入団⑤
セレーナside
今すぐにでもこの場にいる全員を殺してやりたい。人の話を聞かないおろかな子供のせいでもっとも尊敬し、大事に思っているお嬢様をこんなにも馬鹿にされ、貶められてしまった。使用人としてこれ以上の屈辱はない。
(何もしらぬ愚か者ども!!)
お嬢さまがこれまでどれほど努力してきたのか。どれほどの侮蔑の目にさらされてきても、凛と胸を張って目に涙を浮かべながら頑張ってきたのか。
(許せない!許せない!許せない!)
「貴様ぁああ!」
太もものホルダーに隠している短剣を使って目の前にいるルイの喉を掻っ切ろうとした時、自分を止める大好きな人の声が聞こえた。
アリアネスside
「まったく、主人をおいて先に食事に行くなんて!セレーナも声をかけてくれればいいのに!」
(そんなにお腹が空いていたのかしら?)
気づけばひとりで部屋を掃除していたアリアネスはそのままの格好で食堂まで急いでいた。セレーナがいなくなったことに気づいたアリアネスは、その辺を歩いている団員を捕まえて、セレーナの行方を聞いた。しかし、どの団員もまともに返答してくれなかった。しょうがないので答えてくれるまで付きまとうと脅すと、心底嫌そうな顔で食堂に行ったと教えてくれた。
教えられた場所に近づくにつれ、おいしそうな匂いが漂ってきて、思わず早足になる。屋敷にいる時は「淑女であれ」と自分に言い聞かせ、いつでも優雅に歩き、走ることなどなかった。しかし、ここは騎士団。自分の思うように動いていいことが何よりもうれしい。
気になることは食堂と思われる方向から大きな笑い声が聞こえること。どんどん近づくにつれ、その内容がわかってきた。
(あら、またわたくしが馬鹿にされているのね。)
幼少時代から浅黒い肌を持つ女として、ひとりの時は大っぴらに、両親がいる時は控え目に馬鹿にされてきた。本当は父親が娼館にいる東洋の女に産ませた女なのではないかと。実際は冒険家だった母の父親が東洋に出かけた際に一目ぼれした姫をさらって結婚。その特徴が隔世遺伝でアリアネスに引き継がれたものだ。
それを気にしていたこともあったが、ある人の一言で自分の自慢と思うようになり乗り越えられた。
(ちょっと馬鹿にされたくらいで傷つくプライドは持ち合わせていないのよ。)
ゆっくりと優雅にドアを開けてやろうとすると、「貴様ぁああ!」と聞いたこともないセレーナの怒声が響く。
(あららららら!)
これはいけないとあわててドアを蹴破り、セレーナに「やめなさい」と声をかけたのだった。




