入団⑧
「いつから入団の是非をお前が判断するようになったキウラ!」
「っ!」
アルフォンソの激しい叱責にキウラが悔しそうな顔をしたまま黙る。
「アリアネス様。団員が申し訳ないことを言った。支団長として謝る。」
「支団長!こんな女に!」
アリアネスに頭を下げるアルフォンソの姿を見てキウラが悲痛な声を上げる。
「…お前のせいで、敬愛する上司に頭を下げさせていることがわからないのか豚娘。」
「貴様っ!」
アリアネスの命令通り、目をつぶっていたセレーナが目を開けて笑う。
「どうやら第10支団とは、何の罪もない女性に対してどんな侮蔑を吐いてもよい集団のようだ。これはこれは上司も苦労するであろう。いや、それとも上司の教育がなっていないということか。なるほど、さきほど我が主を犬と形容したが、この団も野良犬集団と呼ばれるだけのことはある。」
「その汚い口を閉じろ!!」
キウラがもう一本の剣を抜くが、アルフォンソが止める。
「…申し訳ない。」
「謝ればすむと…。」
「セレーナ、それ以上はやめなさい。あら、これおいしい!おば様、これおいしいわ!!」
一触即発の雰囲気をアリアネスののんきな言葉が吹き飛ばす。
「わたくしもあなたもこの団員の一人なのです。仲間の少し調子にのった言葉を流すぐらいの広い心を持ちなさい!」
「お嬢様も殴ろうとしていたではありませんか…。それと口にものを入れたまましゃべるのはおやめください。」
食堂の婦人から肉串をもらったアリアネスが仁王立ちで話す。
「あんた、見た目は悪そうだけどいいお嬢さんだね。これも食べな!」
「あら、おば様大好きよ!」
「おば様だなんて恥ずかしいよ!ここではミナおばさんで通ってんだ。」
「ミナおばさん、わたくしはアリアネスよ!よろしくお願いしますわ!」
「わたしはセレーナです。お見知りおきを。」
「ああ、よろしく!」
立ったまま肉串をモリモリと食べるアリアネスにミナが笑顔で答える。
「…アリアネス嬢。」
ミナとおしゃべりに興じるアリアネスにアルフォンソが声をかける。
「あら、何かしら?」
「お嬢様、口をお拭きください。」
肉汁と口のまわりをべたべたにしたアリアネスにアルフォンソがぎょっとする。
「アリアネス嬢は、社交界にいる時とは別人のようだが、もしや双子の妹などではあるまいか?」
「わたくしは正真正銘アリアネス・バレンターレよ。社交界にいる時の私は淑女。清く正しく美しくあるのは当たり前のことです。でもここは騎士団。淑女としての振る舞いは必要ありませんわ。」
「それはそうですが…。これが本当のあなただと?」
「どちらも本当のわたくしですわ。ふぅー、ごちそう様です。」
肉串を4つ平らげたアリアネスが満足そうに息を吐く。
「お腹も一杯になったことですし、部屋に帰ります。明日は午前5時起床でしたわよね。楽しみで眠れそうにありませんわ!それでは失礼いたします。」
スキップでもしそうなほど上機嫌で食堂を後にしようとするアリアネスに「おいっ!」とアルフォンソが声をかけると「あっ!」とアリアネスが振り返る。
「支団長。一つ忠告ですわ。のし上がるためには社交も重要。すぐにでも部下の言葉の教育を始められたほうが得策かと。気に入らない者に好き勝手に吠える野良犬がいてはいつまでも馬鹿にされるだけですわよ。」
おほほほほほと悪役のような高らかな笑い声を上げて、アリアネスはセレーナとその場を去った。




