がこんな状態でいいんですか。」
さすがにこのままの状態ではいけないと思ったアルフォンソがラシードに苦言を言うがラシードは気にも留めない。
「いいんだよ。そろそろだろうしな。」
くぁとラシードが大きなあくびをすると同時に、部屋のドアがノックされる。
「入っていいぞー。」
誰かも確認せずにラシードが返事をする。入ってきたのはファニアだった。
「お待たせしちゃったかしら。」
ニコリとファニアが笑うとラシードが「ほんとにな。」と言って椅子から立ち上がる。
「それじゃあ成果を聞かせてもらおうか。」
ファニアが応接用のソファに座ったのでアルフォンソがお茶を入れて差し出すと「ありがとう」と言ってファニアが笑う。
「あなたの予想通り外交官は首になったわ。どうもマゴテリアと通じてたみたい。それで新しい外交官が選任されたわ。」
「新しい外交官とは?」
アルフォンソが聞くとラシードがにやりと笑う。
「お前だよ。」
「…は?」
「お前。」
ラシードが笑いながらアルフォンソのことを指差す。
「え?ちょ、嘘ですよね?」
恐る恐るファニアの方を向くと、ファニアもにっこり笑っている。
「歓楽街出身で危険な人間とも互角に渡り合えるし、交渉術も得意ということをちょっと上に伝えただけだったんだけどなー。いやー驚きだ。」
「白々しくものを言わないでください!」
アルフォンソが悲鳴のような声を上げる。
「俺なんかが外交官なんかできるわけないじゃないですか!」
「何言ってんだ。これ成功させれば第10支団の格上げも夢じゃねーぞ。」
「っ!しかし!」
「…それにマゴテリアに行けばキウラとも合流できるかもしねれーなぁ。」
「くぅ!」
「お前にとってはいいことだらけだと思うけどなー。お前がいかねーんだったら俺が行くか?アリアネスにも会いたいし。」
「騎士団長が今、国を離れれば大変なことになります!」
「だからお前しかいねーだろ?…お前に頼みたいんだ、アルフォンソ。10支団はルイがしっかりまとめると約束してくれてる。」
ラシードがじっとアルフォンソの目を見る。
「頼む…。」
頭を下げるラシードを見て、アルフォンソは溜息をつく。
「…わかりました。俺が行きます。」
「助かる、アルフォンソ。」
ラシードが優しく微笑むと同時に、ファニアが立ち上がって手を叩く。
「でしたらすぐに準備をさせてもらいますわ。1週間後に出発ということで。」
「え!ちょっと早すぎませんか?」
「もう戦線布告されているので一刻の猶予もないのです!さぁ!忙しくなりますわよ!あなたにはバライカへの呪いのメッセージも頼みたいのですから!」
うきうきとやる気に満ちたファニアが部屋から急いで出ていく。
「えっと…。」
アルフォンソが茫然としていると、ラシードがその肩をたたく。
「…お前、どんだけ俺がマゴテリアに行きたいかってこと忘れんなよ。キウラと会っていちゃいちゃしてたらただじゃおかねーからな。」
「…。」
ほんとにこの話を受けてよかったのかとアルフォンソはすでにちょっと後悔していた。




