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捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか  作者: めろめろす
第一部
35/58

番外編 出発の前日に ~キウラ編~②

(私はまだまだ甘かったのか…。)

雨が降ってきてびしょびしょに濡れてしまったため、キウラはとぼとぼと部屋に戻っていた。

7人兄弟の長女であるキウラは、家計を助けるために小さい頃から学校に行かず、仕事をしていた。しかし、女手一つで育ててくれた母親が女だからという理由で、男に軽視されたり、暴力にさらされたことをずっと悔しく思っていた。だから男よりも弱い女子供をしっかり守れる騎士になりたかったのだ。

「向いてないのかな…。」

思わずぼそりとつぶやいてしまった。

「何いってんだお前。」

突然後ろからばしっと頭をたたかれる。急いで振り返ると、そこにいたのは先ほど自分を罵倒したアルフォンソだった。

「支団長…。」

まともに顔が見れず、思わずうつむいてしまう。

「…お前暇だろ?ちょっと来い。」

「え?ちょっと、あの!」

アルフォンソに腕をとられ、無理やり歩かされる。

「支団長!」

「黙ってついてこい!」

アルフォンソがキウラの顔も見ずにそういって、支団長室のドアを足で乱暴に開ける。そして支団長専用のふかふかの椅子に座り込んだ。

「ほら、これだよ。」

そして、キウラに紙の束を放り投げてきた。

「これは?」

「いいから見てみろ。」

アルフォンソの乱暴な態度に若干イラつきつつも、紙の束を確認する。

「…あれ、これ…。っ!!」

それは手紙だった。しかも感謝の手紙だ。

「第10支団の新人のお姉さんが、落し物を一緒に探してくれてうれしかったです!」

「赤毛のお嬢ちゃんがやっかいな男と縁を切る手助けしてくれたの。さすが騎士ね。」

「キウラさんへ。毎日、『元気ですか?』って顔を見に来てくれてありがとう。」

それは全て自分にあてたものだった。

「うぅ!」

耐えきれず、目から涙がぼろぼろと零れ落ちる。

「そんだけ必要とされてて、よく向いてねーとか言えんな。」

「でも!でも!支団長は!」

「お前なー。適当なこという支団長なんかぶっとばして私が支団長になってやるって気概を持て。男に真正面から向かっていってだめならあきらめるんじゃなくて、どうすれば勝てるか考えろ。」

アルフォンソの手がぽんと頭に乗せられ、ぐしゃぐしゃと撫でられる。

「…期待してんぞ。」


「結局、もっと泣いてしまって支団長を困らせたなー。」

ふふと笑っていると、空っぽになった部屋にコンコンというノックの音が響く。

「はい。」

「俺だ。」

訪ねてきたのはアルフォンソだった。

「どうぞ、お入りください。」

立ち上がり敬礼をして迎えると「かしこまるな」と言われたので手を下した。

「…明日出発か。」

「はい、長い間お世話になりました。」

「いや、俺はなんの世話もしてないさ。お前がひたすらに努力した結果だ。」

「支団長…。」

アルフォンソがキウラのベッドに腰を下ろす。

「お前がぐんぐん伸びてきて、現場の騎士をまとめてくれたからこそ、俺も好き勝手にできたんだよ。」

「それはルイ副支団長の方が。」

「訓練では厳しいくせに、普段は細やかな気遣いを忘れないお前についてきた騎士が何人いると思ってる。」

「きゃっ!」

突然腕をとられ、ぐっと引き寄せられる。気づけばベッドに寝転び、アルフォンソが上からキウラを眺めていた。

「15歳のガキだったのにな。部下だって思い込もうとしたんだけどな。」

「支団長?」

「俺の言葉を信じてがむしゃらに頑張るお前が可愛くないわけないだろ?」

「ひゃあ!」

アルフォンソがキウラの体を優しく抱きしめる。

「好きだ…。頼むからマゴテリアなんて行くな…。」

「支団長…。」

アルフォンソの体が震えている。そしてその震えを止めるかのように、キウラの体を抱く力が強くなる。

「支団長、私は…。」

「分かってる。お前は行く。それは止められねー。だからこれは俺のわがままだ。」

キウラはアルフォンソの頭を優しくなでる。

「アルフォンソ様。私は必ず帰ってきます。そしてあなたの告白の返事をしますから、待っていてくださいますか?」

「…俺はお前と違って老い先短いんだ。あんまり待たせるなよ。」

「はい。」

キウラがにっこりと笑うと、アルフォンソはその頬に口づける。二人は朝までともに時間を過ごしたのだった。


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