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少女の目覚め

獣人少女があらわれた!

獣人少女はこちらをうかがっている。


→戦う

逃げる

脅かす

舐める

飛びつく

モフモフする

 鈍い音が鳴り響く。

 突然のことに三人は止められずにその様子を眺めていた。

 頬に痛みが走り、ようやく何が起こっていることを理解した。


「何よあんたっ!」


 起き上がった猫耳ちゃんは思いっきり俺をぶん殴った。

 よけることもできたかもしれないがよけなかった。というのは言い訳だろうか。避けることができても避けなかっただろう、というのが本当か。

 空間把握をしていても目の前にいる子の不意打ちには弱い。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をしてこちらを睨む。

 そりゃあ今まで衰弱してたのにいきなり激しい動きをすれば息も切れるわな。


「レイルくんに何をっ……」


「やめろって」


 懐(腕輪)から拳銃を取り出して銃口を向けるアイラを止める。

 それじゃあ脅しにはならないし、殺すのはナシだ。


「ねえ、落ち着いて。貴女はこの大陸まで流されて、私たちが保護したの。味方よ」


 味方よ、という最後のセリフからして嘘臭いし、別の大陸まで流されるというのも信憑性に欠ける。

 だが獣人というものは自分の身体能力に自信があるのか、流されてきたというその言葉だけは疑うことがなかった。


「どうしてうちを助けてなんかくれるのかわからないの。売る気?」


 フーッと毛が逆立っているかのように見える。

 猫の獣人にはそんな体の構造があるのだろうか。


「そうか……! こうやって私を油断させて他の獣人を捕まえるつもりなの!」


 どうやらこのお嬢さんは賢い類の獣人らしい。これぐらい警戒心は持った方がいいな。どこぞの誰かに見習わせたいものだ。


「レイルくんに手を出すなら……敵」


 射殺せそうな眼光を向け続けるアイラ。お前獣人は嫌いじゃなかっただろ。


「ご、ごめんなさいなの」


 その明らかな殺意にビクリと肩を震わせて謝る彼女。心底悪人というわけでもないのか、それとも自分の状況を把握できたのか。


「あのさあ。お前を捕まえたいなら寝てる間に縛ってるっつーの。しかもお前の寝かされてる場所見てみろ? そんな上等な寝床のある家を国の真ん中に持ってるなんて盗賊や人攫い稼業の荒くれじゃあり得ないだろ?」


 ロウの冷静な指摘を受けて自分の居場所と周囲の人間を見渡す。

 人間とはいえまだ同じ年齢ほどの若い男女に警戒を緩めた。

 だが完全には心を許したというわけでもなさそうだ。


「はあ……味方じゃなくてもいいよ。逃げたければ逃がしてやるし、ここにしばらく置いてくれって言うなら置いてやる。俺らはどうせこれから王城へと友達に会いにいくしな。その間にでも決めろ」


 俺はそれだけ言って、メイドさんを呼んだ。メイドさんが来るまで出かける準備をして三人に行こうと合図した。

 部屋を後にしようとした時、後ろから裾を掴まれた。


「待って」


 掴んだのは猫耳っ娘だった。

 自分で自分のした行動に戸惑っているようだ。

 無理もない。ついさっきまで敵視していた相手が部屋から出て行こうというのを自身の手で止めたのだ。

 言いたいことを言いあぐねているようだ。

 視線を横に彷徨わせて、ばつが悪そうにもごもごとしている。その視線に合わせて耳まで動いていることは気づかせてやった方がいいのか。それともそういうものでみんなそうなのか。

