好きと言うだけの話
新幹線に乗ってる間暇で書いた物です。
単なる思いつきでダラダラと書いていった物で、詰めが甘い所も多々あると思いますが、少しでも暇潰しになれば幸いです。
「ねぇ、僕と君は所謂幼馴染と言う関係にあるんだよね?」
「何を言うかと思ったら、そんなこと?まぁでも、そうね。私と貴方は幼馴染でしょうね。最近はめっきり馴染んでないけれど。」
「うん。高校から違う学校に通う様になって全く逢わなくなったよね。今日は偶然公園で逢ったからこうして話をしているけど、こんな風にするのも、そうだねぇ五年ぶり、位かな?」
「そうね。高校3年間は恐らく一度も会話はしてないし、その後私は東京の大学行っててこっちに帰って来たのも随分久しぶりだから、それ位になるのかしら。」
「うん。君が中々うちに帰って来ないっておじさんが泣いてるって近所で良く噂されてるよ。」
「私にもいろいろ事情があるのよ。それはそうと、さっき貴方は偶然公園で逢ったと言ったけれど、私の記憶と私のスマホの受信履歴が正しいのなら、貴方に来いと言われたから、こんな蒸し暑い夏の夜に、こうしてベンチの上に座ってお尻が痛いのも我慢しながら、貴方と話をしているのだけれど。」
「いやいや、これは偶然だよ。僕さ、すべての事柄とか事象やらには確率があると思うんだよ。こんな風に腕を回すのも、こんな風に声を出すのも、出来て当然のことだけど。それはこれまで生きて経験値を貯めた結果限りなく100に近い確率でその事象を起こす能力があるってだけで、物凄く分母を大きくしていったら、失敗する確率も何分の1かあるはずなんだ。詰まり完全な必然は無いのだから、あるのは偶然ただ一つなんだと僕は僕なりに勝手にこう思うんだ。」
「はぁ、知識の乏しい貴方に教えてあげる。貴方の言う通り必ずという100%を真に表す必然はないのかもしれない。けれど、大体そうなるって感じで蓋然と言うのが他にあるのよ。」
「僕の長ゼリフに使った労力を返して。いや、勿論蓋然と言う言葉は知ってるよ?でもさ、必然と偶然の二つの事を主に考えていたからさ、他の事に目を向けるのを忘れてたというか、それだけで自分の世界は完結していたというか、こういうことってよくあると思うんだ。人間なら。」
「そうね。よくいるのよ。知ってることしか知らない自分の脳味噌だけで議論を展開していって、頭良さげにその自論を人に述べて、でも全然的外れで影ながら笑われている人。」
「まぁ、そんな可哀想な人達の話は置いといてさ、僕と君が今こうして逢ってるのが偶然かどうかの話なんだけど、月並みな言葉だけど君と僕が同じ星に、同じ時代に、ご近所に、こうして生まれて出会ってること自体が奇跡であり、偶然なんだから、君と僕の全ての交わりは偶然と呼べるんじゃないのかな。」
「いきなり話が宇宙並みに飛躍したわね。」
「話は飛躍して、最終的にキャッチボール不可能になるものだよ。」
「もうどうでもいいから早く本題に、今日私をここに呼んで話したかったことを、とっとと話してくれないかしら。私と貴方が幼馴染とかどうとかってのがそれなの?」
「まぁ、待ってよ。久しぶりに遭って、久しぶりにこうして話をしているんだかさ、もう少し旧交を温める為にいろいろ雑談しようよ。」
「それは本題の後からでも良いでしょ。」
「まぁ、そうなんだけどさ。何というか、本題の後に恐らく主に二つの道があるんだけど、どちらに進んでも旧交を温めるのは難しくなると思うんだよ。だから今のうちに、ね。」
「回りくどいわね。貴方ってこんなに回りくどい話をする人だったかしら。さっきの偶然の話もそうだけれど。」
「人ってさ、時間が経つと変わるし、置かれている状況によっても変わるもんなんだよ。」
「ふーん、で、貴方の場合はどちら?」
「んー、両方、かな。」
「そう。」
「そうだね、やっぱり本題に戻ろうか。」
「・・・・・・。」
「僕と君が幼馴染って事はさっき確認したんだけど、僕は君に僕が考える幼馴染とは何かという話を聞いて欲しいんだ。あぁ本題に入るといったけど、厳密にはこれは前置きみたいなものになるんよね。まぁ聞いてよ。」
「分かったから、早く。夜とはいえ夏なんだから。汗ばんで来ちゃったじゃないの。」
「分かった分かった。倒れられたら困るのは僕だからね。いくらここから家まで近くても50kg近い荷物を運ぶのは中々に重労働だから。特に僕みたいなインドア派には、死ねというもんだ。」
「今貴方は暗に私に殺してくれと頼んだのかしら。ごめんなさい、私は直接手を出したくないから、死にたいならインドア派はインドア派らしく飲ドアして死んだらどうかしら。それに私は四捨五入したら40kgよ。アラフォーよ。勝手にアラフィフにしないで頂戴。アラフォーとアラフィフの違いの大きさを知ってたらそんな失言はしないはずよ。恥を知りなさい。」
