入団⑥
ドアを蹴破り食堂に入ってきたアリアネスに先ほどまで大きく口を開けて笑っていた団員達の動きがピタリと止まる。それほどまでに驚愕の光景だったのだ。
「やめなさい、セレーナ。わたくしの上司をさっそく殺すつもりなの?」
「しっ、しかし!お嬢様を貶めるような奴らなど、この世に生きている価値などございませんわ!」
「あなたもわたくしのことをとことん馬鹿にするじゃない。」
「わたくしはいいのです!しかしこの豚どもは!」
「豚って…。あら、皆様ごきげんよう。」
セレーナが太ももから取り出した短剣を手刀によって叩き落とし、床から拾い上げたアリアネスが優雅にお辞儀をする。
「アリアネス様…その恰好は。」
「恰好?何か問題があられますか、ルイ副支団長?」
いち早く我に返ったルイがつぶやくように問いかける。今のアリアネスの格好は薄汚れた木綿のブラウスに乗馬で着古したグレーのズボンとブーツ。頭には掃除で汚れないよう頭巾をかぶっていた。
「伯爵令嬢がそのような恰好を…。」
「あら?騎士団でのわたくしはただのアリアネスですわ。伯爵令嬢など関係ありません。ならばどのような恰好をしてもかまわないはずです。そうよね、セレーナ?」
「その通りです、お嬢様。しかし、ブラウスはだいぶ前のものを使われているせいか、胸元がだいぶきつくなっておりますね。早急に新しいものを手配いたします。」
「必要ないわ。この手触りが気に入ってるの。」
「聞き入れられません、お嬢様。」
幾人かの団員が思わずといったようにアリアネスの胸元を見る。胸が大きすぎて閉まらないブラウスを見て頬を染めるものも多い。
「この雌狐!そうやって自分の体を見せつけて男を籠絡するつもりか!」
先ほど部屋まで案内してくれた女が怒りに震えて叫んでくるが、アリアネスはその声を無視する。
「ルイ支団長?食事はお盆を持って、列に並べばいいのかしら?」
「あっ、あぁ。」
「セレーナ、並びましょう。わたくし、お腹がぺこぺこなの。」
「承知いたしました。お嬢様は座られてはいかがですか?わたくしが二人分並びます。」
「はっ、召使に全部おまかせってか!」
ほかの団員からヤジが飛ぶ。
「といわれるみたいだから自分で並ぶのがよさそうね。」
アリアネスは汚い言葉を吐いた団員に対して優雅に笑いかけ、食事の列に並ぶ。




