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捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか  作者: めろめろす
第一部
36/58

番外編 出発の前日に ~セレーナ編~

「お嬢様、衣服を入れたカバンはこちらです。」

「ありがとう、セレーナ。もう下がっても大丈夫よ。明日からまたよろしくね。」

「もったいないお言葉です。お嬢様も他国に行くからといってあまり羽目を外されないよう。イグニス様とモリアン様にしっかり目を光らせておくように言われておりますので。」

「…。」

「ご返事を。」

「…わかったわ。」

「それでは失礼いたします。」

礼をして、アリアネス様の部屋を出る。マゴテリアに行くことが決まり、荷物などを取りに行くため、私とアリアネス様は一度屋敷に戻った。

イグニス様とモリアン様には任務の全容については離せないため、騎士団として他国の視察に行くということになっている。それも、オルドネアとの友好国である小さな国にだ。

「モリアン様に本当のことを言ったら倒れてしまわれるかもしれませんし…。」

これから戦争する国に行くことなど許されるはずがない。しかし、アリアネス様の命は必ず守ってみせる。アリアネス様がさらわれてしまった時は心臓が止まるかと思った。ラシード様がいるから心配ないだろうと思っていたのがいけなかった。

「やっぱりお嬢様を守るのは私しかいない…。」

小さい頃からずっと一緒にいた。今後もそれは変わらない。あのお嬢様のためなら命を失ってもかまわないのだ。

どこで生まれたかも分からない自分。生きていくために何でもしてきた自分を見つけて助けてくれたアリアネス様。

「ラシードなんて男は役に立たない。私がやるんだ。」

部屋に隠してある武器の手入れを念入りにして寝ようと思い、自室のドアを上げる。

「あ!セレーナさん、おかえりさなさい!」

勢いよく扉を閉める。今、見たくもない人間が自室の窓枠に座っていたような気がする。

「…気のせいね。」

がちゃっともう一度開ける。

「セレーナさん、閉めるなんてひどいです!」

「なんで私の部屋にいる!」

大きな声を出してしまった。あわてて部屋に入り、ドアを閉める。部屋にいたのはニコニコと笑っているロヴェルだった。

「だってセレーナさん、俺と全然話してくれないから。マゴテリアに行く前に加護を与えないといけないのに、目も合わせてくれないし。」

「それは…。」

思わずうつむいてしまう。アリアネス様たちにはばれてしまったが、実は妖精が大好きなのだ。まだ路上で生活していた時に拾った妖精に関する絵本を見て、その力と美しさに魅了されてしまった。

ロヴェルが妖精だということが分かって、憧れる気持ちもある。しかし、お嬢様が罵倒されたきっかけを作った男であるという事実から怒りも湧いてきてしまうのだ。そんな相反する気持ちが整理できず、結局ロヴェルとまともに話をせずにマゴテリア出発前日になってしまっていた。しかし、お嬢様をマゴテリアで守るためには妖精の加護は必須だ。

「申し訳ありませんでした。」とロヴェルに向かって頭を下げる。

「え?そんな謝らないでくださいよ!俺はそんなつもりじゃ。」

「いえ、私が浅はかでした。お嬢様を守るためにはあなたと協力しないといけないのに。」

「またアリアネス様かー。」

ロヴェルが溜息をつく。

「何か問題が?」とロヴェルに聞くと「いや、なんでもないです」と答えてきた。

「?」

「無防備に首かしげるのやめてください…。」

ロヴェルがくぅと身悶えしているが訳が分からない。

「とりあえず、今日私の部屋に来たのは加護を与えてくださるためということでよろしいのですか?」

「あ、はい。そうですよ。」

「でしたら早めにお願いします。私も準備がございますので。」

椅子に座りながら言うと、ロヴェルが「え!いいですか?」と身を乗り出して聞いてきた。

「え、えぇ。いつでも構いません。」

あまりの勢いに少し引いてしまったが了承する。

「じゃあいますぐ!!」

ぴょんと窓枠から降りて、ロヴェルが近づいてくる。「立ってもらえますか?」と言われたのでその通りにした。

(妖精が近くに!?)

顔は無表情を保っているが、動悸が激しくなり、緊張してしまう。

「セレーナさん、緊張してますか?大丈夫です、俺にまかせてください。」

「え?ひゃ!!」

突然ロヴェルに腰を抱かれて引き寄せられた。

「それじゃあ…。」

ロヴェルの顔がどんどん近づいてくる。

「え?は!?」

混乱して口から変な声が出る。じたばたと暴れていると「暴れないで…。」と耳元で囁かれた。

「加護を与えるにはキスしないとダメなんですよ。さぁ、リラックスして…。」

「あ、あ!やめろぉ!」

「ぎゃ!」

緊張がマックスまで達してしまい、ロヴェルの頬を殴ってしまった。

「痛い!ひどいです、セレーナさん!」

「うっ、うるさい!キスするなら別に口じゃなくてもいいはずです!」

「そこに気づいてしまいましたか…。」

あと少しだったのにとロヴェルが悔しそうに言っているのが聞こえたので睨み付けると「ごめんなさい」と謝ってきた。

「それじゃあ手にキスなら許してくれますか?」

地面に座り込んだロヴェルが上目使いで聞いてくるので「まぁ、手なら…。」とうなずく。すると優しく右手を握られ、片膝をついたロヴェルがその甲にキスをした。

「セレーナ。俺の加護をあなたに。俺は生涯あなたとともに生き、あなたとあなたに関わるものを守ると誓う。」

その言葉を聞いた瞬間、体に暖かい何かが流れ込んできたような気がしたが、その感覚はすぐに掻き消えた。

手の甲から唇を話したロヴェルがこちらを向いてにこっと笑う。

「セレーナさん、これで俺はあなたのために力を振るうことができます。俺、頑張りますから。」

「えぇ、お嬢様を守るためによろしくお願いします。」

頼もしい言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれる。

「…そういう意味じゃなかったんですけど。でも時間はあるし、俺のこと見てくれるまで頑張るしかないか…。」

ロヴェルが小さな声でぶつぶつと何か言っていたが気にしなかった。

(これでお嬢様を守る準備は万端。)

「それじゃあ明日からよろしくお願いします。」とまだ部屋にいたいと渋るロヴェルを追い出し、早速武器の手入れに取り掛かったのだった。


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