訓練
「セレーナ。」
「…なんですか、お嬢様。今日は早めに休まれるのではなかったのですか。」
すでにベッドにもぐりこんでいたアリアネスがセレーナに声をかける。
「あの子、いい子だったわね。少しおっちょこちょいな感じだけれど。」
「誰の話ですか。」
「ロヴェルのことよ。」
「あのクソガキの話はやめてください。」
「クソガキなんてひどいわ。あなたにもしっかり謝っていたしいい子ではない?困ったことがあればいつでも声をかけてほしいとも言ってくれていたし。」
「支団長や副支団長から命令を受けて私たちを監視するつもりに決まっています。」
「随分とあの子が気になるみたいね、セレーナ?」
「気になってなどおりません!早くお休みになってください!」
むきになるセレーナの態度を笑いながら、アリアネスは眠りについたのだった。
「…アリアネス嬢とセレーナはどうした?」
「はっ、部屋にはおりませんでした。」
その返答にルイはちっと舌うちをする。
時刻は午前5時。修練場には朝の訓練に参加すべく、第10支団の団員全員が集まっていた。しかし、その場にアリアネスとセレーナの姿はない。
「はっ!入団一日で逃げ出すとは。さすが伯爵令嬢だ!」
キウラが馬鹿にしたように笑うと、ほかの団員もアリアネスに対して侮蔑の言葉を吐く。
「副支団長、あんな女どものことなど待たずに始めましょう。」
キウラが進言するが、「まだ支団長が来ていない」とルイが止める。
「またか!支団長はいつも遅れていらっしゃる!まだ寝ておられるのだ、誰か起こしに行け!」
キウラが年下の団員に指示するが「すでに起こしにいきましたが、いらっしゃいませんでした!」と敬礼して答える。
「なに?」
ルイが不審げな声を出すと同時に別の団員が「外の大通りから誰かがこちらに向かってきます!」とキウラに報告する。
「何者だ!」
「それが…。」
言葉を濁す団員にはっきり言えとキウラが叱責する。
「はい!全速力でこちらに向かってくるのは支団長とアリアネス嬢であります!」




