食堂を去って
「お嬢様、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
食堂を出ると、セレーナがアリアネスの前に出て深々と頭を下げる。
「アリアネス様への侮辱を許してしまいました。私は従者失格です。どうか罰をお与えください。」
「…そうね、わたくしが伯爵令嬢であれば、主を守れなかった従者に罰を与えなければなりません。しかし、何度もいうように今のわたくしはただのアリアネス。あなたの同僚よ。あなたは友人の名誉を必死で守ろうとしてくれた仲間に罰を与えるの?」
「お嬢様。」
「いい、セレーナ。わたくしはこんなところで立ち止まるわけにはいかないの。一年でラシード様をコテンパンに叩きのめしてどうか、自分と結婚してくださいとまで言わせないといけないの。些末なことにとらわれていてはいけないわ。」
「お心の広い我が主に感謝いたします。」
「明日も早いわ。わたくしが部屋の掃除を終わらせておいたから、今日は早めに休みましょう。」
「承知いたしました。」
二人がにやりと笑い歩き出すと、「お待ちください!」と食堂の方から声がする。二人が振り返るとセレーナを無理やり食堂まで連れ出した少年が息を切らして立っていた。
「アリアネス様、セレーナ様!さきほどは大変失礼なことをいたしました。申し訳ありません!」
少年はさきほどのセレーナ以上に深々と頭を下げる。
「構いませんわ。ただ少し人の話を聞くことを心掛けておいたほうが良いかもしれませんわね。」
アリアネスがにこりと笑って歩き出すのに合わせてセレーナも動くが、「あの!」と少年が再び声を上げた。
「セレーナ様!自分のせいでアリアネス様がみんなに馬鹿にされて…。本当にすいません!」
またもや少年が頭を下げるが、セレーナは思いっきり無視をする。
「…セレーナ?返事をしてあげないの?」
「…必要ありません。」
「セレーナ様!どうかお許しを!あなたがあまりにも美しく、そのつややかな黒髪も東洋の女神とも称されるアリアネス様そのものだと思い込んでしまって。」
「あら、うれしいことを。」
アリアネスが口元に手を当て、ふふふと笑うが、セレーナは「うるさい!!」と叫ぶ。
「このクソガキが!アリアネス様の美しさはこの国一番、いや、世界一で唯一無二のものだ!その愚かな口を早く閉じろ!それもと今すぐ縫い付けてやろうか!」
「すっすいません!」
怒りに震えるセレーナを見て少年があわてて謝罪する。
「二度と私たちに声をかけるな!私は絶対にお前を許さない!!」
行きましょう、お嬢様!とセレーナがアリアネスの手をとり、早足で歩く。
「セレーナ様、アリアネス様、自分はロヴェルです。何かお困りのことがあればいつでもお声かけください!」
「黙れ!」
セレーナの怒号い肩を落とす少年を見てくすりと笑ったアリアネスは顔だけを少年に向け、声に出さず「またね」と声をかけた。




