Letter
佐々木有希さま
こんにちは。
どうしても佐々木さんに伝えたいことがあって、手紙を書きます。
あまり話をしたことがない佐々木さんに手紙を書くのは緊張します。これを読んで佐々木さんはどう思うのか、不安でいっぱいです。傷つけてしまうかもしれません。怒らせてしまうかもしれません。
でも、書きます。読んでくれるとうれしいです。
佐々木さんは明るい人だと思います。部活をしている佐々木さんはかっこよくて、見ているだけで清々しい気持ちになります。
教室での佐々木さんは、私と同じでたくさん喋るタイプではないけれど、いつも穏やかな、幸せな顔をしています。佐々木さんの顔を見ると、私も元気になります。クラスで騒いだり、大声で笑ったりしなくても、幸せな人は幸せなんだ。佐々木さんを見て、そう思うことができるようになりました。自分が幸せだと、思うことができるようになりました。
ろくに喋ったこともない人間から、こういうことを言われて佐々木さんが嫌に思わないか、心配です。でも、これが、私が佐々木さんに感じていることです。
あのことを書きます。
佐々木さんにとって思い出したくないことであることは、よく分かっているつもりですが、どうしても伝えたいのです。
先々週の定期試験中にあのことがあってから、佐々木さんを見ると胸が痛くなります。決して勘違いしてほしくないのですが、同情とか哀れみからそう感じているのではありません。私自身が本当に辛いと感じるのです。佐々木さんが辛いということが、私が辛いと感じるのです。
私には佐々木さんが無理をして明るい顔をしていることが分かってしまうからです。気を悪くしたらごめんなさい。失礼な言い方だと思います。でも、分かってしまうのです。
クラスの人におはようと言うとき、勇気を振り絞っている佐々木さん。
あのことをひそひそ話をする声が聞こえてくる時に気にしていないふりをする佐々木さん。
授業で先生にあてられた時、いつもより大きな声で返事をする佐々木さん。
部活でいつもよりがむしゃらにがんばっている佐々木さん。
そして、トイレで泣いていた佐々木さん。
佐々木さんは今辛いんだ。
それが私には伝わります。怒らないでください。佐々木さんが望むまいと、私が望むまいと、伝わってしまうのです。いくら佐々木さんがそうじゃない、気にしていない、辛くないと言ったとしても、そうでないことが私には分かってしまうのです。
辛かったと思います。恥ずかしかったと思います。
そして辛かった、恥ずかしかったということを言えない、ということはもっと辛いことだと思います。
定期試験で佐々木さんに起こったことは、もう起こってしまったことです。でも、今、そのことを辛いと感じることは、誰かに辛いと伝えることで、減らすことができます。もしよかったら、私に話してください。
私の話を書きます。
私も、学校で失敗をしてしまったことがあります。
小学六年生の卒業式の練習で、私は失敗をしてしまいました。
練習中にトイレに行きたくなってしまい、ずっと我慢していましたが、校歌を歌っている時に、我慢ができなくなってしまって、立ったまま、してしまいました。
私はどうしていいかわからず、それでも校歌を歌い続けました。
校歌が終わってから、私の後にいた男子が騒ぎ始め、私は泣きながら担任の先生に連れられて保健室へ行き、下着を貸してもらって体操服に着替えました。卒業式の練習に戻るかと聞かれましたが、私は戻りたくないと泣き続け、そのまま早退して家に帰りました。
そのあと三日間、学校に行くことができませんでした。
ずっと休んでいるわけにもいかず、泣きそうになりながら学校に行きました。からかいの言葉を浴びせる男子もいましたし、女子の友達は慰めの言葉を口にはするものの、「この子は失敗した子なんだ」と思っていることが伝わってきて、心が張り裂けそうでした。
この中学にも、今のクラスにも、その時のクラスメイトがいます。その人達の中では、私は今も「失敗した子」なのかもしれません。
辛いです。
でも、負けない、そう思いました。
佐々木さんがいたからです。
佐々木さんは強い人だと思います。
あの後も、最後まで試験を受けていました。
泣いたりもしませんでした。
次の日もちゃんと学校に来ました。
私にはできないことだと思います。
佐々木さんは強い。
でも、辛いと言っていいんです。
勇気をだして、辛いって言ってください。
私は、佐々木さんと友達になりたいです。
辛いことを辛いと言えて、嬉しいことを嬉しいと言える、そんな友達になりたいです。
畑仲由香より