 不覚にも萌えてしまったのはアイラには内緒だ。


「えーっと……そう、見張りなの! お前はうちを攫うような悪い奴だから悪いことをしないか見張りについていく! さっきのことは謝るの。だからうちもついていきたいの」

「お、おう」


 どうやらこの子もだいぶ頭が残念な子のようだ、とは言わない。

 彼女は彼女なりに考えた結果だろう。

 見知らぬ大陸、見知らぬ国。周りは異種族の人間ばかり。そんな状況で一人屋敷でメイドに世話されているのも不安なのかもしれない。

 少なくとも俺たちが直接助けた人間だと思っているわけだから、俺たちについていけば酷い目にはあいにくいと思ったのもあるだろう。

 いざとなれば屋外の方が逃げ出しやすいという策略もあるだろうか。

 なんにせよここに残されて軟禁されるなんてたまったもんじゃないよな。


「俺はレイルだ」

「へ?」

「私はアイラ。おとなしくしててよ」

「ロウだ」

「カグヤよ」

「名前だよ名前。これから連れていくのに呼ぶ名前もわからなければ呼びにくいだろ? 別に信じられないなら偽名でもいいぜ? とにかく呼べればいいからな」


 名乗るときに偽名でも構わないとは異例の自己紹介である。

 俺たちは名前を偽るほど邪悪な人間ではないので包み隠さず本名を伝えた。


「…………リオ」

「リオ?」

「リオ・モーテンなの。私も全部言ったからレイルたちも全部言って」

「ああ。悪い。俺以外はないんだよな。俺はレイル・グレイだ。人間では家の名があるような人か功績や身分で苗字を与えられた人しかないんだよ」


 冒険者組合ギルドの長を務めるぐらいになると、身分の問題で苗字を与えられることがある。

 基本的に呼び間違えられるような広い規模で名前が売れるようになるとつけられることが多い。

 もしかしたらカグヤはあるかもな。でもロウは名前自体あまりないみたいだからなんとも言えないな。

 そこらを突っ込むのはヤボってもんだ。


「ふーん。レイル、アイラ、カグヤ、ロウ。助けてくれたことには感謝してるの。いきなり殴ってごめんなさい、ありがとうなの。でも信じたわけじゃないから」


 ジト目なのは強がりみたいなものだろう。

 助けられて心細いから同年代と一緒にいたいというのもあるだろうし。

 そりゃあ起きたら周りが知らない人だらけならパニックも起こすか。別にこれがむさ苦しいおっさんとかじゃないから許してやるよ。

 その後のツンデレ風味なのも新鮮でよかったし。


「さっきのは水に流してやるよ。じゃあ俺たちは出るから着替えてもらえるか?」


 王城に行くのに冒険者の格好でも構わないかもしれないが、さすがに流されてきたときのボロい格好はダメかもしれない。

 女性陣を残してロウと二人、部屋の外へと出た。









 ◇

 ここはどこだとか、人間の国はみんなこんな感じなのかとかリオにいろいろと聞かれながら王城へとやってきた俺たち。


「えっ?! なにこれ?」


 明らかに周りと違う建物、周囲を警備している兵士など見慣れぬ異様な風景にリオが困っている。


「聞いてなかったのか? 今からいくのは王城だって」

「友達に会いに行くって!」

「だから俺らの友達っつーのは王子様だよ」


 王城ってのを聞いてなかったんだな。友達という単語で気軽についてきたわけだ。


「ちょっと! うち帰る!」

「観念しろ」


 獣人特有の俊足で逃げ出そうとしたリオを短距離転移ショートワープで追いかけ回り込んで首根っこを掴む。

 おとなげない、と責めるような目のカグヤは無視だ無視。


「ちょ! 離して!」


 リオをずーるずーると引きずっていく様をアイラが何故かドヤ顔で見ていた。いや、あの顔はざまあ!といったところか。目が合うとビシッと親指を上に立ててやったね!と示す。人の不幸に嬉しげなのはいったい誰に似たというのか。

 決して俺は女の子を引きずっていくのが楽しいとか思っているわけではない。これは仕方なくやっているのだ、仕方なく。


「ちょっと待て! 貴様ら止まれ!」


 何故か王城の警備兵に止められ……ってそりゃあそうだよな。

 アポもなしに俺らみたいなのが城に入ろうとすれば止めるよな。

 こんなときのために勇者候補証明のこれがあるんだよな。

 ヒモの先には独特の金属の細工と防水加工がされた紙があって、その紙には俺の名前に年齢、素性などいろいろな個人情報が記されている。

 首からかけて服の中にしまってあるのだが、使うことは滅多にないし、役に立つことはもっと稀だ。


「勇者候補だろうがそんな奴を入れようとはどういうことだ。その薄汚い獣はよければここで繋いでやるから入れるのはやめておけ。…………勇者候補? レイル・グレイ、だと?」


 俺の顔を見て何かを思い出したように記憶を探る彼に俺は優しく微笑みかけた。


「いいじゃないですか。魔族とだって友好条約が結べたんだから獣人の一人ぐらい」


 彼女を奴隷と間違えたことは百歩譲って許してやろう。

 だがもしそうならそんな理由で俺のツレを入城拒否とはえらくなったもんだな、兵士さんよ。

 俺はあくまで穏便にことを運ぶために優しく、紳士的に話しかけたはず。

 だが俺の勇者候補許可の名前と顔を再度見直すと顔を盛大にひきつらせた。

 一歩近づくとびくっと足を後ろに引いて下がった。


「わわわわかりました。申し訳ございません!」


 何故か慌てて門を開けた門番さん。

 そんなあっさりでこちらは助かるが大丈夫なのだろうか。


「ねえ、レイルってやっぱり酷い人?」


 そんなリオの疑問を今更と言うこともなく無視して俺たちは王城へと入っていった。

誤解って主人公がするにはもどかしいけど人がしているのを見るのは楽しいですよね。

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