表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/200

野生の大陸、自然とともに生きる

 情報通信網が整備され、音より早く情報の伝わる世界でさえもわからないことが多くあり、不自然が、そして不条理が我が物顔で世にはばかっている。

 ましてや剣と魔法、多種族に魔物とファンタジー丸出しのこの異世界で、何もないというのがおかしいだろう。

 だがその不自然を、不条理を、不合理を、そして理不尽を。どうしてそのままでいられようか。


 わけのわからないことも起こるかもしれない。


 未知の領域を見つけるかもしれない。


 前世が無限の可能性が広がっていたが、それを追究する自由がなかったように。この世界もまた、無限の可能性を孕んでいる。


 俺が死ぬまでにどれだけ解体できるだろうか。


 




 リオが話してくれたのは、この世界の世界図変遷の歴史の一部であった。

 その地図を作る話だけでまた一つ、獣人たちに伝わる英雄伝があるのだが、それはまた後日ということになろうか。

 もっと早く気づくべきであったのだ。

 転移門ゲートであちらこちらを飛び回る人間種族にとって、精密な地図を作る力も機会もあったはずがない。

 自身はこの世界の大陸の形に見覚えがあったからこそ、特に迷うことなく目的地まで辿りつくことができた。

 きっと他の人間種族にとっては世界の半分ほどは通ることのない地帯で、世界は点と点で繋がっているのだろう。


「ねえレイルくん。どうして獣人は大陸からあまり出てこないのかな?」


 あまりいろいろ考えることのないアイラだが、思考力こそ同年代の平均を上回る。

 地図の話から浮かび上がる疑問の一つは獣人の習性や文化に深く関わっているのかもしれない。

 確かに人間や魔族の多くは旅をするのに、一番正確な地図を持つ獣人が旅をしないのは不思議なものだ。


「獣人は群れで動くの。あまり群れから離れて動きたがらないの」


「じゃあどうしてリオは流されたんだよ」


「内緒なの」


 恥ずかしげにそっぽを向いたリオのことだ。どうせたいしたことでもあるまい。

 あれだな。獣人が旅をしないのはもしかしたら、「正確な地図を持っている」からこそなのかもしれないな。

 盗賊に襲われたり野垂れ死んだりして地図を他種族に奪われると今まで秘匿してきた意味がなくなる。

 逆に金などの魅力に屈することなく今まで守りきったということは仲間意識の非常に強い種族なのだろう。


 ちょっとだけ不安だ。





 途中で魔物に出会った。

 新大陸で情報も少ないということで、多くの知らない魔物が出てきた。

 大型の魔獣の群れなんかは出なかったのでよかった。

 サーベルタイガーみたいなデカくて強そうな魔獣が来たときには、やべえこいつ超強そう、なんて思ったものだが、近づく前にアイラがヘッドショットを決めてしまった。アーメン。

 腕輪の中に解体してしまっていく手つきも慣れており、血抜きも速い。



 様々な魔物に出会ったが、中でも驚いたのは爬虫類型のある魔物だった。




 俺が見つけたとき、そいつはぐるりと丸まっていた。

 なんだかしっぽがくるんとしていて、背中にギザギザがある。


「なにあれ?」


 ずんぐりむっくりで、草むらにまるで岩のごとくうずくまって動かない。だけどその視線は確かに俺たちをとらえて離さない。


「えっ? 何かいる?」


「匂いはするの」


「気配はあるんだけどどこにいるんだ?」


「気をつけて。どこから来るかわからないわ」


 四人とも頓珍漢なことを言っていて、俺の方が「はあ?」となった。

 え? お前らあれ見えないの?

 と空間把握を切ってようやくわかった。なるほど、これは見えない。

 俺が見たのは見事なまでに保護色をとったカメレオンのような魔物だったのだ。

 前世のようなチャチな保護色ではない。もはや透明化といって差し支えないほどに風景に溶け込んでいた。

 波魔法で光を操ったりもしてるのかね。

 俺は波魔法と空間把握でその場に隠れた透明の暗殺者をあぶりだしてみんなにも見えるようにした。


「うわー」


 驚いたのはアイラである。


「見えない魔物がいるなんて……」


「わかってても見えないんじゃあやりにくくってしかたねえな」


 大きさはさほど大きくなく、80センチメートルといったところか。

 見えるカメレオンは脅威ではない。

 討伐は赤子の手をひねるようなものであった。






「ねえ、リオちゃん。助けたときに海岸に流れついたって言ったけど、あれ、本当は嘘」


 俺が誤魔化した嘘をあっさりとアイラがバラしてしまった。

 まあいいか。


「そうなの?」


「うん。私たちのお友達のクラーケンが拾ってきて私たちに預けたんだよ」


 うわあ。本当のことなのにうそくさい。リオは信じてくれそうだが。


「へー。アイラたちって本当、友達が多いの」


 クラーケンを友と呼ぶことに違和感も躊躇いもないが、あいつ自身は俺たちに忠誠を誓っているので関係としては飼い主とペットといったところになるか。

 関係に名前をつけるというのはやや馬鹿らしい気もするが、きっちりと距離の線引きをすることは大切だと思う。







 ◇

 空間把握を薄く広げて、人里のありそうな場所を探す。

 見つけたそこに向かってまっすぐと歩いていくことで、俺たちは最短距離で獣人の国とも集落とも言える場所へとやってきた。

 建物は自然を活かしたものが多く、文明レベルで言えば人間の方が高いだろうが、木々の間に見える自然と一体化した家々はなんとも風情がある。

 俺たちは全員揃ってフードをかぶるという不審者丸出しの、いや隠してるんだけどとにかく不審者の格好で里を歩いた。

 頭の上に子供ぐらいの大きさのカゴをのせて歩く女性、木を登り、飛び回る子供たち……身体能力に差はあれど普通に暮らしていた。


「うわぁ……」


「すっげえな。どうなってるんだ?」


 もう木としか言えないような店や、蔦でできた洗濯物を干すロープなど、とことん植物を利用している。


 木の上にある家もあったりして、この国の住宅事情がちょっぴり気になった。


「俺たちは頭を隠してるけど、人間ってバレてないのか?」


「えっ? 隠してたつもりだったの?」


 きょとんと返すリオ。

 わかってたなら言ってくれよ。


「やっぱバレてるよなぁ……さっきから周りの人の目が白いと思ったよ」


「鼻がいいから?」


 そうか。獣人は五感が鋭いんだよな。匂いでバレバレだった。


「うちがいるから信頼されてるの」


 よかった。

 イヌのおまわりさんはとんでこないんだね。

 名前もおうちもすっとぼけるなんて嫌だぞ。

 まさか異世界に来てまでおまわりさんを怖がるハメになるとは……あ、別に前世でおまわりさんを怖がらなきゃならないような人間だったわけじゃあないぜ? 人畜無害で善良な一般人だったからな。


「リオの家はどこ?」


 ああそうだった。

 肝心の目的を忘れていた。


「あれなの」


 リオが指差したのは、ここらの中でも最も大きな建物であった。


次回、リオの家族と会えるのか?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