入団④
コンコンと部屋をノックする音がする。
部屋の掃除に忙しい主人に代わって、セレーナが「はい。」と返事をして部屋のドアを開けた。
ノックしたのはまだ幼さが残る栗毛の少年だった。
「何か?」
セレーナが聞くと、少年は「はっ、初めましてアリアネス様!」と緊張気味に礼をする。
「じっ、自分は第10支団に今年から入団いたしましたリオンです!アリアネス様を食堂までお連れするよう申し付かりました!」
「そうですか、では…。」
セレーナが鼻歌を歌いながらほこりまみれになっているアリアネスに声をかけようとすると、少年が突然セレーナの腕をとる。
「ちょっと!」
「ではまいりましょう!」
セレーナが文句をいう前に、少年は彼女を外に連れ出してしまった。
「…あら?」
アリアネスがセレーナがいないことに気づいたのは、部屋の掃除がひと段落したころだった。
「ちょっと、離してください!」
「あっ、申し訳ありません!」
人の話を聞かず、ぐんぐんと先に進んでいく少年に食堂まで連れてこられてしまったセレーナが怒りの声を上げる。
「何を勝手に!」
「すっすいません!こんなにもきれいなご婦人を見るのは初めてで緊張してしまいました。さすが伯爵令嬢のアリアネス様です!」
「あなた…。」
何を勘違いしているのと続けようとすると、「何を食堂で騒いでいる」とルイが近づいている。
「ルイ副支団長!アリアネス様をお連れしたのですが、強引に連れてきてしまいまして。それで謝罪をしていたところです。」
「アリアネス様?」
ルイが少年の前にいるセレーナを見て目を丸くする。
「お前にはこいつがアリアネス様に見えたのか?」
ルイが少年に問いかえると、「はい!もうひとり部屋にいましたが、ほこりだらけになって部屋を掃除している使用人しかおりませんでした。あれがセレーナ様になられるんですよね?」
少年が自信満々にいうと、ルイは無言になって下を向いた後、耐えられないとでもいうように突然大声で笑い出した。
「あーはっはっはっ!セレーナよ!お前の大事なお嬢様は一介の使用人に思われたようだぞ。美しさだけが取り柄の女なのに、その見た目も通じないとなれば、もはや何の魅力もない女だな!」
腹を抱えて笑うルイにつられるように、ほかの団員も笑い出し、食堂は盛大な笑い声に包まれた。
「そっ、そんな!あれがアリアネス様なんて!ではあなたがセレーナ様…?」
少年が真っ青になっておそるおそる問いかけてくるがセレーナはその質問に返事をすることはなかった。