「ごめん。アラフォーとアラフィフの間を行ったり来たりしてるんだね。だからそんなに怒ってるんだよね。昔からだけど少し冷静さを欠いたら変な事言ってしまう癖、治した方がいいよ。」
「もう帰る」
「ちょ、ごめんって。待って待って。」
「ちょっと、痛いわよ。手を離しなさい。」
「ごめん。全面的に僕が悪かった。もう脱線せずに、本線突き進むから。」
「良いこと?1度脱線したら死よ。ジ・エンドなのよ?たとえ命があったとしても、もう本線を走ることは不可能な車体になってしまうのよ。それじゃあ、私はこれで。」
「あー、もうっ!」
「ちょ?え?き、きゃ!」
「これでもう逃げれないよ。この状態が嫌なら僕の話を聞いてくれるって約束して。」
「あ、貴方、ちょっと、これ普通に犯罪よ?私が叫べば容赦無く貴方の人生が終わるのよ?」
「分かってる。でもどうしても聞いて欲しいんだ。確かに話を横道にそらして行ったのは僕で、こんな事を言うのは傲慢なのかもしれない。でも聞いて欲しいんだ。やっと手に入れたチャンスなんだ。もう横道にそれないから。逃げたりしないから。」
「・・・・・・分かったわ。でも早く私を解放して。この状態は暑いし、恥ずかしいのよ。」
「うん。」
「それで?」
「・・・・幼馴染ってさ、物語というか二次元の世界によく出てくるキャラクター設定だよね?」
「・・・・・・」
「それでさ、割りかしキーパーソンと言うか重要な役柄を任せられていることが多いと思うんだ。」
「まぁ、そうかしら。と言うかこれが貴方が私を辱めてまで話したかったことなの?」
「んー、さっきも言ったけど前置きというか、そんなものなんだけど。それで、まぁ幼馴染キャラって大役をになってるわけなんだけど、こと恋愛物に関して言えば、もうそれは物凄い物になると思うんだ。」
「何が物凄くなるのか、よく分からないけれど。まぁ良いわ。ニュアンス的に何と無く言わんとすることは分かるから。それで?」
「メインヒロインとして描かれる事もしばしば。強力なライバルとして描かれる事も多い。」
「そうね。主人公との歴史が長い分、色々とドラマが生まれると言うか、生みやすいと言うか、便利屋なのよね。使い勝手が良くて安直に話を進められて。」
「う、うん。そう、なのかな?でもさ、これが現実世界になると、めっきり幼馴染の重要度みたいなのが減ってると思うんだ。あ、今更だけどこの場合の幼馴染は勿論異性についてだよ。」
「分かってるわよ。でも、現実と作り物に違いが生じるのは当然と言うか、仮に一緒だとすれば作り物を作る意味が薄くなってしまうわ。」
「わかってる。でも異性の幼馴染自体は思い返せば、居ると言う人は少なくないと思うんだ。僕には君がいる様にそれ自体は珍しいことじゃない。」
「それで?」
「僕は現実の幼馴染も空想の幼馴染みたいに恋愛して欲しいんだ。」
「は?」
「ところで、今度小説家デビューするんだって?」
「え?な、いきなり、というかどうして?」
「おじさん、おばさんも知ってるよ。大学も行ってないんでしょ?学校の事とか、友人関係とか詳しく聞かれたら困るから帰省もしなかった。この前編集者の何てらさんから電話があったらしいよ。二人とも最初戸惑ってる風だったけど、何だかんだ嬉しそうで、近所に自慢してるんだよ。いつ本人からカミングアウトしてくれるか待ってるんじゃない?」
「そう、だったんだ。」
「話は戻る、と言うかドッキングするんだけど。要するに僕は、君に幼馴染の恋愛物語をいっぱい書いて世に広めて欲しいんだ。」
「ごめんなさい。少し私の中で出来てた良い感じの雰囲気がぶち壊しになったし、何を言っているのか全く分からないのだけれど」
「よく言われる事だけど、人間ってメディアに影響されやすいじゃない?」
「また、話が飛躍してついていけないわ。」
「絵本の中の王子様に女の子は憧れ、漫画に出て来る様なナイスバディの女性に男の子は鼻を伸ばし、ドラマの様な恋愛をしたいと世の若者は夢見る。メディアに影響された結果と言えないとは言えないよね。」
「まぁ、ね。」
「今だって確かに、よく登場する幼馴染キャラは人気を得ていて、影響が無いというわけではないと思う。でもさ、まだ足りないんだよ。それこそさっきの話じゃあないけど、確率のニュアンス的には偶然ではなく、蓋然ぐらいに、いやそこまで行かないにしても、今よりもっと高確率で幼馴染の異性同士は恋愛関係になって欲しいんだ。」
「それで?」
「だから君が幼馴染を前面に押し出した形の物語を沢山沢山書いて、それらが人気を博してドラマや映画、アニメ、漫画なんかになって、幼馴染最高みたいな流行を作ってさ。そんな世の中に僕は君にして欲しいんだ。」
「貴方って本当に馬鹿ね。そもそもっ、「ごめん話はまだ続いて、こっからが僕が本当に言いたいことで、やっと前置きが終わったんだ。たから君の言葉を遮らせてもらうよ。」
「何よ?」
「小説家ってリアリティが結構重要だろう?それで、可能なら書くことについて経験しおいた方が良いんでしょ?」
「それはね。当然、読者の共感を得るには必要でしょうね。」
「僕と君は幼馴染として色んな事を体験して来たよね。笑ったり、喧嘩したり、慰めあったり、小さい頃は一緒にお風呂だって入ったし、僕は君に朝起こしてもらったこともある。君の手料理も食べたこともある。でも、」
「でも?」
「でもまだ、僕たちは恋愛をしてないんだ。君に書いて欲しい物語の重要なシーンをまだ実体験として書くことができないんだ。だから、、、」
「・・・・・・」
「僕と付き合って恋人関係になって、そしていつか結婚して欲しいんだ。」
「・・・・・・」
「そうすればよりハイクオリティな幼馴染の恋愛物語を書くことができると思うんだ。だから、その、どうかな?」
「・・・・・・」
「お、幼馴染同士か結婚するケースが増えたら離婚率が減って少子化問題も軽減すると思う。ほら、お互いの事よく知ってるしさ。ね?それに、お互いの地元で完結しやすいから両親の世話なんかも出来てさ、ね?あとはー、」
「はぁ。」
「な、なに?」
「貴方って本当に馬鹿と言うかなんと言うか。想像力豊かなのは認めるけれど。それで一つ良いかしら?」
「うん。なんでも聞いて。僕の話はもう終わったから。」
「貴方が私と付き合いたいのは、あくまでその幼馴染萌え世界?みたいのを作るためなの?それとも、その、私のことが好きだから、なの?かしら?」
「あ、うん。ぶっちゃけ幼馴染云々はどうでもいいんだ。君のことが好きだ。もう殆ど言った様な物だから、開き直れるんだけどさ。なんと言うか、好きっていう二文字言うのにここまで回り道しないと言えなかったんだよ。」
「はぁ、本当に回りくどかったわ。それに言っている事がめちゃくちゃだったし。いくら貴方のいう流行がきたって、幼馴染同士だって他人同士なんだから、そんなに上手く行く訳がないじゃない。それに私主に推理物希望で、どうしても恋愛方面は二の次になるでしょうし。」
「あ、そうなんだ。」
「でもまぁ、そうね。恋愛を織り交ぜることもあるでしょうから、その時には貴方の言う通り実体験があった方が良いでしょうから、その、付き合って、あげても良いわよ。」
「え、ほんと!?」
「いえ、違うわね。」
「え・・・・・・。」
「い、いや違うの。違っているのが貴方の思っているのとは違う、てことかしら?あーもう、貴方のせいで私まで回りくどい喋り方しか出来なくなったじゃない。」
「ど、どういうことですか?」
「だから、その、小説家として取材として貴方と付き合ってあげると言うのが違うのであって、その、私は何と言うか一人の女、として貴方とっ、え!?」
「ごめん。君が最後まで言うの待てなかった。もう分かったから。」
「ばか」
「いいね。そのばか。萌えって感じ。と言うか今は抱き締めてもさっきみたいに文句言わないんだね。」
「うるさいわね。人は状況によって変わるんでしょ?」
「うん。そうだ。で、君は今どんな状況なの?」
「意地悪ね。貴方そんなに性格悪かったかしら。」
「それこそ今のセリフだよ。で、どんな状況なの?」
「さっきまでは、うじうじうじうじ訳の分からないこと言っていたのに。」
「で?」
「言わなきゃ駄目かしら?」
「出来ればね。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「新交を、その、深めたくなったのよ。」
「そっか。」
「そうよ。文句ある?」
「ないよ。今を生み出してくれた、この世の全ての偶然に感謝だよ。」
「そうね」
「でも僕思ったんだけど。」
「何?」
「確かに偶然に感謝はしてるんだけどさ、」
「うん。」
「君とこうであるのは偶然でもなく蓋然でもなく、必然であって欲しいんだ」
「そう。でも必然は無いんじゃなかったかしら?」
「うっ。、じゃ、じゃあさ、この世でたった一つの必然って事にしようよ。」
「ふふ、なにそれ。」
「そりゃあ、世界の法則を無視出来るくらい君が好きってこと。」
「ばーか。ドヤ顔で良い事言った風な顔してる無知な貴方に教えてあげる。人間は色んな言葉を作っていて、ちゃんとこの状況に合うのが有るのよ。」
「何?」
「そらは運命、よ」
「意外性ゼロだったよ。」
「好きよ。」
「ん?あ、僕も。君が好き。」
「意外性のない在り来たりな言葉だけれど、一番相応しい言葉だわ。」
「そんなものかな?」
「そんなものよ。」
最後まで読んで頂きありがとうございます。感想並びにご意見があれば下さると嬉しいです。